シナリオ「鈴鏡刀ノ海蝕」のネタバレを含みます。シナリオの購入はこちら→https://booth.pm/ja/items/1689127 

バイーン。バイーン。バイーン。一定のリズムで、何かが弾けるような音が近づいてくる。私は近づいてくるものが、何かわかっていた。私の上司だ。上司は、ロボットではない。普通の人間だ。ただ普通でないところが、一箇所だけある。それはお腹だ。上司はとても恰幅がいい。いい感じに段ができている。上司が歩く度に、その段が揺れる。そして、お互いにぶつかる。ぶつかる際に生じる音が、このバイーンバイーンだ。バイーンバイーンが、私のデスクの横で止まった。だが、私はキーボードを打つ手を止めなかった。記事を打つのに集中している振りをした。上司が私に用がある時は、たいてい何かの頼み事なことが多い。私は今、いくつかの取材と原稿を抱えていて、手一杯なのだ。できることならば、引き受けたくなかった。「都賀崎くぅーん。おーい、都賀崎くぅーん。」上司が、妙にハイトーンな調子で私の名前を呼んだ。私は手を止めて、上司を見た。こんなにはっきり呼ばれてしまっては、流石に無視を決め込むわけにはいかなかった。上司は、汗だくだった。社内の冷房はかなり低めに設定されていて、私なんかは凍えそうなぐらいなのにだ。「はい。何でしょうか?福世加さん。」「いや〜、いつもながらのことなんだけどさ〜。都賀崎くんに、ちょっと頼みたいことがあるんだよね〜。」「またですか〜。」「いや、まあさ。そう言わないで、聞いてよ。実はさ、早乙女くんが進めていた件なんだけどさ。ほら彼、先日ケガしちゃったじゃない?」「そうでしたね。なんでも長引きそうだとか聞きました。」「そうなのよ〜。それでさ、来週、海辺にある海子町ってところで行われる神楽のさ、取材に行けなくなっちゃったのよ〜。」「へー、神楽ですか?」「そうなのよ。それでさ、その時に使われる神器の一つに、なんと立派な刀があるというじゃない。」その時、私の眉がぴくっと反応した。その反応を、福世加さんは見逃さなかった。「ほらさ、ほらさ。興味あるでしょ〜。ね、ね、都賀崎くん、刀に目がないもんね〜。どう見に行ってみないかな。」
明らかにうまく乗せられている気はしたが、私は興奮した。私は、刀の美しさに魅入られた人間なのだ。特に、あの切っ先のカーブがたまらない。だからこそ日本の伝統文化を扱う雑誌「るーるぶっく」の記者になり、だからこそ剣道の修行に励んでいるのだ。古来より伝わる宝刀を拝めるチャンスとなれば、何をおいても行かなければならない。「いいですよ。行きます。1人ですか?」「いや、他に同行者を2人頼んであるんだよ〜。1人は、民俗学者の中山雄大さん。若いのに、学会で論文を発表しまくってるホープだよ〜。知っとるかね?」「もちろんです。お会いしたことはありませんが、かなり学識のある方と聞いています。もう1人は?」「それがね〜。聞いて驚きなさんな。あの天才イケメン神楽師の佐藤浩くんなんだよ〜。」「へ〜、あの現役高校生で、めちゃめちゃ綺麗に舞うって評判の佐藤くんですか。アイドル並に、メディアにもよく出てますよね。そんな大物達を、よくブッキングできましたね。」「そりゃあもう、半年前から頼んであるからね〜。それに、今回の町のお祭りは、今までどこも取り扱ったことがないんだよ〜。だから、中山さんも、佐藤さんも、乗り気になってくれてさ〜。」ここで、私は一抹の不安を覚えた。今までどこも取り扱ってないというのは、もしかして町の人が望んでないからでは。もしそうならば、非常にやりにくい取材ということになる。私の表情が曇ったのか、福世加さんは察して言った。「大丈夫だよ〜。町の人は協力的だからさ〜。神社の巫女さんも、自ら案内してくれることになってるから〜。」私は安堵するとともに、一瞬でこちらの気持ちを見抜く福世加さんに少し緊張を覚えた。体は油断しまくっている人だが、この人に油断してはいけないなと改めて思った。「じゃあさ〜、後で資料送っとくから。と言っても文献なんかは少ないからさ、ほとんど取材の行程表みたいなもんだけどね〜。いや〜、しかし、暑いね〜。」「そんなに暑いなら、冷房の温度を下げたらどうですか?」「ダメだよ〜。女子社員達、みんな膝掛けしてるからね〜。エアコンのスイッチの前に近づくだけで、睨まれちゃうよ〜。」
