ぼくは飼い猫だ。世の中の猫の中には、飼い猫を馬鹿にするやつもいるけど、ぼくはそんなのは気にしない。だって、エサの心配をしなくていい。寒い思いをしなくていい。何より、飼い主の愛情をたっぷり受けられるのだから。ぼくの飼い主はリサちゃん。小学校というところに行っているらしい。人間の年だと、12才とかなんとか。とにかくぼくのことをかわいがってくれる。まあ、当然だろう。なんといっても、ぼくのかわいさは半端じゃない。灰色と黒の短いが美しい毛並みを持っている。リサちゃんのお父さんが言っていたが、ぼくはマンチカンという種類らしい。つぶらな瞳も、ぼくの持ち味だ。リサちゃんは、いつもぼくのことを呼んでいる。「ムクー、ムクー。」ムク、これがぼくの名前だ。ニャーん。ぼくは愛らしさをたっぷりこめて、返事をする。ぼくは幸せ一杯だ。でも、そんなリサちゃんも夜になると眠ってしまう。そうすると、ちょっぴりさみしい。だから、ぼくは猫の集会に行く。今日の集会は、広場で行われる。ぼくは、ブロック塀の上をゆっくり歩いていく。広場を見下ろすと、先に来ていたやまとこが電信柱の周りをくるくると回っている。やまとこは猫じゃない。いや、本人は猫のつもりでいるが姿や形は紙だ。ぴらぴらしている。夜の猫には、こうした変わったやつもいる。不思議と昼間は見かけないが、夜になるとまるで何かに迷っているかのように現れるのだ。ナリはおかしいが、やまとこはいい猫だ。野良猫のボスこげおの集会からの付き合いだが、マンチカンのかわいらしさを教えるぼくを恩猫だと思っているようだ。時に電信柱に貼り付いては、またくるくると回るやまとこをポカンと口を開けて見ている3匹がいた。最近、親元を離れて野良猫になった黒猫のじじと、頭からはっぱが生えている猫はっぱ、後1匹は見たことがなかった。
すごいニャすごいニャと3匹は、口々に言っている。どうしたらそんなことができるニャとはっぱが聞いている。私もやってみたいニャと見慣れない猫が言っている。「お待たせニャ。」ぼくは塀から飛び降りて、夢中になっている3匹の後ろから声をかけた。しかし、3匹は振り向かず、まだやまとこを囃し立てている。以前のぼくは寂しがり屋でかまちょだったので、ここで怒っていただろう。こっちを見るニャーとか言って、グー手でみんなをちょいちょいちょいちょいしていたかもしれない。だが、ぼくは前の事件で少し変わったのだ。ぼくはさみしいという感情を乗り越えて、誇りをもって周りの猫達に接するようにしている。がまんして見ていると、くるくるをやめたやまとこが、ぼくに気づいて「あ、ムクさん、こんばんニャー。」と言った。やっぱり、やまとこはいい猫ニャ。じじとはっぱともう1匹が、振り向いた。それぞれにニャーと言う。ぼくもニャーと返すと、はっぱが見慣れぬ猫を紹介した。「さっき会った猫ニャ。もかって言うらしいニャ。集会のことを話したら、ついてきたいというから連れてきたニャ。」「もかニャ。みなさん、よろしくニャ。」もかはぺこりとした。好奇心の強そうな目をしているが、どことなく普通の猫とは違った感じだった。おそらく、もかも迷い猫なのかもしれない。ぼんやりともかを眺めていると、もかのひげがぴんと立った。見ると、じじもはっぱもやまとこも、みんなひげを立てている。ぼくを除いた4匹が警戒するように、広場の入り口を睨んだ。ぼくが相変わらずぼんやりとしていると、じじが入り口に目を向けたままぼそっとつぶやいた。「お母さんが飼い猫はいつも気を抜いているから、にぶいところがあるって言ってたけど、本当だったニャ。」じじは野良猫として独り立ちしたばかりなので、こうした生意気なことを言うこともあるが、不思議と腹は立たなかった。
