楽しい時間はあっという間に過ぎるものだ。


「帰り、少し歩こうか?」

よっしゃ!と先に立った風が熟睡の和音を軽々と抱き上げた。

ん~と軽く眉を寄せたが、広い肩に安心して、また、寝息をたてはじめる。
あ!と鈴が手を伸ばしかけ、音に止められた。
きっ!と唇を歪めたのは一瞬の事だった。


並んで歩く川沿いの道は静かだった。
風は体温の高い子供の身体を愛おしく抱き、そんな2人を穏やかに眺めている鈴音。


少し遅れた涼が鈴音と肩を並べる。

「なあ、リンリン、和音って・・・養護院の子じゃないんだよね?」
「違うよ。」
「でも、今まで見たことない子じゃん。どこの子?」
「ん~・・・どう言ったらいいのかな・・・・・」

それだけを告げると、”星に願いを”を口遊む。

(何かやましい事でもあるのかな?まさか・・・リンリンに限って!
でも、音じゃわかんないか?いやいや・・・ないない・・・)

一人で思い悩む涼。


そっと、涼は鈴音の手をつついてみる。
小さいころから手をつなぎたい時にする合図だ。

「しょうがない子だね。」とでも言いたげに微笑むが、
鈴音は涼の手をとった。


鈴音の手は兄として、涼と風を守ってきた。
自分たちより大きかった手が、今はとても小さく感じる。
ただ、温かさは昔から変わらない、変りようがない。

ずっと、守られてきた。
物ごころがつく前に両親を亡くし、親の温かい手を知らない双子にとって、
年の離れた兄の手は、心安らぐ愛すべきぬくもりだ。
でも、なんでだろう。何だか気分が落ちて行く。


「和音って、可愛いでしょ。良い子なんだよ。」

呟くように言われ、涼は気づく。

(あ、こんな子供に嫉妬したんだ。)

そう思うと、なんだか、むかむかしてきた。

大人げない事は分っている。
いつまでも仲良し兄弟で、自分だけを愛してくれる兄でいる事など不可能だとも分っている。
お互いいつかは自分たちの家族を持ち、愛しむ者が変わってくることも知っている。


(嫌だな、なんか言わなくても良い事言っちゃいそうだ。)


「リンリン、ちょっと俺、ケイちゃんの店寄ってくわ。」

えっ!と突然の言葉に目を見張る。

「そう、行っておいで。でも、遅くなっても泊まりにおいでよ。
明日はみんなでいつものようにブランチしようね。」
「うん、分った。行ってくる。」
「はい。行って帰り!」


ははは、なんだそれ!と笑って見せたけど、微苦笑であると自覚する。

(俺、帰れっかな?)