バイーン。バイーン。バイーン。来る時と同じ音をさせながら、福世加さんは遠ざかっていった。取材当日、私達は出発駅の改札で待ち合わせた。事前にメールのやり取りや顔写真を送り合っていたから、迷うことはなかった。駅弁コーナーでもろもろ選んでから、電車に乗り込む。道中、私は2人から取材に参加する経緯を聞いた。「半年前に、福世加さんから電話がありまして。」というのは、中山さん。「最初は、ぼくの師事している教授に依頼があったんですがね。ちょうど海外に出張があるということで、ぼくが代わりに行くことになりました。まだ研究されていない伝承が残っているようなので、楽しみです。」事前に読んだ彼のインタビュー記事通り、真面目な中にも情熱的な面を秘めているようだ。ちなみにインタビューでは、「分析で、過去は見える!」と熱く語っていた。佐藤さんのところには、電話ではなく、福世加さんが直接頼みに来たそうだ。佐藤さんはまだ16なのに各地の神楽の研究に余念がなく、海子の舞を見てみたいという思いから引き受けたそうだが、決定打となったポイントが面白かった。「うちの神社の前には、階段が20段あるんです。福世加さんが登って来られる時、とてもしんどそうにされていたので、つい、はいと返事してしまいました。」そう話す佐藤さんの笑顔には、嫌味なところは微塵も感じられなかった。福世加さんの死にかけた姿が目に浮かぶが、あの人の場合、それがリアルかもしれないし、頼みごとをしやすくするための作戦かもしれなかった。佐藤さんが続ける。「帰る時は、こうおっしゃってました。階段って登るより、降りの方がきついんだよなぁ。転がっていった方が早いかなぁ、と。もちろん冗談だとは思ったんですが、本気かもしれないとも思ったので、手を引いて差し上げました。」優しいイケメン。これは人気が出るわけだ。そうこうしているうちに、電車は海子駅に着いた。海子駅には、約束通り海子神社の巫女が迎えに来てくれていた。
「こんにちは。ようこそ海子町へ。お待ちしておりました。私は海子神社の巫女で、海野ヒカリと言います。今回は、私が案内させていただきますね。」ヒカリさんは、明るい笑顔で声をかけてくれた。年の頃は、佐藤さんと同じぐらいだろうか。佐藤さんに負けじ劣らず、端正な顔立ちをしている。神社の巫女服を着ていたが、とてもしっくりときていた。私達も、それぞれ挨拶を返した。ヒカリさんは、きょろきょろと辺りを見回す。海子駅はやや高台にあり、海へと続くなだらかな道を眺めることができた。ホームに降り立った時から、ずっと磯の香りがしている。「あっ、来た!」ヒカリさんが、小さな駅舎に向かってくる一台のバンを指差した。「あれが今晩の皆さんのお宿の車です。」バンは私達の前に停まり、1人の漁師風の男が降りてきた。「待たせたな!」男はヒカリさんに向かってそう言うと、私達に向き直った。「海子町へようこそ。私は、今日から皆さんのお泊りになる旅館あしあと亭の主人で、こげおという者です。お荷物を預かりにきました。」こげおさんはバンのスライドドアを開いて、私達の大きな荷物を積み入れてくれた。そして、「では、ごゆっくり海子の町を巡ってください。美味しい夕食を用意して、お待ちしております。」と言うと、バンを運転して、来た道を戻って行った。「美味しい夕食というのは楽しみですね。この辺りだと、やはり海産物ですか?」と中山さんが尋ねると、「そうですね。アジ・カツオ・タイ・アナゴ、それにシラスなんかが獲れますね。」とヒカリさんが答えた。私達3人は、いかにも楽しみだという顔を見合わせた。「それでは、神社までご案内いたします。道すがら海辺も通りますので、そこに設置されている神楽殿もご紹介しますね。」ヒカリさんが、海辺へと下る道を先頭に立って歩き始める。神楽殿と聞いて興味をそそられたのか、佐藤さんがすぐにその後に続く。私と中山さんはカメラを構えて、町の風景を撮影しながら歩いた。道端では明らかに漁師とわかる男達が、提灯を組み立てる作業をしている。海子祭が、町をあげての大イベントであることが伝わってきた。
海岸には、きれいな砂浜が広がっていた。その先には遠浅の海が繋がっていて、また改めてプライベートでも来たいなと思わせる美しい光景だった。砂浜の一角に、素人目にも立派だとわかる神楽殿が立っている。私が近寄って造りを調べたり、撮影をしたりしていると、佐藤さんとヒカリさんが楽屋らしき場所に入っていくのが見えた。しばらくすると、神楽殿の舞台の上に白装束に着替えた佐藤さんが出てきた。「とても素敵な舞台でしたので、厚かましくも一舞させていただくことにしました。」と、佐藤さんがはにかみながら言った。私と中山さんとヒカリさんは、観覧席の先頭に座った。佐藤さんの踊りはテレビで何度か見たことがあったが、実物はやはり緊張感が違う。