広場の入り口から、猫達が駆け込んできた。1、2、3、4、5。全部で5匹だ。どの猫も汗だくになって、必死の形相でこちらに走ってくる。ぼくらの前まで来ると、5匹は倒れ込むように止まった。「どうしたニャ?」はっぱともかが同時に聞いた。はぁはぁはぁはぁ。猫達は荒い息遣いを繰り返すばかりで、応える余裕はなさそうだ。「何かあったのかニャ?」そんなのはお構いなしというふうに、はっぱともかがまた同時に聞いた。「お、おれたち、、はぁはぁ、おれたちは、はぁはぁ。」白と黒のぶち猫が頑張って話そうとしてくれているが、なかなか言葉にならない様子だ。「おれたちは、どうしたニャ。」はっぱともかは、ぐいぐいいく。ようやく呼吸が整ってきたのか、ぶち猫が話し始めた。「おれたちは、今日は団地で集会を開いていたんだ。ほら、あのあたりさ、最近、エサくれお姉さんがいるだろう。おれたち、野良猫だけの集団だからさ、ありがたく頂戴してやろうと思ってな。」ぼくは、団地の周辺で猫に優しくしてくれるお姉さんのことを思い浮かべた。じじも心当たりがあるらしく、ふんふんと頷きながら聞いている。ぶち猫が再び息苦しそうにしたので、隣のトラ猫が引き取った。「ところがよー、今日はお姉さんがいなくてよー、仕方なくごみ置き場を漁ってたのよ。そしたら、何か得体の知れないヒト影が迫って来るのを感じるじゃねぇか。ちょうど明かりの向きの関係でよー、よく見えなかったんだが、すごい大声を出してるからよ、もうおれたちびびっちまって。」そこで、灰猫が叫んだ。「あー、もうおれくたくた!なあ、もう今日は解散しようぜ!そういうわけだから、お前たちも、今日は団地に近づかない方がいいぜ。」5匹は、もう散々だったな、しばらく団地はよそうぜなどと言いながら、よたよたと広場から出ていった。
「どうするニャ?」ぼくはしゃべったことをすぐに後悔した。それが聞くまでもないことだったからだ。はっぱももかも、すぐに駆け出しそうに、目をキラキラさせてうずうずしている。じじも興味半分、心配半分という顔で、すでに前足は団地の方角に向いている。やまとこに至っては、すでに風に流されてぴらぴらと飛んでいた。ぼくたちは団地に移動し、ごみ置き場に向かった。前の事件で、ぽむに会った場所だ。入った途端、ガシャんと音がした。振り返ると、ごみ置き場の扉が閉まっていた。ニャー!ぼくは扉の金網になっている部分から、手を出して鳴いた。幸いぼく以外は、ごみ置き場の中に入る前だった。しかし、こっちからいくら押しても、向こう側で引っ張ってもらっても扉は動かない。ぼくたちがニャーニャー鳴いていると、「ムク?そこにいるのはムクでしょ?」と声がした。ニャー!ニャンとリサちゃんだ。偶然にも、リサちゃんが夜のお勉強に行く場所の通り道だったらしい。「はい、ムク。探検もいいけど、あまり危険なところに入っちゃダメよ。」リサちゃんが、扉を開けてくれた。あ、遅れちゃうから、じゃあねと言うと、リサちゃんは走り去っていった。「あれが、飼い主というやつニャ。人間も、たまには役に立つことがあるニャ。」はっぱともかが、リサちゃんの後ろ姿をしげしげと見送った。改めて、手分けしてごみ置き場を調べていると、奥のさらに頑丈な扉の隙間からやまとこがぬっと出てきた。こんな時、やまとこの体は大いに助けになる。出てくるなり、やまとこはピンク色のポーチを投げ出した。「これ、見たことあるニャ。あのエサくれお姉さんが、いつも持っているやつニャ。エサくれお姉さんは、中にいたのかニャ。」じじが気づいて質問をすると、やまとこは体の上半分をひらひらさせた。ぼくはやまとこと多少付き合いがあるからわかるが、これはいいえという意味だ。普通の猫なら、首を振ったというところか。
