コメント


「クリティカル・シンキング」
という言葉は、どの授業でも教授やチューターが強調していた。
エッセイを書く上で、最も重要なキーワードなのだ。「Critical
Thinking」は、批判的な思考を指す。


エッセイでは、自分の考えを主観的に述べるのではなくて、出
題されたエッセイのトピックを、多角的な観点から批判的に分析
することが求められる。留学中に私が書いたエッセイの中で最も
多かった課題は、
「Aという概念について論ぜよ(ディスカス)」
というもの。この場合には、ただAという概念を詳細に説明す
るのではなくて、その概念はどういう問題を内包しているかを分
析しなくてはならない。さらに、その概念を支持する議論とそれ
に対立する議論を分析することが求められる。


「Discuss」という言葉どおり、一人でディスカッションやディ
ベートをしているつもりで、いろいろな側面を分析したうえで、
自分の立場を主張していくというやり方だ。


「Aという事象を分析せよ(アナライズ)」
という出題では、Aという事象の根底にある概念や問題点をい
くつかの要素に分解して、論ずることも有効だ。「Analyze」と聞
いても、私はなかなか「分解」と結びつかなかったが、広辞苑で
も、分析(analysis)は「ある物事を分解して、それを成立させ
ている成分・要素・側面を明らかにすること」と定義されている。


「例証せよ(イラストレート)」
という場合は、ある概念の解釈を分かりやすい例を用いながら
検証するという説明的要素が多い課題だ。
「焦点、論理展開、論拠の3要素が評価の対象です」
「知識があることをアピールしようとして、関係のない議論や論
拠をいくら書き並べても、ポイントにはなりません。あくまでも
一貫性を持って、出題トピックに「レレバント」な論理展開をし
ていくこと」
と、エッセイの評価基準は、明確に説明される。


「Relevant」は、クリティカル・シンキングに次いで、重要な
キーワード。「問題と密接な関連がある」、「妥当な」という意味だ。
エッセイを書くには、まず出題されたトピックを徹底的に理解
しなくてはならない。的外れな回答では、評価されないからだ。


トピックに焦点を絞って、論理展開していく必要がある。脱線す
ると見当外れな議論、
「イレレバント・アーギュメント」
と、指摘されてしまう。ジェンダーの授業のチューターのコメ
ントでは、
「潜在的には脱線の要素がある箇所が、全体の議論にうまく統合
されている」
と、評価されている。くれぐれも、脱線には注意したい。


また、議論に説得力をもたせるには、エビデンス(論拠)が必
要になる。統計的な資料や具体例、研究者の論文などで自分の議
論をサポートするのだ。これらの論拠も自分の議論を裏付けるた
めの一貫性のあるものでなければならない。


次ページに、実際私が提出したエッセイに対するチューターか
らのコメントを掲載する。チューターがじっくりとエッセイを読
んでくれて、フィードバックをくれるので、一方的な講義とは異
なって、非常に勉強になる。


どちらのチューターのコメントでも、
「Coherent Task:首尾一貫したタスク」
「To Bear on the Topic:トピックに関連付けて」
「Integrated into Discussion:議論に統合されて」
と、一貫性のある議論が重視されている。


また、エッセイの構成や結論のオリジナリティに加え、広範な
文献、幅広い議論なども評価対象であることがわかる。次は、
エッセイの構成について見ていきたい。