近所の雑貨屋さんにケーキの箱を買いにきた。



ゆうこちゃんてだれだろう……




モヤモヤした気持ちが片隅にあるけど

気にしたってしょうがないんだよね。


毎年あげてるんだし、とにかくいつもみたいにつくろう!



いつもと違うのは、形だけ。



買い物が終わると、道端で雄一のお母さんに会った。



「あら、マリコちゃん!お買い物?」


「はい!」


「あのね、今日ね、

 うちにすっごいかわいい子来てるから見においでー♪」


「え…?」


「雄一ベタ惚れなのよねぇシングルハート*




私はなされるがまま、いつのまにか雄一の家の前にいた。




「ただいまー!マリコちゃん連れてきた!」


「おかえり!ゆうこちゃーん!母さんとマリコだよ」


「はーい」



パタパタと足音が聞こえてくる。


「あっマリコちゃん!はじめましてーこんにちわっ」



玄関にひょこっと顔を出したその子は、


きれいな茶色の瞳と同じ色の髪。


華奢な体は、マンガの中からでてきたみたい。





「かわいいしょー♪」


「やーゆうちゃんたら!笑。ほんと大好きー♪笑」


ゆうこちゃんがにやける雄一の腕にからんだ。








つらい。



「ホント芸能人みたい!かわいいハート

 雄一いい子見つけたじゃーんにやにや

 ごめん、用事あるから帰るね!またね、ゆうこちゃん♪.・。*





私は雄一の家を飛び出すように出て行った。








彼女じゃないよね?



…彼女 なのかな……




おばさんがあんなに女の子のこと ほめてるとこ、見たことない。





いろんな予想が浮かび、消える。 ううん。消す。



ぼーっとしながら、フォンダンショコラを焼いた。




いつのまにか目からこぼれた涙が、一粒はいってしまった。





おさななじみだから泣く必要なんてないのに。



そう。必要なんかない。



なにも求めてない。








もう2時だ…






「マリコ…起きてる?」




窓の外から声が聞こえた。






私の中で、ちょっとだけ欲張りな気持ちがでてきた。


キッチンの食器棚の一番上から、


おっきなハートのケーキ型をひっぱりだす。




いいのかな?



いんだよね?



自問自答を繰り返す。





お昼から、部屋でずっとその大きな型を見つめて、ためいきついてた。


いつのまにか外は真っ暗だった。




いままでみたいに、彼氏につくるチョコを悩むのとはわけがちがった。



なんでだろう。





前もつくったことあるけど、フォンダンショコラでいいかな?


できたてだと、中からとろっとしたチョコが流れてくる。




いま、私の気持ちは


そのチョコよりもずっと熱く、あふれだしてる。








…気がする。



これがどんな気持ちなのか、なんだかわかんない。





カーテンをしめたまま、窓をそっとあけると



雄一も窓をあけているみたいで、声がもれてきていた。





雄一の声はほっとする。




…あれ?なんで声聞こえるんだろ。電話してるのかな?









「ゆうこちゃん、明日うちこれんの!?マジで!!めっちゃ楽しみ!!」







…ゆうこちゃんて誰。







バレンタインまで、あと3日。







たくさんの赤いハートのオブジェが街をあったかくしていた。



「バレンタイン一色だね笑」



「俺みたいに毎年もらえるやつは嬉しいから、

 もらえないやつがかわいそうだわ」



映画館で「母べえ」か「ビー・ムービー」の2択を迫られ、

「陰日向に咲く」を選んだ。



雄一は映画館でしっかり泣く人。



私よりも泣いてしまうから、

映画に行くときは雄一用のティッシュを忘れられない。


一度、可愛いと思われることを期待して

可愛いハンカチを持って行ったけど

鼻をかまれてケンカをしてからは、私のバッグにハンカチが入ることはなくなった。


案の定、今回もぐすぐす泣いていた。



愛しいと思わせるあなたは、本当にずるい。



「ねぇ ドンキ付き合って!」



目がまだ潤んでいる雄一がにこっとして一歩先に踏み出す。





調理器具やデコレーション用のかわいらしい品々が並ぶ棚に行くと、

どうしてもはしゃいでしまう。



小さくて可愛い型に見とれて 手にとろうとしたら、



大きなハート形が 私の目の前にぬっとあらわれた。




「俺 これがいい!これでつくって!!」



「ええ!!やだよ!!笑」


「えーなんで!俺ハート型でもらったことないもんむっ

 彼氏にはつくってるんでしょ??」


「あー…うん…まぁ」


「ずるい!!俺には毎年まるじゃん!」


「三角も四角もあげたよ!

 毎年もらってるだけありがたいと思いなさいっ」



ふてくされてブツブツいいながらUターンして元の場所に戻しに行く。



その不服そうな後姿に 思わず笑顔がこぼれた。






ねえ…ハート、つくっていいの?


聞いちゃいそうだよ。




ずるいよ。


あたしだって何回つくろうと思ったかわかんないよ。




でも、一線をこえちゃダメでしょ?


あたしたち、仲の良いおさななじみだもん。




一線を越えることより、雄一が隣からいなくなる方が怖い。




それならいっそ、ただのおさななじみでいい。







バレンタインまで、あと4日。