「いなかったですニャ。でも、これのすぐそばに落ちている物がありましたニャ。大きくて、閉まった扉からは持ち出せなかったですニャ。それは、あれですニャ。あの人間の体の一部ですニャ。だけど、その人間は人間であって、人間じゃないですニャ。そもそも人間なら、体の一部を落とさないですニャ。その人間じゃない人間だからこそ、体の一部を落としますニャ。」ぼくは、じじ、はっぱと頷き合った。いつの間にかニャラティブが始まっている。もかはまだ気づいていないようだが、やまとこの真剣さに真面目に耳を傾けている。「その人間じゃない人間は、あれかニャ。もしかして、少し変なにおいがしないかニャ?」はっぱが尋ねる。「そうニャ!その通りですニャ!少しじゃないですニャ。落ちてる物も、変なにおいがしましたニャ。」「わかったニャ。ごみ置き場に、よく現れる人間ニャ。あの人間はいつも楽しそうで、大人の人間の飲むお酒とかいうにおいがするニャ。」やまとこの説明にもかが閃いたかと思うと、すぐにやまとこが否定する。「それは、多分違いますニャ。その人間は、人間ですニャ。その人間は、体の一部を落とさないですニャ。人間じゃない人間は、もっとひどいにおいがしますニャ。どちらかと言うと、くさいですニャ。」「くさいニャ⁉︎」「くさい人間ニャ?」「くさいくさい人間ニャ?」だんだんとイメージが固まってきた気がする。「それですニャ。あの人間じゃない人間は、遠くからでも腐ったようなにおいがしますニャ。このごみ置き場なんか、目じゃないですニャ。たぶん、腐ってますニャ。だから、体の一部が落ちますニャ。くさい腐ってる人間ですニャ。くさくさ人間ですニャ。」ニャラティブ成功!みんなは笑顔で、いやくさくさ人間の腐ってるにおいを想像してか、若干歪んだ表情で、ニャラティブの成功を喜び合った。
ピンクのポーチとくさくさ人間の体の一部が近くに落ちていたことから考えて、エサくれお姉さんが何かの危険に巻き込まれていることは明白だった。もっと本格的に聞き込みをすることにした集会メンバーは、一度別れることになった。鼻の良いじじとはっぱ、もかは、団地周辺をクンクンする。かなり嫌がっていたが。やまとこは上手に風をつかまえて、上空から団地全域を見渡す。ぼくは飼い猫仲間のモックを訪ねることにした。「ヨオッ!ムク!ヒサシブリ!」303号室のドアをかりかりすると、いつも陽気なモックが出てきた。モックは毛むくじゃらのドラ猫だ。「最近、何してんだ?」「最近は、マンチカンダンスを習得中ニャ。リサちゃんに撮影されてるニャ。」「マンチカンダンスぅ?なんだ、そりゃ?マンチカンじゃなくても、踊れるのか?」「踊れるニャ。こうニャ。」ぼくは、両手を上げて、腰を振った。本当はすぐにでも聞き込みをしたかったのだが、モックが話し好きで近況を伝えないとへそを曲げることを知っていたので、ひとしきり一緒にマンチカンダンスを踊った。その労働の対価と引き換えに得た情報を、団地の小さな公園で落ち合った集会メンバーにニャラティブすることになった。「くさくさ人間は、広場から現れるニャ。広場に置いてある鉄の魔物から出てくるらしいニャ。」「鉄の魔物?道を我が者顔で走っているあの鉄の魔物かニャ?」「そうニャ。」「でも、広場の鉄の魔物って言っても、たくさんあるニャ。鉄の魔物置き場ほどじゃニャいけど。」じじの問いに、ぼくはゆっくりと2回瞬きを返した。「白い鉄の魔物ニャ。そして、ただの鉄の魔物じゃないニャ。人間がその中で寝る鉄の魔物ニャ。」メンバー全員が、耳を立てる。人間が鉄の魔物を操っているところはよく見るけど、人間が寝ているところを見ることはあまりないので、驚いているのだろう。人間が鉄の魔物の中で寝ているのを見たら、その魔物はふらつき、すぐにどこかにぶつかる。猫なら誰でも、知っていることだ。
