題名のない子守唄 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


『ぐるぐるぐるぐる』
堕ちているのか、包まれているのか。
なんだか人生って、らせん階段に似てる。
それとも、運命の うず巻き。



世の全てのものには
常に裏と表がある。社会には、
光を浴びる表社会と、影に潜む裏社会がある。
人間の心にも明暗の両方を秘められていて、
ポジとネガが常に共存してる。私もそう。

人は誰しも、裏よりも 陽の当たる表の方を好むはず。
が、いったん裏社会に触れ、
もう そこにしか自分の居場所を見出せず、
逃れたくても逃れられない境遇に堕ちてしまったなら、
人は生涯、裏社会で暮らし、
闇の中で光を見出さなくてはならないのだろうか?
いいえ、と私は思う。

どんなに裏社会に浸かろうと、闇に染まろうと、
真の償いの気持ちがあれば、やり直しはできるはず。
ただ、相当な覚悟と強い意志を持ち、
精神、肉体、両方に伴う痛みに耐えられなければ、
再び「らせん階段」を転がるように、
闇の底へ堕ちてしまうだろうし、
償いとは「恨み」から解き放れてこそ成立するもの、
これは難しい、たくさんの時間が必要になる。

どんな境遇であろうと、たとえお金がなくとも、
考え方ひとつで得られるもの、それは希望。
希望はまた、消えやすくも儚い。

仏教に『慈悲忍辱』という言葉がある。
意味は「慈悲の心をもち、あらゆる苦難に耐える」で、
読み方は「じひ にんにく」…ちょい笑える…ニンニクかぃ…。
トルナトーレ監督の『題名のない子守唄』を観たところ、
ニンニクたっぷりのパスタのような映画でありました。

…なんて、うそで~す☆ この映画は
「慈悲にんにく」を見事に描いているのであります。



★★★★★☆☆ 7点満点で5点
映画監督トルナトーレと音楽家モリコーネの名コンビによる最新作。
やっぱりね、2人は最強コンビ、流石に息が合ってる。
トルナトーレの大ファンである私も満足!
彼の映画は、モリコーネの音楽無しには成り立たない。

少し前のこと、ラジオでモリコーネ音楽の特集をやっていて、
番組のコメンテーターたちが話していた内容が興味深かった。

モリコーネはトルナトーレの映画音楽を作るにあたって、
まず、脚本に合わせて大まかに作曲する。
その曲に合わせてトルナトーレが映画を作り、完成した後、
さらにモリコーネが音楽を完璧に仕上げるとのこと。
ということは、トルナトーレの映画は
モリコーネの曲と同調すべく作られるわけで、
まさに渾然一体となってしかるべき、なのだ。
『題名のない子守唄』のモリコーネの音楽は
以前の楽曲に比べて、音で抽象的に感情を表したり、
斬新なリズムを刻んだりして、優美なだけでなく、
時に心象を かき乱すようなメロディーもあった。
これは裏社会で生きてきたヒロインの心と、
ミステリーのドキドキ感をあおるのに充分だった。

R15指定ということで、冒頭にいきなり女性の衝撃場面が登場する。
仮面を付けさせられた裏社会の女が、
男の道楽によって選ばれ、品物としてチョイスされる。
非人間的な行ないを、トルナトーレはクールに映してる。
人を人として扱わない非道ぶりを観せたあと、
物語は謎と闇をフラッシュさせながら展開していく。うまいな~。
音楽も当然、ぴったんこだし。
画面構成が「表社会」から疎外されて生きていた女の、
恨みや悲哀を充分に臭わせる。
トルナトーレがこんなにもシャープな映像を作るなんて、意外!

この映画はミステリーの仮面をつけた人間ドラマ。
なので、種明かしとしては疑問が多々残るし、
つじつまが合わないところもある、けれど、
トルナトーレが全てを見せようとしていない意図を私は感じた。
といいつつ、ヒロインの女の妄想なのか、事実なのか、ねつ造なのか、
私にも判断できない場面が いくつかあって
観終わってもスッキリしない部分があるにはある、けれど
病んでいるのは裏社会だけではなく、「表社会」も同様だと、
トルナトーレは暗示してるようにも取れる。
裏と表は一瞬にしてすり変わるもの、
私自身、裏ではなく表社会にいるつもりだけれど、
もしかしたら「限りなく裏を隠された ウワベ」にいるのであって、
それは裏社会にいるようなものかもしれない。

この『題名のない子守唄』は母性がテーマの
ミステリー・ドラマだといわれている。けれど、
私には現代の社会構造を皮肉った批判の一矢にも思え、
背筋がゾクッとなった。闇の支配者の存在を
あからさまに描かず、ぼかしているところがリアルだ。

主演の女優さんの、まるで三役をやっているような
過去と現在の演じ分けがすごい。娘役の女の子もかわいい、
でも小生意気な子やなぁ。イタリアの子はオマセさん?

ラストシーンの笑顔に超号泣。疑問も感じたけどさ…。


●『題名のない子守唄』サイト

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