▼△さくらと小狼と大縄跳び(前)〔中学生〕△▼ | チョロ助を追いかけろ

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子育て奮闘記とHQとCCさくらな日々


学期末毎に行われる、クラス対抗大縄跳び大会。一、二学期は各学年で一番多く跳んだクラスが『三日間学食タダ券』なのだがこの学年末だけは、年間トータルで校内で一番多く跳んだクラスには別途『一週間学食タダ券』がもらえるのだ。なので大会一週間前からの練習が解禁されると昼休みは練習する生徒の姿が見られる。この三学期は特に練習に力が入るのだ。

ルールは下記の通り。
・各クラス、回し手2人を含む32人(残りは補欠)一斉に跳ぶ。
・回し手は各学期毎に変更すること。一度回し手になった者は他の学期では回し手になれない。
・ピストルの合図から5分間の中で、引っかからず連続で跳べた回数の一番多い物を記録とすることが出来る。
・時間内であれば、何度でも跳び直し出来る。

小狼がいる2年C組は一学期の大会で31回跳び優勝、さくらがいる2年D組は29回。二学期はD組が33回で優勝、C組は28回だった。一年生は最高でも25回だったので、この三学期は2年C組と2年D組の優勝争いになる。


そしてその練習解禁一日前のお昼休み。だいたい週一回は二人きりでの食事を屋上でしている。今日も例外なく学校の一番高いこの場所に貸切状態だ。

「優勝するのは、うちのクラスだよっ!」
タコさんウィンナーを赤い箸で摘まんで持ち上げさくらが言う。
「いや…俺達のクラスだ。」
小狼はそう言うと綺麗なきつね色に揚がった春巻きを一口囓る。
「小狼くんのクラスと、うちのクラスで3つも差があるんだよ?」
さくらはまだタコさんウィンナーを箸で摘まんだままだ。小狼は口の中の物を飲み込むと、そのタコさんウィンナーをじっと見た。
「3回だけだ。それに…今回は俺と山崎が縄を回す。前回のようにはいかない。」

一学期はどのクラスも回し手は大柄で体力のあるものが回す。それが二学期…三学期となれば回し手の人材も限られる。
今回、回し手に小狼と山崎と聞いて、C組も優勝を狙っているのは明らかだ。この二人何気にこういう事では息が合うので、二人が組むと言うだけでも手強いだろう。
小狼は大柄ではないが、力と体力では人並み以上だ。まぁそれを知っている者は少ない。知られていないと言った方がいいのだろう。そして山崎も部活で鍛えているのでそこそこの力の持ち主だ。

「う…。で、でも負けないもんっ!!」
さくらがそう言うと同時に小狼はさくらの箸を持つ手を掴み自身に引き寄せると、箸で摘ままれたタコさんウィンナーを自分の口に運んだ。
「ああーっ!!!?私のタコさんウィンナー…。」
目の前では満足そうに小狼が咀嚼している。ゴクンと飲み込むと、
「うん。美味しい。」
口を尖らせているさくらを見て、悪戯っぽく言ってのけた。

「…楽しみにしてたのに…。」
「ほら。」
そう言って不満気な顔のさくらの前に食べ掛けの春巻き。尖らせていた口を開けるとさくらの口に丁度良いサイズで。暫くそれを堪能するさくら。
「…美味しい…。」
小狼お手製の春巻きはさくらのお口に合ったようで、頬を染め微笑む。それを見て小狼も微笑んだ。

「それとこれは別だよっ!!」
先程の話を思い出し、大きな声を出すさくら。
「何だよ、いきなり。」
小狼は食べ終わった弁当箱を片付けながら言い、ペットボトルの緑茶を一口飲んだ。
「タコさんウィンナー…じゃなくって…ん?そうなんだけどっ!…大縄跳びの事っ!!」
そう言うとさくらは最後の一口である、のりたま味のふりかけが掛ったご飯をパクリと頬張った。
「その話題、もう終わったのかと思ってた。」
小狼は興味なさそうに「うちのクラスが勝つって事で」と付け加えた。