「寝るって、鉄の魔物の上でかニャ?」もかが尋ねる。「鉄の魔物の上で寝るのは、ぼくらニャ。人間は中で横になって寝るニャ。」その時、はっぱの頭に生えているはっぱが揺れた。「その鉄の魔物のことなら、なんとなく知っているニャ。水が使えるニャ?」「そうニャ。普通の鉄の魔物は水が使えないけど、その鉄の魔物は水が使えるニャ。はっぱ、よく知ってるニャね。」「なぜか、おぼろげながら、頭にその水をかけてもらった記憶があるニャ。そこで、人間はグーグーと寝るニャ。」「そう、グーグーと寝るニャ。鉄の魔物は、ブロロって鳴るニャ。」集会メンバーは1匹1匹が息を大きく吸い込み、同時に言った。『グーグーブロロ、ニャ!』今回も、また成功ニャ。ぼくらは、今夜の集会の初めの集合場所であった広場へと戻ってきた。まずは白いブロロを見つけて、それがグーグーブロロかどうか調べるという手順を確かめ合ってから、二手に別れた。右回りで、じじ、もか、やまとこ。左回りで、はっぱとぼく。はっぱとぼくが一つめの白いブロロの周りをぐるぐるしていると、いきなり頭上から降ってきたものがあった。それは、はっぱのはっぱをぺしっと叩いて、地面に降り立った。「にゃにゃにゃにゃ、にゃにをするニャ!」はっぱが動揺を隠せずに怒鳴りつけたものは、子猫だった。足がくねくねと曲がっている。「その頭の上のものは、何ニャー。楽しいニャー。」くねくね猫は楽しそうにはっぱに聞く。「これは、はっぱニャ。気軽に触っちゃダメニャ。」はっぱは怒っているが、くねくね猫は意に介さず笑い続けている。「集会ニャ?夜回りニャ?楽しそうニャ。ついていくニャ。」はっぱが助けを求めるように、ぼくを見るので、2匹で相談して、この猫を子分にすることにした。喜んで子分になると言うので、改めて名前を聞くと、ないと答えた。また2匹で相談して、ねっこという名前を付けてあげた。
ねっこは広場を根城にしていることが多いと言うので、グーグーブロロの特徴を説明したところ心当たりがあると言う。そこで案内させると、まさしく白のグーグーブロロだった。30歩ほど離れた場所から眺めていると、右回り組がやってきた。そろったはいいものの、誰もグーグーブロロに近づこうとはしない。なぜならば、グーグーブロロから明らかにグーグーでもブロロでもないおかしな音が漏れてくるからだった。じじが勇敢にも前に歩み出た。ぼくも続く。もかも続こうとしたが、その前にはっぱに滑り込まれた。はっぱはねっこの前を歩いて、はっぱに触られたくないのだろう。やまとこは紙なので、文字通りに滑り込んでいる。グーグーブロロまで後数歩というところで、グーグーブロロの後ろのドアが突然開いた。ぐおおおっ!!叫びながら、くさくさ人間が一体飛び出してくる。じじがくさくさ人間に飛びかかる。がぶり。まさか、かみつくとは。くさくさ人間は力一杯もがいたが、じじは執拗にかみついたまま離れない。しばらくもがいたのちに、くさくさ人間は地面に倒れこんだ。「すごい勇気ニャ。」、「まさかの一撃ですニャ。」、「猫パンチじゃなくて、かみつきとは!」メンバーはじじを口々にほめたたえたが、後ずさりしていた。それもそのはず。くさくさ人間は思っていた以上にくさくて、かぶりついたじじの口には肉片がついたため、そこも臭気を放っていた。「ゲホっ!みんな、なんで遠ざかるニャ。ゲホっ!今がチャンスニャ。ゲホっ!グーグーブロロをくわしく調べるニャ。」おえつしながらも、まるで任務を遂行するかのごとく目的に一直線なじじに、ぼくは尊敬の念を覚えた。ひらりとグーグーブロロのドアの開いた所へ乗り込むと、中には青白く光るものがあった。