佐藤さんが凛々しい顔つきになると、私達以外誰もいない観覧席全体にも張り詰めた空気が流れた。佐藤さんの舞が始まると、ヒカリさんが憧れの眼差しで見ているのがわかった。だが、佐藤さんの舞は、途中で終わってしまった。彼の意思でやめたのではなく、激しい動きの場面で派手に転んでしまったのだ。ヒカリさんが心配して、慌てて舞台に駆け寄る。「大丈夫ですか?」「はい、大丈夫です。ここ、少し床が盛り上がっているみたいですね。」「え?そうなんですか?気づきませんでした。ごめんなさい。いつも舞の練習をしているのに。」「君が舞の練習を?ここで?」「はい。あ、まだ言ってなかったですね。私が海子の舞を踊るんです。だから、今の動きはすごく参考になりました。ありがとうございます。床の盛り上がりは、後で町の人に見てもらうように頼んでおきます。」ヒカリさんが後半を早口で喋ったのは、佐藤さんを気遣っているようであった。佐藤さんは幸いケガをしていなかったが、安全を期して舞はやめることになった。私達は海岸を後にし、神社へと向かった。海子神社は、さほど大きな神社ではなかったが、伝統を感じさせる風情のある佇まいをしていた。礼儀として、まずお参りを済ませる。参拝路の脇道には、お墓が何基か並んでいた。私は何気なく墓石を見ていたが、中山さんが「おや?」と言った。
「ここを見てください。」中山さんは、お墓の1つを掌で指し示した。さすが地域の風習を研究しているだけあって、指差すような無礼なことはしない。「ここ、海野アカリって書かれていますよ。たしか、さっきの巫女の方のお名前は、海野ヒカリさんでしたよね。何か縁のある方なんでしょうか?」中山さんはその素朴な疑問を、ちょうどお墓の前まで来たヒカリさんに尋ねてみることにしたらしい。「あの失礼かとは思うのですが、こちらのお墓の方はヒカリさんのご親族の方でしょうか?」ヒカリさんは少し悲しそうな表情をして、「私の妹です。産まれて、すぐに亡くなってしまったんです。」と言った。中山さんはややうろたえて、謝った。「それは、立ち入ったことをお聞きしました。申し訳ありません。」「いいんです。昔のことですから。さて、みなさん、歩き疲れたでしょう。中に入りましょう。」私達は客間に通され、お茶を振る舞われた。私達が寛いでいると、ヒカリさんが奥の部屋からガチャガチャと音を立てて、何かを運んできた。私は居住まいを正し、ゴクリと唾を飲み込んだ。運ばれてきた物の中に、刀のような物が見えたからだ。中山さんも、隣で座り直していた。中山さんは刀というよりも、運ばれてきた物全部に関心があるのだろう。佐藤さんは寛いでいる時から姿勢は良いままだったので、特に変化はない。ヒカリさんがテーブルの上に、3つの物を置いた。鈴、鏡、刀だった。「これは、当神社に古くから伝わる3つの神器です。今から当神社の神話をお話しようかと思うのですが、よろしいですか?」ヒカリさんの言葉に、3人は、ええとか、ぜひとか添えて頷いた。ヒカリさんは頷き返し、語り始めた。「大昔のお話です。海から巨大な化け物が現れて、この辺りを襲ったそうです。その化け物は黒いウネウネした体を持ち、眼だけは赤く光っていました。この辺りの村々は、ほぼ壊滅状態になりました。そんな時、編笠を被った黄金色の瞳をした旅人が通りがかったそうです。旅人は、化け物のことをころもだこと呼び、倒す方法があると告げました。すると、当神社の巫女が倒し手として名乗りをあげたそうです。」
ヒカリさんは神器の1つ1つを持ち上げながら、丁寧に解説をした。「巫女は鈴で結界を張り、鏡でころもだこの隠された心の臓を照らし出し、それをこの刀で1突きにしたそうです。化け物は海に退散しましたが、巫女は波に呑まれて帰って来なかったと言われています。ただ、数日後、神器だけは浜辺に流れ着いたと伝わっているので、これはその時の物だと信じられているのです。よろしければ、どうぞ手に取ってご覧ください。」私は勧められるがままに、刀を手にした。中山さんは鏡を、佐藤さんは鈴を手にする。私は許可を得てから、刀を鞘から抜いた。ところどころ刃こぼれしていたが、立派な刀だった。私はうっとりしながら刀身をくまなく眺めた後、柄に目を移した。柄には、何か文字のようなものが彫られていた。よく読もうとしたが、どうも日本語ではないらしい。それに、ところどころ掠れていた。私は中山さんに、柄の部分を見せながら聞いた。「これ文字でしょうか?読めますか?」「ああ、これはラテン文字ですね。えーと、前半部分は掠れていて読めませんが、後半は、を信仰する、と書かれています。」