日経産業新聞に連載中のアートディレクター佐藤 可士和氏の寄稿記事を紹介していきたいと思います。
前回、7月21日の“仕事の本質描けますか”の続きになります。
以下、本文
僕への依頼は会社なり商品ブランドなりの「ステージを変えたい」というものが多い。
現状を打破したいけれど何をすればよいか分からなくて悩んでいます。
まずは徹底的に話を聞くことから始めます。話を聞くと見えなかった課題が浮かび上がったり、悩むべき点が違うことが分かったりすることもあります。
三年前から手がけている大手雑貨専門店「ロフト」を例にあげます。当時、社内では「時代を先取りする存在ではなくなってきたのでは‥‥‥」という雰囲気が漂っていました。
そんな中で出てきたアイデアは「ロゴやイメージカラーを変えてみるのも選択肢の一つ」というものでした。
でも僕はロフトのロゴは完成度が高く、変えてしまうのはもったいない気がしました。ロゴが古いのではなく、新鮮に見えるような試みをしていないことが問題と思いました。そこでロゴに積もってしまった「ホコリ」を払い、新鮮に見えるよう試作していこうと決めたわけです。
「新生ロフト」をアピールする手段として選んだのはショッピングバッグ。ハロウィーンの時期に、ロゴをお化け風にアレンジしたバッグを二十種類ほど作りました。
顧客は商品を買うと袋をぶら下げて渋谷や池袋を歩くので広告効果は抜群です。
「黄色地に黒いロゴ」という普段のバッグを見慣れている人にとって新鮮に映り「ロフトが変わる」という姿勢をアピールすることができました。
ハロウィーンでは「あばら骨」を描いたTシャツを店員に配りました。お祭りに参加しているような意識になりモチベーションが上がり、接客方法も変わって、売り上げが前年比十五―二十%も増えたのです。
ロフトの場合変えるべき点が予想と違うところにあったのです。人間の体に例えるともっと分かりやすい。
調子が悪いとき「いつも脂っこいものを食べているからだ」と原因を自分自身で予想します。でも病院で検査したら根本的な問題が見つかったりします。
商品が売れなくてクライアントが悩んでいるとき、原因は企業と社会のコミュニケーション方法に原因がある場合が多い。例えばビール。
世の中に売られている商品のなかで、明らかにまずいビールはありません。逆に飲んだことのないほどおいしいという商品もない。
ほぼ同じレベルの中で少しの差を争う。だからパッケージや商品の名前、広告で、感じる味まで変わってしまうのです。
キリンビールの発泡酒「極生」では、切れ味の良さそうな名前やグラフィックを追求しました。コミュニケーションやプレゼンテーションの仕方で、価値は変わる。
僕の仕事は企業と社会のコミュニケーションの糸をほぐして、流れを良くすることとも言えます。
以上です。