目覚めた瞬間に私は知っていた。

私が、有澤舞花として、生きていかなければならないことを。

そして、それ以上のことを、私は何も知らなかった。


目を開けると、ここが自室ではないことはすぐにわかった。

自室の天井には、一人暮らしを始めた時に張り切って貼り付けた蓄光の星形ステッカーが貼られている。

年齢を重ねるにつれ好むようになったカントリー調のインテリアを、徐々に買い揃えた室内には不釣り合いな天井なのだが、当時の気持ちを思うと剥がすことが出来ずにいる。

毎朝、「やっぱり合わない」と思うにも関わらずだ。


隣に気配を感じ、私は身構えた。

有澤舞花にとっての、彼氏あるいは夫か誰かなのだろうか。

横を見て確かめるのが怖かったので、仰向けのまま、五感をフルに使って、状況を飲み込もうと試みた。

シーツを撫でてみると、パリッとノリが効いていた。

洗濯をサボりがちな我が家と違うのはもちろんだが、一般の家庭でもここまではしないだろう。

また、室内にはこれと言って不快な匂いは感じられなかった。

私が一夜を共にすることがある男性たちからは、個人差はあれど、朝になると多かれ少なかれ加齢臭が漂う。

愛用のアロマスティックの香りのようなものも感じられなかったし、晩酌中に眠ってしまった翌日に発生している食べ物の匂いもしてはいなかった。