「つまり、◯◯を信仰すると書かれているわけですね。」中山さんが鏡の裏にも何か書かれていないか、裏返そうとしたその時だった。チカッ!チカッ!鏡が光ったかと思うと、その光が私達3人を包んだ。気付くと、私は海にいた。海辺ではない。海面でもない。海中でもない。海の底の底の方だ。とても瞑かった。周りに生物はいない。しかし、なぜだかここは海の底だと感じるのだ。海の底ではあるが、私の体はまだまだ沈んでいく感覚があった。溟く淋しい場所へと。ガバッ!私は起き上がった。上半身を起こすと、そこはさっきの客間だった。両隣に、中山さんと佐藤さんが寝ている。いや、気を失っているのか。私は2人を揺すった。2人が目を覚ます。「あれ?ここは?あ、さっきの部屋ですね。おかしいな。ぼく、海の底にいたのに。」「佐藤君もですか?実は、私もさっきまで、海の底にいました。」「中山さんも佐藤さんも、見たんですね。実は私もなんです。あれは夢だったんでしょうか。」
私達が何とも言いようのない表情を交わしていると、渡り廊下を誰かが歩いてくる足音がした。「ヒ、ヒカリさんでしょうか?」中山さんが小声で言う。「かなりドタドタ歩いているから、違うかもしれません。どうしましょう。隠れますか?」と私が提案するのと同時に、客間の障子がガラッと開けられた。「なんだー!お前達はー!一体どこから入ったんだー!」障子を開けた主は、いきなり叫んだ。女の子だった。年齢は、ヒカリさんと同じぐらいか、いや少し下だろうか。そして、どことなく顔つきも似ている。佐藤さんが、恐る恐る口を開いた。「あの、ぼくたちここでヒカリさんに、この神器を見せてもらっていたのですが。」「お、なんだ?お姉ちゃんを知ってるのか?」「お姉さんですか?」「うん。ヒカリお姉ちゃんだろ?」「あの、すみません。あなたのお名前は?」「ん?おれか?おれは、海野アカリだ。」困惑で、佐藤さんが無言になった。中山さんが、会話を引き取る。「あの、確かアカリさんは亡くなったはずでは?」「おお、そうだぞ。おれは、もう死んでるんだ。」「えーと、、、」「ここは、生と死の狭間の世界。おれは死んでから、ずっとここで暮らしてるんだ。ところでお前達、どうやってここに来たんだ?」「それが、私達もよくわからないんです。私がこの鏡をひっくり返そうとしたら、突然光って、突然ここに。」「ふーん、そうなのか。じゃあ、もう1度ひっくり返してみたら、どうなんだ?」「あ、なるほど。確かに、そうですね。よっ。よっ。よっ。ダメですね。何も起きません。どうしたらいいんでしょうか?」「そうか。悪いな!戻り方はわかんないな。おっちゃんなら、何かわかるかもしれないけど。」「おっちゃんですか?」「ああ、この世界は、私の他に変なおっちゃんがいるんだよ。たまに、ぶらりとやってくるんだよな〜。ここが生と死の狭間の世界だと教えてくれたのもおっちゃんだから、来たら聞いてみなよ。それまで、どこか調べてみるか?」「いいんですか?」「ああ、まあ、聞いた感じ嘘でもなさそうだからな。いいぞ。」私達は、一度神社の外に出てみることにした。
神社の外は、元いた世界と何ら変わることがなかった。思わずヒカリさんとアカリさんが示し合わせて、私達をからかっているのかと思ったぐらいだ。中山さんが思い立って、参拝路の脇道のお墓の墓碑銘を調べたが、そこには海野アカリと書かれていた。なるほど。海野ヒカリと書かれている可能性を考えたのだろう。拝殿の前に戻ってきた私達は、小さな違いを2つ見つけた。1つは、拝殿の中の御神体の隣に人型の像が置いてあったことだ。編笠を被っていて、異国風の顔つきをしている。今度は佐藤さんが思い立って、アカリさんに質問をした。「あの、たまに来るおっちゃんというのは、こんな感じの方なのかな?」「あ、お、おう、そうだな。似てると言えば、似てるかな。」もう1つは、拝殿の下足箱に木刀が数本かかっていることだ。「これは、なかなか使い込まれていますね。」と私が木刀を取り青眼に構えると、アカリさんが、おーと大声をあげた。「お前、なかなか強そうだな。いつもおっちゃんに稽古してもらってるけど、おっちゃんより強そうだぞ。」「ほう。あなたがこれを使ってるんですか?では、1つお手合わせいたしましょう。」境内で、急に剣術指南が始まった。せいや!やー!どりゃあー!とかけ声が、入り乱れる。「はあはあはあ。どうだ?おれの剣は?少しはイケているか?」「そうですね、、、」私は、何と答えようかちょっと迷った。お世辞気味に誉めて、アカリさんの気分を良くすることも考えたが、結局素直に感じたままを伝えることにした。アカリさんの私を見つめる眼差しから、何か真剣なものを受け取ったからであった。「そうですね。筋はいいと思います。構え方も様になっています。あまり隙が見当たりませんでした。ただ、いかんせん体つきと力が乏しいですね。木刀ならまだしも、本物の刀を扱うのはまだ早いですね。だから、遊び半分で振り回してはいけませんよ。」「そうか。ありがとう。隠さずに言ってくれて。」アカリさんは、悲しげな目つきで微笑んだ。
