『山羊的迷路』
わたしのことかぃな???
息絶えたら天国に行く、
というのは西洋の思想で、
この日本の地に生をうけた私は子どもの頃、
「死んだ人は草葉の陰にいる」
と、今は亡き伯母からきいたものだった。
たとえ身体は朽ち果てようと、
魂は地下に留まらず、
そこへ根を張る 草や葉や樹木に宿る、
私は幼い頃から、そう受け止めていて、
だから、私は緑が大好きだ。
緑を育む大地や土も好きだ。
特に人よりも長生きしていそうな大木は
「目には見えない生き物」や
「ご先祖さま」を知っているので敬わなければいけない、
こんな想いが頭に沁み付いていて、
そのせいなのか…私は緑を育てるのが好きだ。
猫の額のようなベランダで、
わずかながらの緑を育て、種を採り、
小さな空間の土を掘る。
土を掘り返していると、ときどき
得体の知れない虫がワサワサと出て来たり、
思っていた以上の根っこが出て来たりして、
もうドッキリ★ 恐かったりドキドキしたり、
ふだんは忘れてしまっている地下の生の様子が伺える。
そうして、光の差さない世界には、
私の知らない「もうひとつの世界」があるんだと
しばし果てしない想い耽るのだ。
たとえば、宮崎駿監督のいう「もののけ」だとか、
おとぎ話に出てくる妖精のようなものは、
大人となった今の…いえ、今でも私は
精霊の化身ではないかと思っている。
つくづく伯母の教えから逃れられないわけで…。
な~んて戯言は、私の妄想?想像?空想?
幻の世界に逃げているの?
「逃げていない」とは言い切れないけれど、
私が常々思うこと、それは素敵な人というのは
「思いやり」のある人だと。
自分以外の誰か、
自分のいる国以外の「よその国」を思いやれ人、
そういう人に憧れるし、私もそうありたいと願う。
映画『パンズ・ラビリンス』は
妄想と想像と空想が入り交じった素敵な創造世界。
光の差さない地下に光を求めた少女の、
清らかな「思いやり」に満ちた傑作だった。
草葉の陰と云われた地下は
私にとっては未知であり、近しいもの。
地下と地上を繋ぐものは 緑茂る植物ですね、
私にとっては。天からやってくる水や光は
あまりに遠くて気高く、神々しいものなのです。
映画の冒頭から、いきなり「死臭」が漂い、
「はたして映画が終わった時、誰が生き残っているんだ?」
そんな思いを抱きながらビクビクして観てた。
2時間という枠を最大限に生かした傑作だと思う。
で、生き残ったのが“彼等”かぁ。納得です。
ヒロインの少女の結末は予想通りだった、
そうなるしかないなぁって、最初から感じてた。
私はファンタジーという枠でくくられる作品が苦手だ、
が、この映画はファンタジーという形式を装った
限りなくリアルに近いフィクションだと思う。といいつつ、
人はファンタジーと孤立無縁では哀しい生き物だ、とも思う。
ファシズムに傾倒する大尉と
山羊の化身・パンのいるお伽話に傾倒する少女、
圧政に反発するゲリラたち。
いずれも妄想、空想、創造、理想、
この境目のないファンタジーの世界で支えられている。
が、私が素敵ではないと嫌う「思いやりのない人」は誰なのか、
答えは明らかで、救い様のない終焉を迎えることになる。
一見すると悲劇的な結果をもたらせらた人物には、
きちんと救いの世界が描かれている。でも、
これが幸か不幸か…一概に言えないのが この映画のすごさ。
この映画がリアルだなぁと思うのは、
どの登場人物にも「弱さ」を描いているところ。
極悪非道の人として描かれるファシズム大尉ですら、
しかと「弱さ」を見せてくれる。
死と生を同一線上に描いた作品が好きだ。
この映画はまさしくそれ。生と死は一体のもの。
地下=闇=死=寓話と
地上=光=生=現実をリンクさせて展開する巧さ、いいわ~。
ジブリ作品に私があまり共感できなくなったのは、
地下を描かず天を仰ぎ見る視点に飽きたのかもね。
この映画では「現実」の方が劇的に描かれている。
これが何を意味するのか、と私なりに考えてみたら、
「現実は過酷だ、それでも生きよ!」というメッセージでは?
映画の背景となっているスペイン内戦と同じ状況が
現代にも、きっちり存在してることを忘れてはならない。
余談。物語を運ぶ要・パンのこと。
パンはギリシャ神話に出てくるヤギの化身といわれている。
ヤギの目は独特で、カエルの目と同じく「横一文字」、
どこを見ているのか分からない視線をもっている。
ヤギもカエルも人間には見えない“何か”を見ているようで、
私には特別な動物として映る。
私自身「ヤギ」と呼ばれることが多いので、
パンには妙な共通点を見出さずにはいられない。
しかも映画のパンは下半身が枯れ枝のようで、
これも私の「木を敬う」想いと一致する。
パンをはじめとする化身たちのデザインも好き。
手のひらに目玉のあるアイツは特に好き。
アナログとCGのバランスも絶妙~!
えーと、痛いシーンや拷問場面は観ていませぬ、
3~4ヶ所はパーフェクトに目を反らしてた。
観られへんのよ、想像すると痛くて痛くて…。
傑作だ! とかいいつつ満点じゃないのは、
やっぱりねぇ、ハッピーエンドがどこかで観たかったのねぇ、私。
敬愛すべき映画なのに、ごめんねぇ、監督!
でも久々にパンフレット買ったので許してくだされ。
絵本みたいで素敵やわぁ。それから!
ヒロインの少女が「アキバ系萌え」だったのもポイント高し!
衣装とか、息切れの具合とか、ジャパニメーションしてまっせ~!
孤立に勝る不幸はない。
常々思っていることを、今一度 思いたい。
『パンズ・ラビリンス』で最も孤立していた人物を、
私は腹の底から哀れんでいる。
●『パンズ・ラビリンス』サイト
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