武士の一分 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


『碗の一幸』
手描きがダメならデジタルで⋯
病んでる機会にマウスの達人 目指そっかなぁ。



おほっ。黄金の右腕のお見舞いで
映画チケットを何枚もいただいた。
役得ですぅ。ニンマリ。しかも いただいたのは
年末年始に公開される話題作ばかり。
ふだん私が好んで観る映画は
アート系という名のマイナー物に傾いているので
滋養期間は世の嗜好を
話題の映画で調査できそうで楽しみ!
で、調査一発目はキムタク主演の『武士の一分』。

このブログに映画の感想を書くとき、
映画そのものの感想はさておき、まず最初に
映画を通じて感じた私自身の想い出を
ダラダラと“つぶやき”で綴ることにしている。
なので、本作の『武士の一分』についても
何かしら心に沸いた記憶を残したいけれど、
どうにも想いが込み上げてこない。
なぜか、と想いをめぐらせてみると、
どうしてもキムタクの強いオーラに押されてしまい、
私の右脳が縮んでしまうのだ。
なので、まずキムタクについて、
ちょこっと つぶやいてみることに。

木村拓哉ことキムタクという人は
けっして嫌いではないが、私の受け方は
ジャニーズ事務所に守られた人気タレントという
平均的な人でしかない。
とはいえ今は昔、彼が結婚したとき、
どうにも ガッカリした記憶がある。
「あ、終わった~」
という“夏”が逃げた脱力感。
彼は居心地のいい“秋の人”なのだ。
ようするに攻めから守りへシフトされた彼が、
選んだ伴侶はやはり有名な芸能人で
以降は彼の姿を観る度に私生活が想像させられ
模範的な家庭人として映ってしまう。
危なっかしい綱渡り芸人の方が
保険を鞄に入れて大通りを行く人より
ドラマチックで魅力を覚える、
という性分は私だけではないはず
が・・・少数派ですか、
キムタク人気は依然と強力らしく・・・。

今年も女性誌の「好きな男ランキング」で
キムタクはダントツの一位だったとか。
なで? なでなの?
なで、飽きない? もうええやんか、
何をやっても間違いなくキムタクなんやし
と思ってしまう私がヘンコ?
⋯とも、まだまだ彼はスリリングな夏なのか、
⋯とも、ニッポン婦女子が好いているのは
保険路線だという証しなのか、
⋯とも、ジャニーズなんてやめちまえっ!
と思っている私が異端路線なのか、
『武士の一分』を観て ますます悩ましい私。

私の眼には守備の人に映るキムタクが
「一分を守る武士」を演じている山田洋次監督の最新作。
サムライが守り通したものは何なのか⋯?
いいえ、主人公は守ってなどいない、
攻めていた、と私は感じたのだけれど、
こういう捉え方をするヤツがいるなんて、
映画の主題がぶれているってことじゃ・・・?

【あらすじ】山田洋次監督の藤沢周平時代劇映画化三部作の最後を飾るヒューマンドラマ。主演に『2046』で世界にも活躍の場を広げた木村拓哉を迎え、幕末に生きる武士の名誉と夫婦のきずなを描く。妻役の檀れいやかたき役の坂東三津五郎ほか、緒形拳や桃井かおりなど、日本を代表とする実力派俳優が勢ぞろいする。「武士の一分」とは、侍が命をかけて守らなければならない名誉や面目の意味。そのタイトルが指し示す人間ドラマは、観るものの心を揺さぶる感動巨編。 ~シネマトゥデイ~

★★★★☆☆☆ 7点満点で4点
キムタクはいい。
いい というのは「いらない」ではなく
良い、グッドという意味。もともと巧い人だ。ただし、
華が有り過ぎ。「他」との調和がとれてない。
タイトルを『木村拓哉の武士はつらいよ』とし、
松竹の看板スター映画でシリーズ化してほしいもの。
な~んて思ってしまうほど華々しい。