次に、神社の中を調べることにした。元の世界では、客間以外の部屋には行っていない。他の場所を調べて、神器について何かわかれば、戻る方法も判明する可能性があった。私達は、書斎に入った。ここの蔵書について、アカリさんに尋ねたが、彼女は頭をかきながら、「ここの本は、おれには難しくて読めないんだよ。だから、わからん。」と返されてしまった。私達は片っ端から、本をめくっていった。時間がかなりかかることを予想していたが、中山さんの文献に対する嗅覚が素晴らしく、神社の伝承に関する古文書のようなものを早々に発見することができた。古文書には、ヒカリさんが語ったことの他にも、いくつか新しく知る情報が書かれていた。私達は、それらをメモにまとめてみた。①鈴は一定のリズムを正しく踏むことで、結界が生じる。②鏡は魂を抜き取る力があり、角度が重要である。③手順を守らずに、刀を使用しても意味がない。古文書には説明とは別に、絵もついていた。巫女と思しき人物が、ころもだこと思しき化け物と対峙している場面だ。メモを取り終えてみて、私達は落胆した。どの情報も取材内容としては有益であったが、元の世界に戻るための手がかりにはなりそうにもなかった。強いて言えば、鏡は魂を抜き取る力があるというくだりぐらいだろうか。私達は、今魂のような存在なのかもしれないと想像ができた。書斎を後にした私達は、アカリさんの部屋へと入った。年頃の女の子だから、やんわりと断られるかなと予想していたが、すんなり通された。そもそも最初から感じていたことだが、喋り方も見た目と比べると、かなり幼い印象がある。その理由は、部屋の机の上を見て明らかになった。机の上には、小学1年生の国語の教科書とノートが置いてあった。ノートには、たどたどしい文字が書かれている。私は、教科書の裏面を見た。名前の欄には、海野ヒカリと書いてある。それを見た佐藤さんが、ごめんねと断ってから、クローゼットの扉を開けた。ハンガーには巫女服の他に、アカリのサイズよりも大きい女の子の服がかかっている。
私達は顔を突き合わせて、ひそひそ話をするように会話をした。「あの子は、生まれてすぐに亡くなったと言っていました。」「亡くなってから、ずっとこの世界で1人で生きてきたのでしょうか。言葉も、自分で覚えたのかもしれません。」「彼女の寂しさを想うと、神様に祈りを捧げたくなります。」「もしかしたら、ここは元の世界ではヒカリさんの部屋なのかもしれません。彼女の物がここにあるのが、それを物語っています。」机の上には勉強道具の他にも、卓上鏡があった。特に気になったわけではなかったが、鏡の中を覗き込んだ私は、はからずも短い悲鳴をあげてしまった。他の2人とアカリさんが何事かと、一緒に覗き込む。わっ!と中山さん。えっ!と佐藤さん。アカリさんが呑気な調子で笑う。「あ、お姉ちゃんが映ってる。」アカリさんの言った通り、鏡の中ではヒカリさんが部屋を歩き回る様子が映っていた。中山さんが、慎重に聞いた。「アカリさん。あまり驚いていないようだけど、いつもお姉ちゃんが映っているのかい?」「うん?いつもじゃないぞ。たまに映るんだ。」「お姉ちゃんは、鏡の中で何をしているのかな?」「うーん、その時によって違うな。勉強したり本を読んだり、踊ったり眠ったりしてるな。あ、でも、たまーに、鏡を見ている私が見えているみたいに、じっと見つめてくることもあるぞ。この鏡で、お姉ちゃんが見れるから、私は寂しくないんだ。」さっきの内緒話を聞いていたかのような発言に、私は一瞬どきりとした。けれどもアカリさんの次の言葉に、救われた気持ちになった。「なあ、お前達、腹が空かないか?台所に行こう。」私達は誘われるがままに、台所へと移動する。台所の扉を開けようとすると、中から異様な音が聞こえてきた。ずるるるる。ずるるるる。私達は緊張で身を固くしたが、アカリさんは「あー、また来てるなー。」と豪快に引き戸を引いた。「お、邪魔してるぜ。」台所の真ん中のテーブルで、編笠を被ったままの男がそばを啜っていた。
