迷子の警察音楽隊 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


『淋しがり屋のト音記号』



旅先で迷子になる、
なんて経験は、
方向感覚が糸の切れた凧状態の私には
よくよくあるお話だ。
けれど、旅が予定調和でないだけに、
迷子になったおかげで、
とんでもない親切に甘えられたり、
どこにでもある穏やかな家族の風景に
ホッと胸を撫で下ろしたりする。
かといって、自ら進んで迷子になってやろう、
そんな気持ちで旅に出ているわけではないけれど、
分単位で予定を決めて旅に出るより、
気の向くままよその土地を歩いて、
風来坊を気取った方が
記憶に残る想いを味わえるとは思っている。
そうして時に、言語が異なった よその国ほど
忘れ難い温かさをくれるのではないか…?

母国語ではない国で迷子になったとき、
その国で交わされる言葉は
ただの音階へとスイッチされ、音楽へと変わる。
が、音楽と変化した言語は居心地がいい。
なぜなら居心地の悪い言語など、この世にはない、
そう私は信じて疑わない。
なぜなら、人を不快にさせる音調で
日常が交わされることなどないのだから。

言語が音楽に変わった“たった一夜の物語”を観た。
『迷子の警察音楽隊』。
音楽の尊さを見事に描いた
今年の映画〆に相応しい映画だった。



★★★★★☆☆ 7点満点で5点
エジプトからイスラエルへ演奏を目的に来た警察音楽隊は、
見知らぬ土地で迷子になる。
楽団の目的地は「文化ホール」だったが、
迷子になった街にはホールどころか、
文化すらないという。
そんな文化のない街の住人と、
警察というお硬い組織で異端視されている音楽隊は
どこかで共鳴する琴線をもっていた・・・。

交わす言語が違っても国境を隔ててはいても、
寂しさも後悔も、そして人を恋いうる気持ちも
あたりまえに横たわることの再発見を
見事に描いた「説得作」だった。
しかも、笑える。爆笑ではなく、
ネタが分かっているのに笑える落語に似た笑い。

音楽という自己表現が放つエネルギー、
これをを讃えつつ、同時に本作は映画讃歌であり、
芸術讃歌でもあると思った。嬉しい、と思う。
やはり国境や隔たりを超えるのはコレなのだ。

とりたててドラマチックな演出はなく
あくまでも淡々と物語は進行するが、
語りかける強さがほとばしっていて、
今年の〆映画に相応しい一本だった。

さりげなくリアルで、
さりげなくロマンチックで、
さりげない奇跡が訪れる、きっと誰にでも訪れるであろう
ありふれた一夜のハプニングを
さりげなく音楽に託したところに好感をもった。
ぜひ、エジプトの警察音楽隊には日本にも来ていただきたい!
泊まるところがなければ、私のところで雑魚寝でも…?

ただ、私が似たテイストの『天然コケッコー』を観ていたため、
どこかで比べてしまっていた。自分に渇っ!


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2007年12月26日(水)~30日(日)
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