青白い光は炎に似た形をしていたが、熱さは感じなかった。ぼくはちょいと、前足で触れてみる。何の感触もなかったけれど、どことなく前足が吸い込まれるような気がした。ぼくらはグーグーブロロの前で、会議をした。ぼくがグーグーブロロの中を見ている間に、やまとこがグーグーブロロの下から、人間の女の子が付ける髪飾りを見つけ出していた。じじが言うには、これもあのお姉さんのもののようだ。どうやら、あの青白い光の先には何か別の世界があるらしい。エサくれお姉さんは、そちらの世界に行ってしまったのかもしれない。ここまでは話がまとまったが、さてこの先どうするか。探求心も、優しい人間を助けたい気持ちも、誰しも猫一倍だが、いまいちやる気が出ていないのは、きっとこのくささのせいだろう。色々話し合った結果、満場一致で向こう側に行くことに決まった。ただし、ねっこは残していくことにした。ねっこは当然ついてきたそうにしたが、ぼくとはっぱの説得を素直に聞き入れた。光をくぐる際に背中から聞こえてきた、おいしいご飯を用意して待ってるニャーというねっこの一言は、ちょっと可愛かった。光の先は、なんとくさくさ人間の世界だった。あちらを見てもこちらを見ても、くさくさ人間。ぼくたちはさっと戦闘体制を取ったが、くさくさ人間たちは襲って来なかった。まるで、いつも見ている人間の世界のように、くさくさ人間たちは町中を歩いていた。ただ一つ、この世界はくさかった。なるべく鼻を押さえながら、ゆっくりと歩く集会メンバーらの前に立ちはだかるものがあった。猫だった。だが、その目はちょっと飛び出し、ほっぺはやや崩れかけていた。くさくさ猫だ。油断していたぼくらの真ん中に、くさくさ猫はジャンピングパンチを仕掛けてきた。
「ウォ?ウォまいら、何者だウォ?普通の猫とちょっと違うウォ?怪しいウォ。」くさくさ猫が、焦点の定まらない目で睨みつけてくる。相手をしても良かったのだが、なんだかんだ嫌気がさしていたので、ぼくらは各々回り道をすることにした。その後も、2回ほどくさくさ猫に絡まれた結果わかったことは、くさくさ猫は、猫を敵視してくるということだった。じじもこのことに気づいたのか、ちょっとへこんでいた。「もしかしたら、グーグーブロロから出てきたくさくさ人間は、うなっていただけで、猫を襲う気はなかったかもウォ。あ、間違えた。なかったかもニャ。だとしたら、かわいそうなことをしたウォ。あ、間違えた。したニャ。」そんなじじを、あのままほっといたら、きっと人間を襲ったニャと、もかがなぐさめている。そこへ、別の道から回り道をしてきたはっぱが、ウォーいと興奮しながら走ってきた。みんな、ちょっとウォに影響され過ぎニャと思ったが、はっぱはすぐにニャに戻って言った。「3回も絡まれたニャ。最後は面倒になったから、引っ掻いてやったニャ。そしたら、普通の人間達の目撃情報を持っていたニャ。ニャラティブするニャ。」ここで、宣告ニャラティブ。わかりやすくて、助かるニャ。はっぱが始めた。「普通の人間達は、店にいるニャ。その店は、ごはんが売ってるニャ。その店は、夜中でもごはんを売ってるニャ。もう分かったニャ?」みんなが、こくこくと首を縦にふる。はっぱが得意そうに、「そうニャ。ねむらぬごはんニャ。」ねむらぬごはんは、町に住む猫なら何度も見たことがある。夜中なのに、めちゃめちゃ明るくて、そこから出てくる人間はたまにとてもおいしそうなにおいをさせた小さな器を持っていることがある。ニャラティブ成功となれば、話は早い。煌々と明るい場所を見つければ、いいのニャ。
案の定、ねむらぬごはんはすぐに見つかった。しかし、何か変だ。ねむらぬごはんの勝手に横に開くはずの扉は閉まったままで、その前にくさくさ人間が群がっていた。その集団のせいで店内はよく見えなかったが、どうやら普通の人間が数体いるらしい。「ここは、私の出番ですニャ。」言うが早いか、やまとこがするすると滑り、ぴたりと閉じられた扉のわずかな間を抜けて中に入っていった。と思ったら、またすぐに出てきた。「中には、人間が3体いましたニャ。人間たちは、みんなおびえていましたニャ。おびえているから、お店の壁にあれが立てかけられているのに、気づいていませんでしたニャ。あれは、人間が持ったら、すごいですニャ。バーンとすごい音がしますニャ。何かが飛び散りますニャ。」こんな緊迫した状況にもかかわらず、丁寧な口調でいきなりニャラティブを始めるやまとこ。