ぼくは飼い猫だ。世の中の猫の中には、飼い猫を馬鹿にするやつもいるけど、ぼくはそんなのは気にしない。だって、エサの心配をしなくていい。寒い思いをしなくていい。何より、飼い主の愛情をたっぷり受けられるのだから。ぼくの飼い主はリサちゃん。小学校というところに行っているらしい。人間の年だと、12才とかなんとか。とにかくぼくのことをかわいがってくれる。まあ、当然だろう。なんといっても、ぼくのかわいさは半端じゃない。灰色と黒の短いが美しい毛並みを持っている。リサちゃんのお父さんが言っていたが、ぼくはマンチカンという種類らしい。つぶらな瞳も、ぼくの持ち味だ。リサちゃんは、いつもぼくのことを呼んでいる。「ムクー、ムクー。」ムク、これがぼくの名前だ。ニャーん。ぼくは愛らしさをたっぷりこめて、返事をする。ぼくは幸せ一杯だ。でも、そんなリサちゃんも夜になると眠ってしまう。そうすると、ちょっぴりさみしい。だから、ぼくは猫の集会に行く。今日の集会は、広場で行われる。メンバーは、最近出会ったばかりの仲間だ。広場の真ん中の土管の上から、異音が聞こえてくる。コゴゴゴゴ。ゴゴゴゴゴ。異音の正体は分かっている。広場を根城にしている野良猫ぐーすけぴーが、また寝ているのだ。ぐーすけぴーは、はっきり言ってでぶねこだ。体がずんぐりと大きい。そして、いびきも大きい。名前の通り、しょっちゅう寝ている。しかも、へそ天で。今夜も、完全に腹丸出しの無防備な姿で寝ていた。ぼくは地面を蹴って、その腹の上に飛び乗った。ぐえっ!ぐーすけぴーが変な声を出す。「にゃ?にゃんにゃ?もう夜かにゃ?」ぐーすけぴーが自分の顔を撫でながら、すっとんきょーな声を挙げる。「そろそろ集会の時間ニャ。みんな、もう来る頃ニャ。起きるニャ。」ぼくはぐーすけぴーの腹をぺしぺしする。「わかってるにゃ。にゃんにゃら、起きてたにゃ。」ぐーすけぴーのその言葉に、ぼくがため息をついていると、2匹の猫が話し合う声が近づいてきた。「にゃんか、君とはよく会うニャー。」「そうにゃね。」「いつも、どこから来てるニャ?」「あの家からにゃ。」「?そんなはずはないニャ。あそこは、ぼくのうちニャ。君を見かけたことはないニャ。」「そうにゃのかにゃ。明るいうちのことは、よく覚えてないにゃ。」「まあ、いいニャ。着いたニャ。」1匹は、コータロー。こっちもでぶねこニャ。白と黒のまだら模様をしている。一度、昼間に見かけた時は、近所の小学生にブタと呼ばれていた。もう1匹は、ふわクン。しっぽが異様に大きくて、もふもふしている。掃除をするのが好きで、ところ構わず綺麗にしては、毛繕いをしている。それにしても、あー、あのピンクのゆさゆさ揺れてるしっぽ、いつもじゃれつきたくなるニャ!「これで、全員にゃ。」ぐーすけぴーがまだ寝ぼけながら言うので、訂正した。「まだニャ。まだベレトが来てないニャ。」「今、来たニャ。」至近距離で、ベレトの声がした。ぼくはビクッとした。隣にベレトがちょこんとしている。これだから、黒猫は困るニャ。
「遅くなったニャ。せれなちゃんが、なかなか離してくれなかったニャ。ぼくもせれなちゃんに甘えてたニャ。」ベレトの言い訳に、ぐーすけぴーとふわクンが突っ込む。「これだから飼い猫はにゃー。」「人間に恋をするのは、猫の掟に反するにゃ。」ベレトが戸惑っているので、ぼくは助け舟を出す。「飼い主はいいもんニャ。甘えるのも当然ニャ。リサちゃんは最高ニャ。」「そうニャ。せれなちゃんは最高ニャ。」2匹はお互いにご主人ラブについて語り合ったが、噛み合っているようで噛み合っていなかった。あれ、コータローも飼い猫じゃにゃかったかニャ。キィーコキィーコキィーコキィーコ。ぼく達が戯れていると、広場のブランコが音を立てた。見ると小学生ぐらいの女の子が、ブランコをちぃさく漕いでいた。「にゃんで、こんな時間に人間の子どもがいるにゃ?」ぐーすけぴーが誰にともなく問いかける。「危ないにゃ。」「ヨナに襲われるニャ。」ふわクンとベレトが心配をする。「子どもは嫌いニャ。」コータローがつぶやく。「あの子、見たことあるニャ。リサちゃんと同じ小学校に通ってる子ニャ。」とぼくは言ったが、見たことがあるだけで、名前までは知らなかった。女の子は漕ぐのをやめて、ため息をついた。ベレトが持ち前の人懐こさを発揮して、ぐいぐいと女の子に近づいた。女の子の足元にすり寄って、すりすりをする。「あら、かわいいネコちゃん。首輪がついているわ。家出してきたの?」女の子が座ったまま、ベレトを抱き上げた。ベレトはとんでもにゃいといった感じで、ニャーと鳴いた。伝わったかどうかは、わからにゃいが。「そういえば、ぼくも、あの子を知ってるような気がするにゃ。」そう言ったふわクンを、ベレト以外の3匹が見た。
