イースタン・プロミス |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

刃
キラッ☆ 私の身近な道具であり凶器。
パステルを削ったり紙の表面を削ったりする大事な道具も、
使い方を誤れば凶器になる。
ちなみにロシア・マフィアのファミリーとして認められた者は、
その契りとして胸に星印のタトゥーを入れるそうだ。
星は希望の象徴として捉えられることが多いが、
マフィアの誓いに使うってぇのは痛い。かなり痛い。


マフィアの世界を描いているのに、
銃がさっぱり出てこない映画を観た。
『イースタン・プロミス』。

ロシア・マフィアの世界とはこうなの?
いやいや、そうではないだろう。
刃で肉体を切り裂く暴力が、
この映画のフィクション性を高める道具なのだ。
切り裂かれた後、映画は観る者を現実とは別世界へ疾走し、
日常の「すぐそこ」にあるだろう無気味な闇社会へと導く。
あらゆる人間は、本来なら快適さをくれる便利な道具を
殺戮の凶器へと変えてしまうことができるのだ。

私が絵を描く道具として重宝しているカッターも、
キャベツやネギをリズミカルに刻む包丁も、
使い方を誤れば、人の命を奪ってしまえる。
刃だけではない、車も電話もパソコンも。

実際、フツーの人間が、
フツーに身の回りの道具を使って大罪を犯す、
こんなニュースが連日報道されている。
無知ゆえに、と思わずにはいられない。
痛みを知らないものは安易に痛みを他者に与えてしまう。

『イースタン・プロミス』は、
私がイチオシで賞賛している俳優ヴァンサン・カッセルと
男気にクラッときているヴィゴ・モーテンセン、
美貌だけではない女優ナオミ・ワッツの演技が秀逸!
観るべき映画を観て良かった。
ハラショー! 鬼才グローネンバーグ監督!


★★★★★★☆ 7点満点で6点 +0.5
これほどの演技が交錯する映画、ここのところ観たことない。
一瞬たりとも目が離せない。
けれど、あまりの痛みに目を覆ってしまった弱虫な私。
満点にならなかったのは、そのせいか?
もっと観ていたい、100分では短すぎると思ったのは、
心のどこかで『ゴッドファーザー』と比較してる…?

「残虐行為で始まる冒頭」、
話題となっているヴィゴ兄さんの「一糸まとわぬ格闘シーン」等々、
観ている者に「切り裂かれる痛み」をいやというほど見せつける。
特に、サウナでの「一糸まとわぬ格闘シーン」は、
この映画の山であり、最大のメッセージ。
丸裸で刃に立ち向かうヴィゴ兄さん、カッコイイ。
スタントなしで撮影されたときくけど、よく撮れたなぁ。奇跡だ。
それまで静に徹していたヴィゴ兄さんが一転し動となる、
あまりの変身っぷりには、
人の内面でゴソゴソと うごめく情念を見せられたようだった。

バカ息子役のヴァンサンの演技は、またもハラショー!
やっぱ好き、ヴァンサン!
残忍で非情で頭の足りない二代目でありながら、
実は闇の中の光にもなるという実に難しいキャラを、
ヴァンサンは見事に繊細な演技で表現してる。
ラストのヴァンサンとヴィゴ兄さんの心の交差は、
人間とは光を求める生き物だと伝えているかのようだった。

ヴァンサンが演じるバカ息子と同じく、
光になっているのが父親の分からない赤ん坊。
誕生の場面は神秘的ではなく、ホラーっぽい。
新しい命はコウノトリが運んでくるといったファンタジーではなく、
出産に立ち合ったナオミ・ワッツが
闇社会へ巻き込まれるであろう序章にふさわしい。
が、映画のラストで赤ん坊は天使に変わる。

ヴァンサンとヴィゴ兄さんの間には、
同性愛者的ともいえる一筋縄ではいかない感情が通っていて、
男組織における「男と男の関係」をリアルに感じることができた。
男だけの世界、男の流儀に生きている輩は、
男に女を見るんじゃないか、と私は思うのだ。

この映画ほど、私に英語力があれば、と悔しく思わせるものはない。
ロシアなまりの英語が飛び交うのは私にも分かったけれど、
字幕を追うのではなく、直にロシア訛りの英語が理解できたら、
もっともっとクローネンバーグの世界に感嘆できただろうに。

●『イースタン・プロミス』サイト

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