「これは、タコさんウィンナーの仇だよっ!!!」
「はっ?」
さくらの言動に呆気にとられる小狼。
「私は、小狼くんに勝って、タコさんウィンナーの無念を晴らすのっ!!」
さくらのその言い方が何処か可笑しくもあって可愛いらしくもあり、小狼はフッと笑った。

「じゃ…負けた方は勝った方の言う事を聞くっ!!それでいい?」
さくらはビシッと人差し指を立てて小狼の顔の前に持ってきた。
「…何ムキになってるんだ?…そんなに『タコさんウィンナー』が食べたかったのなら俺が…。」
そんなさくらの仕草に呆気にとられる小狼の言葉を遮ってさくらが言い放った。
「私、負けないもんっ!!絶対に大縄跳び勝つんだからっ!!」
弁当箱を素早く片付けて自分の鞄を持ちスクッと立ち上がるさくら。

するとそのまま、今立っている屋上の出入り口の屋根から華麗に飛び降りた。何時もなら先に小狼が降り、さくらが飛び降りるのを抱きとめるのだが、さくらはさっさと飛び降りてしまった。それを呆然と見下ろす小狼。さくらはそんな小狼を見上げて、
「これから、作戦会議だから…じゃあね!」
屋上を後にしてしまった。

「あれ?さくらを怒らせた…のか?」
独りごちる小狼。さくらは何に対して怒ってしまったのだろう。自分の愛しい人はたまに突拍子のない事を言い出したりするのは何時ものことだ。そこが可愛かったりするんだけど…。惚れた弱みなのだろうか。

『タコさんウィンナー』…そんなに食べたかったのか?だったら俺が作って来てやる…。そう言いかけてたのに。最後まで聞けっての。最近思っていた事だけど…あいつ食い物に関してケルベロスに似て来たよな…。でも本当に…それ?

一人残された小狼は暫くその場に座り込み考えていた。


ーーー私、何怒ってるの?
さくらは少し涙目になって廊下を早足で歩いていた。自分が何に対してムキになっているのか解らない。

『何ムキになってるんだ?』

本当だよ…。タコさんウィンナー?…違う、違うよ…そんなんじゃない。じゃ何で?

『その話題、もう終わったのかと思ってた。』

…終わってないもん…。
これだ。興味なさそうに返ってきた素っ気ない言葉。昔はもっとこう…負けじと噛み付いてきたのに。そうだ…そうだったのに。



「なんか最近、小狼くん、取り合ってくれないんだもん。」
いつもより早く戻ったさくらを不思議に思い、D組の教室でお弁当を食べていた知世、千春、利佳、奈緒子が理由を聞いてきた。先ほどの屋上での出来事を話したさくら。自分は何故啖呵を切ってしまったのか、後悔すらしていた。

「そうかなぁ…。山崎くんに聞いたけど、すっごい闘志だったって言ってたよ?」
千春は腕を組んで視線を少し上にして、山崎と話をして時のことを思い出すように話す。
「男の子って以外と子供だよ?勝負事に対しては燃えないはずないもん!」
何処で聞いてきたのだろうそんな事、と思うことを奈緒子が言う。
「李くんってちょっと大人っぽいところあるから…そういうところをさくらちゃんに見られたくないのかもしれないわね。」
流石、年上と付き合っているだけの事はある利佳の言葉。

「でもさぁ…さくらちゃんも、李くんも小学校の頃からちっとも変わってないよね。」
千春の言葉に誰もが頷く。
「うんうん、さくらちゃんを見てる時の李くんの顔とか…。」
奈緒子が続けた。以外と見ているな奈緒子…。
「えっ!!?…そうかなぁ?」
さくらは首を傾げて小狼の事を思い浮かべる。…////。思い出すのは優しく微笑んでくれる顔。自然と顔が染まる。

そんなさくらを見てみんなが微笑む。微笑ましく見ていた知世が口を開く。
「ほほほ…李くんはそんなさくらちゃんを優しく見守って下さってます。顔に出ていなくても今も昔も変わっていませんわ。それに今回のお話だってきっと闘志は燃え上がっています。だからさくらちゃんもそんな李くんのお側で闘志を燃やすことが出来たのでしょう?お二人とも前とちっとも変わっていませんわ。…敢えて変わった処を挙げるとすれば…。」
人差し指を顎に当て考えるような仕草をする知世。