「おっちゃん、おまえー。また緑のたぬきばかり、こんなに食べてー。持ってくるのは、おれなんだぞ。」「なんだ、アカリ、ケチくさいことを言うなよ。町のお店から持ってくるだけじゃないか。お店の棚だって、翌日には勝手に補充されてるんだからさ。」「缶詰と違って、緑のたぬきは嵩張るんだよー。だから、いっぺんに持ってくるのは大変なんだぞ!」やり取りから察するに、ここの世界では食料は缶詰とかレトルト食品で賄っているようだ。しかも、勝手に補充されてる?現実世界と、連動してるのだろうか?台所の端には、空の缶詰の山が大量に置かれている。先ほどアカリは寂しくないみたいなことを言っていたが、これらを1人で食べている姿を想像すると、やはり悲しい気がした。しつこくぎゃーぎゃー言い合っている2人の間に割って入って、中山さんが核心をつく。「あの、あなたは、例の古文書に出てくる黄金色の瞳を持つ旅人ですか?」「さ、さあ、なんのことかな?」男は、編笠を深くかぶり直す。中山さんは、追求を諦めない。「この世界は、どうなってるんですか。あの化け物は、いったい何なのですか?」「ふーむ、どうやら君達は、この海子町に興味があるようだね。だが、なぜかね。見たところ、君達は町の人間ではないようだが。」「確かに、私達は海子町の人間ではありません。でも、ここまで巻き込まれたら、真実を知りたいです。」「ふん、知ってどうするね?なら、話そう。昔、巫女が退けたころもだこという化け物は、実は明日復活するんだ。そして、この町を襲う。巫女は命を投げ打って、あの化け物を追い払った。それほど強大なものを相手に、君達が何かできるのか?君達が命を捨てて、化け物と戦うのか?」私達は、みんな押し黙った。沈黙は、1分ほど続いた。私は、重い口を開いた。「正直なところ、私は死にたくないです。でも、海子町の人々を放っておくこともできません。」中山さんと佐藤さんも、頷いてくれた。男は右手で顔を押さえたかと思うと、途端に笑い出した。「あーっはっはっはっはっは。なるほど。なるほど。お前さん達の気持ちは、よくわかったよ。では、これをやろう。」男はテーブルの上の大量の緑のたぬきの器を横に押しやって、ゴトリと音を立てて何かを置いた。
それは、黄金色に輝く腕輪のようだった。佐藤さんが慎重に手を出して、引き寄せる。しかし、すぐに中山さんに手渡した。「刀の柄にあったのと同じ文字が彫られているようです。ラテン語ではないでしょうか?」「うん。これは確かにラテン語だね。えーと、古き神の守護の腕輪って書いてあるね。守護の腕輪ということは、何かから守ってくれるということでしょうか?」中山さんは男に尋ねたが、もはや台所に男はいなかった。私達が腕輪に気を取られている間に、逃げるように去ってしまったようだ。「君は、知っていたの?」私が聞くと、アカリさんは「ん?何をだ?」と聞き返してきた。「もちろん、化け物が明日襲ってくることをだよ。」「ああ、知ってたぞ。おっちゃんが教えてくれたからな。」「それで、平気なのかい?」今度は、アカリさんが黙ってしまった。アカリさんは緑のたぬきの空の容器を片付けながら、「それで、お前達は何を食うんだ?缶詰やレトルト食品なら、大体あるぞ。」と話を変えた。「じゃあ、ぼくは赤いきつねで。」と、佐藤さんが乗った。アカリさんから、無理に聞き出すことはできないと感じたのかもしれない。中山さんも乗る。「私は、完全メシがいいな。あるかな?」「おお、あるぞ。お前は、どうするんだ?」私も乗ることにして、サバ缶を頼んだ。食後、アカリさんが浜辺に行くというので、ついていくことにした。浜辺に着くと、アカリさんは神器の鈴を持ち、神楽殿の舞台で踊り始めた。独特な動きの踊りだった。しばらくじっと見ていた佐藤さんが無言で舞台に上がり、アカリさんの横で同じ動きをした。「お前、うまいな。すごい滑らかなところが、鏡の中のお姉ちゃんそっくりだ。綺麗なのは、顔だけじゃないんだな。」「ありがとう。もっと、腰を意識して踊ってみるといいと思うよ。」「こうか?」「そうそう。飲み込みがいいね。」シャン。シャン。シャン。シャン。夕日が落ちる浜辺に、鈴の音がいつまでも響いていた。