キムタクとヨメ役の檀れいさんが夫婦に見えない。
夫婦愛を描くという刷込みをもってみてるけど、
スで観たら姉と弟に見えたように思う。
というのも、それぞれの演技が立っていて、
ふたりで家庭を築いている丸みが感じられない。
キムタクはキムタク、ヨメはヨメ、
息が合っていないというか、互いを思いやっていないというか、
それぞれが好きに演じてるという具合。
考えてみれば、キムタクは自分のスタイルを
持ち過ぎているぐらい持ってるし、檀れいさんは、
これが映像デビューという舞台人らしいので、
自分のスタイルが全面に出ても仕方ないような気もする。

この夫婦には子どもがいない。
いない理由が語られないのは不自然では⋯?
語ることで、夫婦の結びつきとラブラブ度が分かるだろうし、
子どもがいる夫婦と いない夫婦の違い⋯
相手に対する関心が強い点も表れるように思う。

キムタクには下働きをしてくれる爺さんがいて、
これがまたナイスコンビ。夫婦よりもむしろ、
こちらの凸凹コンビの方が はるかに味があったし
結びつきの強さも伝わってきた。
キムタクが「一分を守る」のではなく
私には「一分で攻める人」だと映ったのは
爺さんとの従属関係の方が
横のつながりである夫婦関係よりも見どころが多く、
物語りの軸としても際立っていたのも一因。

キムタク演じる下級サムライが
武家階級に辟易していたのはヤンワリ描かれている。
けれど、剣というものについて、
人を殺めることについて、彼が どう受けとめているのか、
剣の腕前は いかほどなのか、
そこらへんの演出が欲しかった。特に、
あっという間に剣が上達するのでは物足りない。

桃井かおりさんをはじめとする「うざい親戚」は
映画の中に笑いをかもし出し、
重いテーマを和らげてはいる、が、本当に必要なの?
下手に世話物にしてるだけのような?
もっと、この時代に生きながらも
自己をしっかり見つめているこの夫婦の絆を
きっちり浮きぼりにするような配置がいいのでは⋯?
「うざい親戚」のイジメっぷりを誇張しても面白そう。
桃井かおりさんの演技は流石だけに惜しい。

笑いが欲しいなら、
盲目となったキムタクの哀れさで作るべき。
究極に不幸になった人物は、
もう笑いしか残らないのだから。

時代劇に付き物の悪者サムライにしても同じで、
たいして悪いことしてないんじゃないか、
そんな気さえする。いや、他人のヒトを恥辱させ、
私腹を肥やすことに懸命なヤツなんだから、
充分に悪者なんだけど、これも演出不足では。
この人物の厭らしさと不人気のほどを
全編にちりばめても良いような?

結果、描くべきを描かず、
描かないでよいものを描いてしまい、大味の感。
物語り自体は分かりやすく、
時代劇が苦手な人でも馴染めるよう作ってある。
観て損した気分には まずならないだろう、と
盲目のキムタクの演技に涙をポロポロ流しながら思った。
美術や衣装については、さすがの風格。
あぶなげない老舗の味がする作品で
いいかえれば熟れたエンタメ。

御大・山田洋次監督とキムタクは相性がいい。
ぜひとも、キムタクを正義の味方に配し、
スカッとさわやかなコメディ時代劇
『木村拓哉の武士はつらいよ』を作ってほしい。
キムタクに「家を背負わせる」のは不似合いだ。
彼の演技は結婚以前で止まったまま、
枯れ水を演じるには華が邪魔をする。

英名が『Love and Honor』。
やはり名誉のために闘ったのだ、一分を守ったのではなく
攻め込んだ、サムライ・キムタクは。

キムタクが包み込むように手にしていた茶碗、
あの中に真の幸福が詰まっている。そのことに
やがてサムライは気付く。名場面。

~新宿ジョイシネマにて観賞~



*TSUBUYAKI ZOO*
 


●映画『武士の一分』サイト