(…やっぱり変わったところがあるんじゃない…知世ちゃん。)
「李くんは顔に出ないように必死になられていること…と、さくらちゃんは更に更に超絶可愛くなられて…お二人とも(特に李くん)素直に仲良くされているところですわね~おほほほほほ。」
「そ、そうかな…/////。」
さくらは知世の言葉に頬を染めた。

(流石知世ちゃん。みんなが思っていること的確に答えてくれたぁ。…でも、やっぱり自覚がないんだろうな…さくらちゃんと李くんは…。)
その場にいた誰もが思っていた。



そのころC組の教室。
「タコさん…ウィンナーかぁ…。はぁ。」
小狼は窓際の自分の机で頬杖を突き外に視線は向けていても心ここに在らずの様子だ。
「どうしたの?溜息なんかついてさ。」
そんな小狼の様子をちょっと前から見ていた山崎が、自分の席でもないのに小狼の前の席に着くと声を掛けた。
「えっ?溜息?」
「無意識かぁ…木之本さんとなんかあったのかな?」
細い目で小狼の顔を覗き込むように尋ねる。
「な、なな何でっ!!!?」
解りやすいオーバーリアクションで小狼は仰け反る。危うく椅子ごとコケそうになった。
「解りやすいんだもん、李くん。」
「…そうか…。」
肩を落とすように呟き苦笑する。

いつも何事もなかったようにポーカーフェスで振舞っていても、山崎というこの男には隠し事は出来ないのだろうな。まぁこいつには隠しているつもりもないのだけど。けれど今の自分はどう見られているのだろう。
「なぁ…。今欲しい物と違う物だったら、やっぱりそれって満足出来ないもの…だよな。」
再び頬杖を突いて外を見た。一年生だろうか制服のままサッカーをしている姿が見えた。
「…『タコさんウィンナー』と関係があるの?」
「えっ!!!!!?」
小狼は頬杖を突いていた手から顔を浮かせて目を見開く。

「…李くん、重症だね。(無意識に呟いてた事にも気付いていないなんて。)」
そんな小狼の様子に山崎は苦笑する。
「…いや、勝手に食べた俺も悪いんだ。(それが原因だとも思えないしな。)」
小狼は三度頬杖を突く。
「そんな事じゃないと思うよ。」
「…っ!?」
山崎、お前は見ていたのか?と突っ込みたくなるような一言にここでも癖なのだろうか、ポーカーフェースを装い視線だけを山崎に向けた。

「李くんは変わらないねぇ、そういう照れ屋さんなところ。たまには素直に表現してもいいんじゃない?…でも…これもきっと無意識なんだろうなぁ。うーん、僕みたいにしてみたら?って言っても李くんが僕みたいになっても、それはそれで大騒ぎだろうから…自然が一番だよね?うん。」



あれこれ考えていても仕方が無い。さくらと話をしよう、さくらが部活に行く前に。結局昼休みが終わるまで山崎と話をして、そう結論付けたのは5時間目が終わるころだった。そう考えてHRが終わって教室を出ると廊下には、利佳と奈緒子が小狼を待っていた。

「さくらちゃん、引っ込みが効かなくなっちゃったんだよ…。」
「すごく落ち込んでたいたわ…。」

二人からそんな言葉を聞いて尚更思った。今すぐ話をしなくては。
D組はまだHRが終わっていなかった。教室の前でさくらを待つ。程なくして日直の号令と共にHRの終わった教室から生徒たちが出てくる。それに気付かないのか、さくらは窓際に位置する席に着いたまま視線は外に向けられていた。

さくらと同じクラスである千春が廊下に出てくると、そこに立つ小狼の姿に気付きにっこりと微笑む。それに応えるように小狼は軽くてを挙げる。
「良かったぁ。李くんってやっぱり変わってないよ。」
その言葉に「似た者同士」よくさくらと自分はそう言われるけど、目の前の少女と山崎も良く似ている。そう思った。
「顧問の先生に今日はさくらちゃんお休みするって伝えておくよ。ちゃんと話してあげてね?」
そう言ってその場を後にする千春の後ろ姿を見送った。



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