その夜、私達はもう一度、古文書を丹念に調べてみた。だが、昼間調べた以上のことは分からなかった。鏡の項を何度読み返しても、元の世界に戻る方法は書いていない。ただ、現実の世界と魂の世界を行き来する時、手に持っている物は持って行くことができるらしい。だいぶ夜も更けて来たので、そろそろ寝ようかと声をかけ合った時、表に人の気配がした。私達は、そーっと表に出た。神社の境内の町をよく見下ろせる場所に、誰かが立っている。近寄ってみると、アカリだった。アカリが何かを呟きながら、誰もいない町を見下ろしている。さらに近付いてみると、それは呟きではなく泣いている声だと分かった。「誰だ!」アカリが私達に気づいて、振り向いた。「なんだ、お前達か。」「なんで泣いているんだい?」佐藤さんが、優しく聞いた。「おれは、おれは、この町を守りたいんだ。生まれてから、町の人に会ったことはないけど、鏡の中のお姉ちゃんは見てきた。だから、お姉ちゃんのいるこの町を守りたい!だけど、うまくできる自信がないんだ。」「大丈夫だよ。ぼく達がついているから。」佐藤さんが、アカリの頭を撫でた。「お、おう。ありがとうな。でも、、、」アカリは少し言い淀んでから、「さあ、もう寝よう。」と急に話を切った。翌朝、海の方の空は例えようもなく暗かった。私達が境内から眺めていると、突然ブオオオオオオオオオッという大気を揺るがすほどのうめき声が聞こえた。地面が震える。海を見ると、海面がみるみるうちに上昇していく。それがいきなり割れたかと思うと、中から巨大な化け物が現れた。まるで、1つの山ぐらいの大きさはあるだろうか。私達は急いで、神社の中の客間に戻った。そして、愕然とした。起きた時には、まだ置いてあった筈の神器がないのだ。私達は不安を押し殺しながら、境内へと戻る。見えた!アカリだ!アカリが神器を持ちながら、浜辺へと走って行く。「私達も行きましょう!」中山さんがそう言った時には、3人とも走っていた。慌てていたので、私達は途中何度も転びそうになった。
3人とも見事に階段を踏み外し、宙を舞った。はっと気づいた時には、私達は客間の畳の上に寝ていた。体を起こしてテーブルの上を見ると、神器が3つとも全て置いてあった。タタタタタタタ。渡り廊下を、軽やかな足音が近付いてくるのが聞こえた。「あ、良かった。気がついたんですね。3人とも急に気を失ってずっと目を覚まさないから、どうしようかと思ってたんです。」ほっとしたような笑顔を見せたのは、ヒカリさんだった。「あの、実は、アカリさんが、、、」私が言いかけると、ゴゴゴゴゴゴゴゴと地響きが鳴った。ヒカリさんと私達は神社の境内に出る。私はさりげなく、神器も一緒に持って出た。海面が波打っている。明らかに何かの存在を表すかのごとく、海にぽっかりと大きな穴が空いていた。けれども、あちらの世界で見た化け物は見えなかった。浜辺の松の木がすごい勢いで、薙ぎ倒されていく。私達は、再び海に向かって走った。浜辺では、ビュンビュンビュンビュンと何かがうねる音が聞こえる。しかし、やはり何も見えなかった。音を跳ね返すように、中山さんが声を張り上げる。「おそらくですがー。あちらの世界でないとー。あの化け物は見えないしー。退治できないんじゃー。ないでしょうかー。一か八かー。鏡をー。使ってみましょー。もう1度ー。あちらの世界にー。行けるかもしれませんー。」「そうですねー。でもー。中山さんもー。佐藤さんもー。いいんですかー。」「ぼくはー。行きたいです!アカリさんにー。ついてるってー。約束しましたからー。」私は鏡を中山さんに、鈴を佐藤さんに渡した。自分は、刀をしっかりと握りしめる。中山さんが鏡を操作する。チカッ。チカッ。鏡が光って、私はまたあの深い海に沈んでゆく感覚を味わった。私達は、変わらず浜辺に立っていた。変わっているものが、2つだけあった。化け物の姿がはっきりと見えて、もはやすぐそばまで来ていること。その化け物の前に、神器を携えて対峙するアカリが見えたことだ。よし!中山さんが成功したぞ!さすが、考古学者だ!私達も、各々自分の手を見ると、神器をちゃんと持っていた。
「お前達ー。なんで来たんだー。せっかく隠れて出てきたと思ったのにー。」アカリが叫ぶ。「それにー。それは、神器?なんでー?」さあ、ここからは順番が大事だ。まずは、佐藤さんが鈴を持って、アカリから見て学んだだけの海子の舞を踊る。天才イケメン神楽師の動きは、淀みなかった。いや、この際イケメンは関係ないか。キラキラと私達の周囲に、幕ができ始める。後もう一歩というところだった。佐藤さんが砂に足を取られて、派手に転んでしまった。白装束に、思いっきり砂をかぶってしまう。中山さんはすでに十分に計算された角度で鏡を当てる準備ができていたし、私はいつでも突きを放てるように構えていたが、佐藤さんが仕切り直すまで待つことになった。アカリはアカリで、なかなかうまく舞うことができずに、じりじりと後退している。佐藤さんが、改めて舞を行う。今度は、うまくいった。キラキラとした幕が、私達4人を包み込む。中山さんが、鏡で化け物を映し出した。