ふわクンは3匹に見つめられて、少しどぎまぎした。「本当に、そんな気がするだけにゃー。ぼく、昼間の記憶があまりにゃいから、自信がないにゃー。でも、一応話すにゃー。昼間は、ぼく、どこかの家のどこかのおばあさんに抱かれているにゃー。いや、つかまれていると言った方がいいかもしれないにゃー。微睡みながら、声を聞いたにゃー。あの子の声だった気がするにゃー。こんなことを言ってたにゃー。『これ、お母さんからもらった大切なものなのに、なんで壊しちゃったの!ねぇ、なんとか言ってよ、ゴンゴン!ねぇ、シャケも見てたんでしょ、教えて!』たしか、こんなんだったにゃー。」「大切なものって?」ぼくが尋ねると、ふわクンは首を傾げた。「にゃんだろう?ベレトがつけてるようなものにゃー。でも、猫がつけるものと違って、人間のはきらきらしてるにゃー。」いつの間にかニャラティブが始まっていたが、これは結構簡単だった。ベレトがつけているもの、つまり、首に巻いているものニャ。人間が首に巻いているきらきらしたものなら、ぼくもリサちゃんのお母さんがつけているのを見たことがあるニャ。これは、全員が分かったニャ。ふわクンが新しい猫語を考えた。「人間は、ぼく達のげぼくにゃ。つまり、これは『げぼくのわ』にゃ。」「じゃあ、そのげぼくのわを壊した子どもを見つけるにゃ。とにかく、早く子どもは家に帰したいにゃ。」コータローの一言で、今夜の集会の目的がなんとなく決まった。あくまで、なんとなくニャ。猫は気まぐれなのニャ。ぼく達は、ヒト町に移動した。ヒト町では、最近ヒト町を根城にしている野良猫のポピーに因縁をつけられた。ぼくがいきなり殴られたので、ベレトとぐーすけぴーが殴り返してくれた。ふわクンは夜の気配が深まってきたのを感じて、なぜかご機嫌だ。ぼくらは、ヒト町の街灯の下に独り佇む小学生の男の子を発見した。今度は、子ども嫌いのはずのコータローが近づいていった。好奇心が抑えられないという風に見えた。
けれども、ベレトのようにすり寄って行くつもりはないようだった。ぎりぎり気づかれない所まで側に寄って、聞き耳をピンと立てた。「シンジュ、怒ってたなぁ。そりゃそうだよな。お母さんからもらったものだもんな〜。ゴンゴンもな〜、ゴンゴンだよな〜。ちゃんと言えばいいのに。あ〜、なんでこんなことになっちゃったんだろう。全部、あれが悪いよな〜。」ぶつぶつ独りごちているのは、その内容からシャケという男の子だと分かった。しかし、「あれ」が分からない。コータローはピンときたらしいが、難しい顔をしている。「分かったんだけどニャ。みんなに、うまく伝える自信がないニャ。」コータローがしょんぼりするのを、ふわクンが励ます。「とりあえず、挑戦してみるにゃ。分からなくても、また挑戦すればいいにゃ。」こうして、今夜2回目のニャラティブが始まった。コータローが頑張る。「あれは人間の大好きなお祭りニャ。この時期にやるニャ。ニャー、これ以上は分からないニャ。」集会メンバーが、それぞれにコータローをねぎらう。頑張ったニャー、分かったにゃーと言い合う。みんなで、声を揃えて言うことにした。「それは、、、」「人間が、この時期に咲くお花を見るお祭りニャー!」ところどころ言い回しは異なってはいたが、みんなが同じことを思い浮かべていた。やったニャ!ニャラティブ成功ニャ!と思ったら、コータローがうにゃああああ!と頭を抱えている。どうやら違ったみたいニャ。「もうちょっと、考えてみるニャ。」とコータローが言うので、お腹が空いたベレトとぐーすけぴーはエサを狩りに行った。ベレトは、「バッタしか見つからなかったニャ。」と嘆きながら、バリバリ食べている。「馴染みの魚屋さんを、げぼくにしてるにゃ。そこから、魚をもらってきてやったにゃ。」と、ぐーすけぴーは嬉しそうに魚を食べている。ぼくらは、ゴンゴンを探して、団地に移動することにした。