緊迫した状況過ぎて、なかなかニャラティブに集中できないメンバーもいた。やまとこはニャラティブをあきらめて、また店内へと戻ろうとした。戻る寸前に、「あ、言い忘れましたニャ。中の人間の一人は、ムクさんの飼い主さんでしたニャ。」ニャー!!!ぼくは頭に血がのぼって、フゥーーッとくさくさ人間達を威嚇した。気圧されたくさくさ人間達が、扉から離れる。お店の中が、はっきりと見えた。エサくれお姉さん、黒服の少女、そしてリサちゃんがいた!3人とも、恐怖に染まった表情をしていた。どかなかったくさくさ人間2体が、ぼくを捕まえようと両手を伸ばしてきた。「ムク!」ぼくに気づいたリサちゃんが叫んだ時、ぼくは1体を強烈な猫パンチで倒していた。ぼくはリサちゃんのためなら、力がいつもの倍以上出る。もう1体にもパンチを喰らわせたが、しぶとく立っている。シャー!すかさずじじが、またかみついて倒した。もか、はっぱは敬意の眼差しを送りながらも、二歩下がった。
店内でも動きがあった。さっきニャラティブできなかった物を、直接人間に気づかせるため、やまとこが倒していた。エサくれお姉さんがそれに気づき、床から拾いあげた。手に構えて、先っぽをこちらに向ける。「ニャンちゃん達、そこをどいて。」お姉さんが叫ぶ前に、みんな勢いよく飛び退いていた。ガーン!!大きな音とともに、ガラス製の扉が砕け散った。ニャラティブの時に、色をつけるためのボールだと思っていたはっぱは、少し反応が遅れたが、間一髪のところで避けていた。「あっぶニャー。なんで、あんなものがこんな所にあるニャ!」はっぱはぷんぷんだが、ぼくもそれはそう思う。「行くよ!ほら、ニャンちゃん達も!」見た目の優しそうな印象とは裏腹に強いリーダーシップを発揮して、号令をかけながらダッシュするエサくれお姉さん。黒服の少女、リサちゃんが、その後に続く。ぼくは、リサちゃんと並んで走った。やまとこ、じじ、もか、はっぱも走る。すると、くさくさ人間達が後を追いかけて来た。くさくさ猫もいる。その数はどんどんと増えていき、ゆうに30体は超えている。逃げる。逃げる。さぁ、ようやく青い光が見えてきた。くさくさ人間の手をかいくぐり、1人また1匹と飛び込んでいく。リサちゃんも入った。ぼくも飛び込もうとしたが、さっきリサちゃんへの想いを力に変えてしまったので、思うように体が動かない。もうダメだ。ぼくが捕まるのを覚悟した時、やまとこがぼくの足をすくってくれた。「私はケガをしても、すぐ治りやすい体ですニャー。」と、やまとこ。ぼくは涙が出そうになった。けれども、もう一歩が踏み出せない。せっかくやまとこが助けてくれたのに。ぼくの体にくさくさ人間の指がかかる。がぶり!!なんと、先に光を抜けたはずのじじが、その指を噛んでいた。かろうじて、ぼくは光に届くことができた。
ぼくとじじが出てきたところで、エサくれお姉さんと黒服の少女がグーグーブロロの後ろのドアをバタンとしめた。ふぅ。猫も人も、一息ついた。「ムクー。」リサちゃんがぼくを抱き上げて、全身を撫でつけた。痛いぐらいの力加減だったけど、ぼくは嬉しかった。ねっこが約束通り、ご飯を用意して待っていた。最後の力を振り絞ってくれたじじが、がつがつ食べた。ぼくはそこで気を失ってしまったので、その後どうやってみんなが家路についたかはわからなかった。翌日の夜、同じメンバーで集会を開いた。ぼくはそこで、他の集会の猫達にグーグーブロロの危険さを説いて回った。グーグーブロロは、しばらくの間、近隣の猫達の流行語となる。じじは、ねむらぬごはんにいた黒服の少女に妙になつかれてしまったとぼやいていたが、そんなに嫌そうでもなかった。はっぱはねっこにはっぱを狙われ続け、もかはそんなはっぱを守ろうとしている。やまとこは変わらずにひらひらとしているが、ちょっと紙質が変わったかニャ?気のせいかニャ?(完)