日本の産業経済はなぜ輝きを失ったのか、ということで日経新聞「日曜に考える」から“イノベーション”について10月16日から始まった連載の3回目10月30日の記事を今回は紹介・引用いたします。
以下、10月30日の日経新聞「日曜に考える」イノベーションより
なぜ輝きを失ったか③
トヨタ自動車、日産自動車、パナソニックなどの企業研究者約20人のチームが実験装置を囲む。
研究テーマはリチウムイオン電池の限界を超える次世代蓄電池の開発。
電気自動車の航続距離をガソリン車並みの400㌔に伸ばせるバッテリーの実用化を目指す産学官プロジェクト「RISING」の現場だ。
主導するのは経済産業省傘下の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)。
プロジェクトリーダーの小久見善八・京大特任教授は「新技術の核心部分は学会発表をせず、経産省の担当者にも話していない」という。
情報が外部に漏れたが最後、外国勢の追い上げを食らうことが分かっているためだ。
技術研究組合などの形でのナショナルプロジェクトは戦後、半導体や太陽電池開発などで数々の成果を上げた。
だが官民一体の研究開発体制は日本の専売特許ではなくなった。海外勢も産学官の技術開発プロジェクトを組み、多額の政府資金を投入する。
各国の競争横一線
次世代の蓄電池開発は主戦場の一つだが、「基礎研究でも中国から日本を上回る水準の論文が出るようになった」(小久見氏)。
各国の競争は横一線で、研究開発の形を整えただけではライバルを出し抜けない時代になっている。
技術や研究成果は豊富なのにイノベーションが起こらない――。
日本でこのケースの筆頭に挙げられるのが医療分野だ。
医薬品の輸入超過額は毎年膨らみ2010年は約1兆1500億円。
国内製薬企業の大型製品は次々と特許切れを迎え、主要ながん治療薬は欧米の輸入品が席巻する。
東京大学医科学研究所教授で今年から内閣官房医療イノベーション推進室長を務める中村祐輔氏は不振の理由を「医療イノベーションをデザインする国家戦略がなかったことに尽きる」という。
近年、医薬品の開発手法は大きく変化。
大学などが遺伝子情報をもとに病気の原因を特定し、有効な化合物を大規模なデータベースをもとに探す。
欧米や中国、韓国などでは、この後段を担う公的機関や非営利組織が政府主導でつくられ、あるいはベンチャー企業が活躍し、大学の研究成果と製薬企業を橋渡しする役割を果たしている。
中村氏は日本でも政府主導で支援機関をつくるべきだとするが、具体化はこれから。
支援体制なしでは、日本で生まれた新型万能細胞(iPS細胞)の再生医療への実用化でも海外が先行するといった事態に陥りかねない。
大学発は苦戦
大学の研究成果を企業化するため経産省は01年度から大学発ベンチャー1000社計画を推進。
3年後に起業件数は目標を超えた。
しかし大学発ベンチャーが新市場・新産業を生み出している例を見つけるのが難しい。
その中で気を吐く会社の一つが、筑波大学の山海嘉之教授が04年に設立したサイバーダインだ。
手足など身体の動作を補助する「ロボットスーツHAL」の開発企業。
まず下半身部分を歩行の不自由な人用の福祉機器として製品化、レンタル販売を展開する。
「研究段階から社会での利用という出口を絶えず意識していた」という山海氏。
ロボットスーツをリハビリ治療に使うことを次のステップに位置付けている。
しかし、そのための臨床研究など条件が整っているのは日本ではなくドイツなど欧州だという。
欧州には医療機器の安全性などを認定する民間の認証機関が多数あり、ロボットスーツのような「前例のない製品」を市場に送り出す役割を担っている。
山海氏は「新技術を受け入れ、改良ができる場がないと、技術はうずもれるしかなくなる」と指摘する。
政府は1996年度以降4次にわたり科学技術基本計画を作り、昨年度までに計60兆円の予算を投じてきた。
カネをつければイノベーションは起こるはずだとのもくろみは、幻想に終りつつある。
(編集委員 吉川和輝)
上記は10月30日の日経新聞「日曜に考える」イノベーションより引用いたしました。
研究や技術開発と実用化をつなぐ仕組みや仕掛けが出口戦略として用意されていることが必要になるとおもわれますが、新型万能細胞(iPS細胞)は日本で実用化して欲しいですね。
今日は以上です。