団地に着いた途端、コータローがごみ置き場のごみを漁り始めた。ぼくもぐーすけぴーが旨そうな魚を食べていたのに刺激されて、一緒になって漁った。そして、ぼくらは同時に顔を背けた。「これ、腐ってるニャ。」「こっちも腐ってるニャ。」ぼくらが顔を背けた先に、ふわクンが人間のお姉さんにかわいがられているのが見えた。「あら、あなた、かわいいネコちゃんね。特に、このピンクの尻尾が素敵ね。ほら、サラダチキンよ。お食べになるかしら。あーん。ああっ、もうかわいい食べっぷりね。今日は旦那が遅いからさみしいのよ。ねぇ、うちに来ないかしら?」ふわクンは、ちょっと考えてから、かわいらしく「にゃ!」と鳴いて付いて行こうとしたので、ぼくは慌てて止めに入った。そんなことをしている間に、ベレトがベンチに座ってため息をついている男の子を見つけていた。きっと、この子がゴンゴンに違いない。ベレトがまた人懐こさを活かして、ゴンゴンの足元をくんくん嗅いだ。「お、お、なんだ、この猫。やけに絡んでくるな。なんだ、オレのことを慰めてくれるのか?じゃあさ、聞いてくれよ。オレさ、友達のシンジュを怒らせちまったんだよ。まあ、オレが悪いんだけどさ。オレがあいつの大事にしてたものを壊しちゃったんだからさ。うん、まあ、それでいいんだよな。だってな、あいつオレのこと、あれだって言うだからな。なんかさ、さびしいよな。」ベレトの嗅覚には、ピンとくるものがあったようだ。急に戻ってくると、「ニャラティブするニャ。」と言った。ぼくは、まだホワンホワンしてるふわクンの首根っこを咥えて、ベレトの前まで引きずっていった。「ゴンゴンはあれニャ。せれなちゃんのパパが、お酒を飲んで帰った時にすることをしてるニャ。人間がたまにすることニャ。」「分かったニャ。ふんふんしながら、喋らない鳴き声をするやつニャ。」ぼくが答えると、「たぶん、それは違うニャ。」とベレトに即答された。
ぐーすけぴーとふわクンも間違えたが、コータローだけ分かったようだ。じゃあ、とコータローが張り切ってニャラティブに乗り出す。さっきの分を、取り返そうとしているようだ。「ベレトが言いたいことは、つまりこういうことニャ。人間は、たまに言ったことを忘れるニャ。エサをくれるというから待っていたら、なかなかくれない時があるニャ。そんな時は、悲しみしかにゃいニャ。特にチュールをくれると言っておいて、くれなかった時は怒りしかないニャ。」チュールが食べられないのは一大事だと、みんなの気持ちが一致した。「なるほどニャ。それは食べられないチュールにゃ。」「食べられないチュールは嫌ニャ。」「ゴンゴンは、食べられないチュールを言ってるにゃ。なんで、そんなことを言うにゃ?ということは、本当はゴンゴンはシンジュのげぼくのわを壊してないってことになるにゃ?なんで、そんな食べられないチュールをつくにゃ?」ニャラティブは全員に成功したが、結局ゴンゴンがなんで本当のことを話さないのかが分からず、大騒ぎになった。このタイミングで、ふわクンはヒト町でコータローが伝えたかったことにピンと来たようだ。ふわクンのニャラティブが始まり、今度はそれがぼくに伝わった。ぐーすけぴーとベレトがまだ考え込んでいるので、ぼくもニャラティブをする。怒涛のニャラティブ連鎖ニャ!「猫は食べられないチュールは嫌ニャ!怒るニャ!だけど、人間は食べられないチュールを言って、楽しむ愚かな生き物ニャ。」ぐーすけぴーにはすぐに伝わったが、ベレトがまだ頭を抱えている。ぐーすけぴーもニャラティブに乗り出すかという瞬間、ベレトが「ニャー!!!!?」と叫んだ。「人間はなんて愚かニャー。食べられないチュールを言い合って、喜ぶお祭りはよくないニャー」その怒りをぼくが引き取って、このお祭りの日を新たな猫語に換えた。「食べられないことを楽しむ愚かな日ニャー!」