化け物が奇妙な動きをして、何やら脈打つものがはっきりと視認できた。私は精神を統一する。短い気合いとともに、その脈打つもの目がけて突きを放った。化け物が大きな唸り声をあげる。波がざあーっと引き、合わせて化け物も海へと引いていく。引き波が収まった瞬間、浜辺一帯を飲み込まんばかりの大波が巻き上がった。「アカリー!」私はアカリを呼んで、黄金の腕輪を投げた。せめてアカリだけでも、助かってもらいたい。直後、アカリと私達は波に呑み込まれた。ごぽごぽと泡立つ海中で、今度こそ本当に死ぬのかなと考えたが、すぐに意識は途絶えた。次に意識が戻った時、私の体は砂浜の上で横たわっていた。よろけながら立ち上がると、すぐそばに中山さんと佐藤さんが倒れていた。のろのろと歩み寄って、その体に触れてみると、2人とも生きていることが確かめられた。私が体をゆすると、2人とも目覚めた。私達はお互いに苦笑いをしながら、抱き合って生還を喜んだ。それから、広い砂浜を見回した。無惨な姿になっている松の木や打ち上げられたゴミの類の他に、見えるものはなかった。
立派だった神楽殿は、打ち砕かれて瓦礫の山と化していた。誰1人、走る余力が残っている者はいなかった。足を引き摺りながら、砂浜を歩いて回った。中山さんは、木の切れ端を杖のようにしていた。ごみの山の中から、3種の神器が1つずつ見つかった。しかし、肝心なものが見つからない。私達は、諦めずに探し回った。元神楽殿だった瓦礫の山を、力を振り絞って一周した。すると、3種の神器をもう1つずつ見つけることができた。神器は、それぞれ離れた所に落ちていた。はじめに、刀。次に、鏡。最後に、鈴。丁寧に拾い集めていく。佐藤さんが鈴を拾おうとすると、なぜか思うように取れなかった。鈴の落ちている隣に木が山のように重なっているので、おそらくそのうちの1つに引っかかっているのかもしれない。佐藤さんが、ぐっと力を込めて引っ張ると、木の山が「いてー!」と喋った。佐藤さんが思わず鈴を手から離して、尻もちをつく。私達はハッとした表情を見交わし、それから笑顔になり、急いで木をどかしにかかった。急いではいたが、慎重にどかしていく。2つの大きな板がバランス良く重なり合って、一番下に空洞を作っている状態まで掘り起こすことができた。私と中山さんが板を1枚ずつ両手で持ち、せーので持ち上げた。アカリが出てきた。見た感じ、どこも傷ついている様子はない。アカリは仰向けに寝たまま、私達を見るとニッと笑った。「なんだ。おれも助かったのか。おれはどうせ死んでるから、別にどうでも良かったのに。」「ついてるって、約束したからね。」佐藤さんがアカリを抱き起こす。「ありがとうな。お前達。おれ1人じゃ、たぶん無理だったよ。」「なんで、1人で行こうとしたんだい?ぼくも中山さんも都賀崎さんも、みんな覚悟はできていたのに。」「おっちゃんからなー、聞いていたからなー。」「何をだい?」「あの化け物を追い払った者は、溟い海の底でずっとずっと過ごさなければならないってさ。でも、どうして助かったんだろう。この腕輪の力なのか?」
アカリは、黄金の腕輪を高く持ち上げた。砂がパラパラと、アカリの顔にかかった。「まあ、いいや。これでお姉ちゃんも町も助かっただろうから、安心して成仏できるぞ。おっと、悲しまなくていいぞ。溟い海の底で過ごすよりは、ぜんぜんマシなんだからな。じゃあな。お姉ちゃんによろしく。」アカリが両手を横に広げると、アカリの姿が途端に薄くなったように感じた。アカリは微笑みながら、すーーーっと音を立てずに消えていった。佐藤さんが目を閉じて合掌したので、私も中山さんもそれに倣った。しばらく祈ったのち、私はゆっくりと目を開けた。アカリはもういなかった。代わりに、ヒカリさんが覗き込んでいる。「あ、良かった。気づいたんですね。」ヒカリさんが、またほっとした。どうやら私達は、元の世界の浜辺に戻ってきたようだ。私達は、ヒカリさんに昨日の客間から起きた出来事を、全て話した。話しながら、自分達でも本当にあったことなのか疑いたくなるぐらいだったので、信じてもらえなくても仕方なかった。だが、ヒカリさんは途中で、何度も真剣に頷いていた。話を聞き終わると、「私、いつもどこかでアカリの存在を感じていたんです。だから、すごくよくわかりました。そうだったんですね。アカリが、私を、この町を守ってくれたんだ。そして、皆さんも。どうも、ありがとうございました。」と言った。それから私達4人は、アカリのお墓の前に行き、深い祈りを捧げた。拝殿に、緑のたぬきを供えることも忘れなかった。(完)