マイトシップが人種を超えて広がっているのは事実だが、マイ
トシップという言葉は本当の友人関係というものをわかりにくく
してしまう危険性もある。
オージーの学生は、
「ハウヤーゴーイン、マイト?(調子どう?)」
とか、
「グッドオンヤー、マイト!(良く頑張ったね!)」
と、気軽にマイトと呼んでくれるが、それで本当に友達になっ
たと勘違いしてはならない。
「アイ・ソット・ユー・ワー・ステューピッド」
友人の「君はバカかと思ってたよ」という一言が、私の留学生
活を大きく変えた。寮で仲良くしていたオージーのマットに自分
が書いたエッセイを見てもらっていた時のこと。私のエッセイを
読んだ後の彼の第一声がこれだった。
私は前日の徹夜の疲れで、彼の言ったことがあまりよく聞き取
れず、「ステューピッド」という言葉の衝撃が頭の中を駆け巡る。
今でもそのときのことを思い出すと、胃が締め付けられる思いが
するほどだ。呆然とする私を見て、彼は、
「アイ・セッド・ユー・ワー・ステューピッド」
と、言い直した。過去形だった。私の論文を読む前までは、バ
カかと思っていたというのだ。
「君はいつもニコニコしていて、うなずいてばかり。自分の意見
を持っていないんだと思っていたよ。でも、やればできるんじゃ
ないか」
と、続けた。
英語のミスは何か所か指摘されたが、
「エッセイの論理展開ができている」
と、誉めてくれた。誉めてもらって嬉しいことは嬉しかったが、
正直喜べなかった。自分では普通に仲良くしているつもりだった
のに、彼には友達として認められていなかったからだ。ものすご
く落ち込んだのを覚えている。
「ステューピッド」という言葉の衝撃は、私のその後の態度を大
きく変えた。
「自分ではわかっていても、表に出さなくては何も人には伝わら
ないんだ」
ということに初めて気付かされたのだ。それからはどんなにさ
さいなことでも、自分の興味のあることや疑問などを前面に押し
出すようになった。