早すぎたイラストレーター中村勝治郎展の楽しみ方 (おこがましい…) |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

開催中~5/22(日)まで
特別展「中村勝治郎」写真アルバム

スライドショーはこちらから
~写真は許可を得て撮影したものです~


中村勝治郎の絵の中で、
「おっ! 好き!」と思った絵が、
↑上のアルバム表紙に使った油彩画。
でも、この原画の展示は、ない!
これを私が目にしたのは、勝治郎の経歴を
作品で紹介するパネルの中。
小さな一枚のモノクロ写真だったのです。
しかも、よーく見ると、写真の下には
「焼失」って・・・
つ・つ・ついてなーい!勝治郎!

いや、いや~。
こうして伝説は新しく生まれるのかも?
中村勝治郎はこれまで脚光をあびたことはなく、
今回の展覧会が初の回顧展。
もしや、もしや…これを機に?

勝治郎は江戸末期の奈良市に生まれ、
明治という激動期を生きた人。
日本が急激に西洋化していく時代に
京都で師匠と出会い、絵を始めます。
その頃の勝治郎が残したものはスケッチが中心で
中でも風俗スケッチに面白いものがあり、
その世界で邁進したならば
勝治郎は今でいうイラストレーターとして
独自の世界を切り開いたかもしれない。
つまり、商品やメディアのために、
挿絵を描くお仕事が向いていたと思うのです。

その証拠に…東京へ移った後、
勝治郎はいい仕事をしてるんですね。

◆ cinemazoo-イラストレーション
いいでしょ。いいでしょ。

こちらのポストカードもいい。◆ cinemazoo-デザイン
宛名のセンスもいいし、
デザイナーとしても活躍できたかも、
今なら…。


勝治郎は、本格的な絵画よりも
実用図案を意匠することに向いていたんじゃないか、
そんな印象を私は受けました。
「自分の中に沸き上がるものを形にする」より、
「注文に応じて描き分ける」ことに長けていたと。

これは勝治郎が教師だったことからも、
なんとなく分かるんですね。
◆ cinemazoo-授業風景
東京美術学校での授業風景。

勝治郎は現在の東京芸大の助教授を務めました。
きっと良い教師だった、そう思えるんですね。
良い教師、それは私の考えでは
己の理想を押しつけるのではなく、
学ぶ側の気持ちを考慮し、
ひとりひとりの特性を引き出す人ではないかと。

さらに勝治郎=良き教師を裏付けるのが、
『油絵及水彩技法』という著書があること。
立美術館の学芸員さんのお話では、
とっても分かりやすい名著だそうです。

おそらく勝治郎は
今何を求められているかを察知するのが、
かなり上手だったのではないかと想像します。
だから、与えられたテーマを上手にこなすという、
イラストレーターとしての素質に
恵まれていたような気がするんですね~。

といっても、油彩画にも、
ハッとさせる感性を勝治郎は残しています。
あくまで私の好みなんですが・・・
◆ cinemazoo-菊
この菊の絵。
エネルギッシュな筆タッチに、私は
勝治郎の秘められし情熱を感じました。


もしも、菊の絵を描き続けていたら…
勝治郎は“和のゴッホ”になったかもしれない
なんて思ったりしますが、
なんせ時は激動の明治の時代です、
メディア、経済、それぞれが激変し、
ひとつの道に精進するのは難しかったかもしれません。
もとより、人の気持ちを汲む親切な勝治郎には、
自身の世界を突き詰める環境に追い込む、これは
厳しかったようにも思います。
つまり“いい人”だったんじゃないでしょうか。

もうひとつ。
勝治郎は画家・黒田清輝の盟友でした。
日本美術界に新風を注いだ黒田は
画家として名声を得ていました。
黒田はフランスで絵を学びましたし、
ゆるぎない自信をもった理想家だったと思います。
もしかしたら勝治郎は、
黒田のエネルギーに触発され、絵筆をとったのでは…?
そう、描かされていた、という気さえする。
勝治郎は黒田というスターに、
心底惚れ込んでいたのではないでしょうか。
展覧会では勝治郎が、
黒田に宛てた手紙も公開されていて、
勝治郎の温厚で誠実な人柄は、
達筆な文字からも偲ばれます。