人間の子ども達3人のそれぞれの悩みが分かったところで、ぼくはお腹が空き過ぎて限界になった。ぼくは、前の集会の時に子分にしたねっこという猫を呼んだ。ねっこは足がくねくねしているけど、エサを手に入れるのがうまい猫だった。ねっこは早速、美味しいネズミを持ってきてくれた。ぼくが食べている間、隣でふわクンがご機嫌に遊んでいた。ぐーすけぴーが、そんなぼくらを呼び寄せた。ぐーすけぴーは改めて、ゴンゴンの気持ちを聞いたらしい。と言っても、積極的に聞きに行ったわけではなく、ベンチの脇でへそ天してたら、勝手に耳に入ってきたということだ。ぐーすけぴーも、ニャラティブをすることになった。これで今日の集会のメンバーは、全員ニャラティブをしたニャ。「もう一度、ゴンゴンの悩みをよく聞いて分かったにゃ。ゴンゴンはシンジュに、自分は、げぼくのわを壊してないと言ったそうにゃ。でも、食べられないことを楽しむ愚かな日のせいで、シンジュに信じてもらえなかったそうにゃ。まったく人間は愚かにゃ。猫はうめぇものをまずいとは言わないにゃ。けど、ゴンゴンもシャケもシンジュも、うめぇと言いたいはずにゃ。」ぐーすけぴーも食べ物で例えたので、全員が一瞬で理解した。ベレトが提案する。「3人を会わせて、うめぇもんはうめぇと言わせるニャ。」「そうと決まったら、こんなところに用はないニャ。さっさとヒト町に行くニャ。」コータローが、それに乗った。ベレトが先頭に立って、ゴンゴンを引き連れて行く。「なんだよ。どこかにオレを案内してるのか?」と不思議そうにしながらも、ついてくるゴンゴン。途中、全然関係のない小学生に、コータローとふわクンが毛をわしゃわしゃされて苛立ったり、ベレトがさっきやっつけた野良猫ポピーの親分おでんに絡まれたりしたが、なんとかヒト町に辿り着いた。
シャケは、まだ街灯の下にいた。シャケがゴンゴンに気づくと、ゴンゴンもシャケに気づいた。「ゴンゴン。」「シャケ。」そこから、しばらくの間、2人の会話が続いた。雰囲気から、どちらの心もうめぇものはうめぇになっているに違いなかった。ぼくは、集会メンバー全員でその様子を見守っていると思っていたが、いつの間にかベレトがいなかった。ベレトはゴンゴンとシャケが手を取り合ったところで、姿を現した。「どこにいたニャ?」とぼくが聞くと、ベレトは返事の代わりに前足で、ある方向を指した。ぼくらがそちらに視線を向けると、シンジュが立っていた。にゃかにゃか、ベレトもやるもんニャ。「ゴンゴン。」「シンジュ。」さあ、ここから3人の心がうめぇもんはうめぇになるニャ。と思った時だった。「あなた達、何をしているの!」とやって来た者達がいた。人間の大人3人だった。「パパ!」「母ちゃん!」「ママ!」シンジュ、ゴンゴン、シャケが、それぞれに言う。「何時だと思ってるんだ、まったく!お前だな、うちの子をこんな夜中に連れ出した奴は!」「何を言うんですか!うちの子のせいにしないでください!あなたの娘さんが悪いんでしょ!」「うちの子は、お勉強をしなければ、ならないんですよ!2人で連れ回すのは、やめていただかないと!」「何を〜!」大人達は、子ども達そっちのけで喧嘩を始めた。子ども達は、こっちを見てはおろおろ、こっちを見てはハラハラしている。ぼく達は、地面にうつ伏せになって頭を抱えた。にゃんでこうにゃるニャー。ぼくは覚悟を決めて立ち上がった。ぐーすけぴーとふわクンと目が合ったので、お互いに頷いた。ぼくは跳ねた。ねこパーンチ!!「あ、痛っ!なんなのこの猫ちゃん。ちょ、ちょっとやめて。」ぐーすけぴーも跳ねた。ねこパーンチ!!「あっ、こっちにも来た。何よ?」ふわクンは、相当いらいらしている。シャシャシャシャー!!ふわクンは、素早く大人3人を引っ掻いた。「ちょ、もう!」「うわっ!やめろ!」「イタタタタ!」
コータローを見ると、シンジュの手をペロペロしてから、くるくるころんと転がってゴンゴンに近づけようとしている。そうニャ。大人達を追い払うだけじゃダメニャ。子ども達の心の距離を近付けにゃいと、結局のところダメになっちゃうニャ。シンジュが優しい顔つきになってゴンゴンを見たので、コータローは飛び降りた。しかし、そこを狙いすましたかのように、大人の1人がコータローを捕まえた。ニャー!コータローが悲鳴をあげる。「でぶねこを狙ってくるなんて、卑怯ニャー。」他の大人も、ふわクンとぐーすけぴーを捕まえようと躍起になっている。大人の両腕を、ふわクンはひらりとかわした。ぐーすけぴーも、さっとよける。ぐーすけぴーもでぶねこだが、彼は俊敏なのだ。コータローがもがいて脱出を試みる。ゴンゴンが助けたそうにしているが、割り込めないでいる。コータローがもう一息でするりと抜けそうなところで、ベレトが大人に飛びかかった。たぶんコータローを助けようと思ったのだろうが、大人は軽々と一回転するとともに、より強くコータローを抱きしめた。「余計なお世話ニャー!」「ごめんニャー。」コータローが怒り、ベレトが謝った。ふわクンがシャケの懐にふわりと飛び乗って、シャケのことをじっと見つめた。「うん、分かったよ。お前が言いたいこと。ぼく達、みんな素直にならなきゃね。」そう言って、シャケが優しい顔になった。ふわクンはミャーと鳴き、地面に降りた。大人達の腕が懲りずに、ふわクンとぐーすけぴーを再び襲った。ささっ。2匹とも余裕で逃げる。コータローが今度こそ脱出に成功すると、ベレト、コータロー、ぐーすけぴーが、一斉に大人達に噛みついた。うわあああーと叫びながら、大人達は一目散に逃げていった。
街灯の下で子ども達3人が、お互いに見つめ合っている。ゴンゴンが、最初に口を開いた。「シンジュ、ごめんな。お前のネックレス、壊したのはオレじゃないんだ。落っこちて壊れるのを見て、それを拾っただけなんだ。だけど、信じてもらえなくて、オレ寂しくなって、もうどーでもいーやってなっちゃって。本当にごめん。」「違うんだ。ぼくが悪いんだよ。壊れたネックレスをゴンゴンが拾っているところを見ただけなのに、ゴンゴンが壊したのかもなんて余計なことを言ってややこしくしちゃった。その後は2人とも怒ってるから、こわくて何も言えなくなっちゃって。本当にごめん。」「ううん。私がちゃんと、2人の言うことを聞けば良かったのよ。お母さんからもらったネックレスが壊れてしまったことで、イライラしていたのね。それに、エイプリル・フールだから、ゴンゴンもシャケも嘘を言って、からかってるんだと思い込んじゃった。本当にごめんね。」3人は手と手を取り合った。ニャー。にゃー。ニャー。にゃー。ニャー。ぼく達は祝福の鳴き声をあげた。3人は笑顔でぼくらを見下ろした。「ああ、お前達、ありがとうな。おかげで、オレ達みんな、自分の心に素直になれたよ。」「不思議な猫ちゃん達ね。」「ぼく、なんか、さっき猫の言葉が分かったような気がしちゃった。」3人は笑顔を引っ込めて、真顔でまた向き合った。「さあ、ここからが大変だな。親達にちゃんと謝らないと。オレがちゃんと話すよ。」「ぼくのママ、もう2人と遊んじゃいけませんって、言い出しそうだな〜。」「大丈夫よ。私達も許し合えたんだもの、隠し事をせずに素直に話せば、きっと分かってもらえるわ。」3人は手をつないで、同じ方向へと帰って行く。その方向に、うっすらと暁の光が見え始めていた。集会の解散の時刻だニャ。じゃあにゃと言って、ぐーすけぴーが広場に戻って行く。また、へそ天で寝るのだろう。またニャ、とベレト。せれなちゃんにかわいがってもらう気満々だ。ぼくも家に帰るニャ。家に帰ると、リサちゃんがちょうど起きた頃だった。ぼくは前からチュールの隠し場所を知っていたので、そこの戸棚をカリカリした。「もう、ムクったら。よく知ってるわね。はい、パパとママには内緒よ。」と言って、リサちゃんがチュールをくれた。ぼくはチュールを食べて、やっぱりうめぇもんはうめぇニャーと鳴いた。数日後、広場の近くの家の塀の上で休んでいると、例の3人が笑いながら並んで歩いて行くのが見えた。ぼくは幸せな気分になって、今度は家の方に目を向けた。すると、コータローが何かに飛び掛かっているのが見えた。ここが、コータローの家だったニャ?ぼくは背伸びをして、さらに奥まで見た。コータローの飛び掛かっているものは、ピンク色のふさふさした毛がたくさんついている掃除用具だった。(完)