勝治郎は攻めの人ではなく、常に受け身だった。
そのことは生涯、白馬会というグループ展での発表に終始し
個展を経験していないことからも想像できます。

言いにくいのですが…
今回の回顧展では見栄えのする大作がありません。
個展未経験というのが理由のひとつでしょう、
だから、展覧会にもインパクトがありません。
ですが、そこに明治という
激動の時代を垣間見ることができました。

展覧会の副題に「明治美術の光彩の中で」とありますが
「美術」以上に「明治」を観覧する機会なんですね。
それは平成の現代にも通じる激変ではないか、
そんなふうにも思うのです。

◆ cinemazoo-ねこ
眠る猫の絵。優しい優しいタッチ…


鑑賞のポイントとして、もう少し付け加えると
こういう視点もいかがでしょう~。

「展示方法、演出、私ならこうする」。

勝治郎の作品は、板に描いたもの、
水彩や鉛筆という軽いもの、
小さな絵が多い、ので、
作品全体を通してイラスト的。そこで、
私だったら原画を展示することに固執せず、
拡大プリントしたものや、
文字を組み込んだポスターのような、
2次作品を置いてみるだろう。
すると、痛みの激しい勝治郎の作品だって、
(そう、かなり画面が痛んでいます…)
NOWなフラフィック作品となるかもしれない。
それから、額装を白、壁面も白で統一し、
あくまでライトに、イラストレーションとして、
勝治郎作品をディスプレイする、とか。

焼失したという不運な一枚の絵にしても、
たとえば100号ぐらいに拡大してみると、
かなりのインパクトのある目玉作品になった…
かもしれない。たとえそれがモノクロの写真でも
画質が悪かったとしても、
焼失した名画というのは伝説になりえる
なんて思うのですが、どうでしょうかねぇ。
この絵の写真、ぜひ展覧会で見つけてくださいね。

開催中の回顧展では
作品のすべてがガラスケースに納めてあるため
少々残念な気もしますけれど、
それでも、激動の時代を駆け抜けた、
勝治郎の息づかいが伝わってきますし、
早すぎたイラストレーターの伝説が
ここから伝承される・・・かも・・・。

個人的には、デザイン関係の方、
イラストレーターさんに
ぜひ観ていただきたいな~と思っています。
特にグラフィックデザイナーさんは
“隙間”のある勝治郎の絵に、
何かしらのデザインを施したくなるのでは…?

というわけで長くなりましたので、文末にもう一度、
展覧会の写真集をリンクしておきますね。
勝治郎の師匠や盟友・黒田清輝など、
明治に活躍した作家の作品もご覧いただけますよ。

特別展「中村勝治郎」写真アルバム

スライドショーはこちらから
~写真は許可を得て撮影しました~
~私の気の利かないコメントも付けています~
~写真はカラーです~


会期が迫っております。
5/22(日)まで。開館時間は9:00~17:00ですが
金・土は19:00まで延長となります。

そうそう!入場券なしで利用できるスペースが、
美術館内に新しくできました。
奈良の映像が見られるスペースで、
ひと休みの場として気軽に利用できます。
↑上のアルバムの最後に登場しますので
よかったら最後まで見てくださいね~。


▼入場料割引券がダウンロードできます
クローバー 特別展『中村勝治郎』のご案内
奈良県立美術館 奈良市登大路町10-6         
TEL 0742-23-3968
FAX 0742-22-7032
入場料/大人800円,大高生600円,中・小生400円
団体割引有り 詳細は↑サイトで


5* 割引券のご用意があります。
よろしければお立ち寄りください。
小さなギャラリー「五想庵」のご案内
土日祝のみオープンする5*SEASONの常設ギャラリーです。
ならまちで11:00~18:00まで。
近鉄奈良駅から徒歩10分、JR奈良駅から徒歩15分♪

やぎ座5*SEASON's Home
『つぶやきの動物園』TSUBUYAKI ZOO


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