ゆれる |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー


揺れる気持


一番恐ろしいこと、
それは何も感じないこと。

精神不感症とでもいうのだろうか、
感激もなく、落ち込みもなく、喜びも哀しみも、
泣くことも、笑うこともない、少しもゆれない、
何があっても神経が微動だにしない、
そんな鋼鉄の心を持つのは まっぴらご免だ、
とんでもなく怖い。
人が生きるということは揺れ続けるということで、
心臓がドクドク動いてビートを刻むように、
気持だってユラユラ動いて揺れなければ、
35度~36度の あたたか味のある
人間という生き物には とてもとても思えない。
だから嫉妬 や ねたみや劣等感や疑心という
醜い感情だって生きている証しなのだ、
影の自分自身も認めなければ
さぞや しんどいだろう、平凡な暮らしが。

そうして時に、人のこころは
大きくゆれる。右に左に、
上に下に、ぐるりと一回転してゆれて、
近しい人間の心までも大きく揺らす、
その挙げ句、指針が大きく変わることもある、
人は ひとりで生きているのではないのだから。

西川美和監の映画『ゆれる』を観た。
あれは9月の映画の日だったから、
もう小一ヵ月前になるというのに、
「観た」という印象が今も消えないのは
映画が放っていたメッセージが強かったからで、
私も集中して観たからだろう。

『ゆれる』というタイトルが示すように、
“ある吊り橋の事件”をきっかけに、
この映画の軸となる兄弟や、
周りの人間たちの気持と人生も大きくゆれる。
彼らは生きているんだし・・・!

たいへんに細やかな心理を映す映画で、
私は最初から最後まで ずっと引き付けられたけど、
ひとつ気になったのは
この作品では「親兄弟は意思が通じ合うもの」という
杓子定規な観念で創られているような気配が
家族崩壊を経験している私には苦手といえば苦手だ。

家族は ひとつの机に座って、
和気あいあいと 、たまに言い争ったとしても、
手を取り合って生きる姿が ほほえましく正しい
とは まったく私は思わない。
一生打ちとけない親子も兄弟もいるだろうし、
片親だけで育つ子どももあるだろう、
劇場型に盛り上がっていく映画の結末は
ステレオ対応過ぎるように思ってしまった。

私自身の家族が以前、
それぞれに理想の家族像を追求するあまり、
歯車が狂い、傷つけ合う関係だったから、
なおさらそう思うのかな。結末にこそ、
「あの家族」のオリジナリティが観たかった。

私の家族。両親と妹と私。
今は両親が実家に住み、
妹は嫁いで別の家族をもち、
私もひとりとはいえ独立して暮らす。
親子は別々、姉妹も別々、
もう無邪気な子どもは絵描きの私だけ、
誰もが「普通の暮らしはこうである」を主張しない。

人は私の家族を見て
「楽しくて良い家族だ」という。
それで間違いはないだろう、
幸いなことに、私の実家には
家族それぞれの友人がひっきりなしに訪れてくれる
きっと他人にとっても居心地のいい家なのだ。

そんな家族は、かつて大きく揺れ、
ぶつかり合い、傷つけ合った、だからこそ、
今の形がある。それに
映画『ゆれる』の兄弟と同じように、
「同じ親から生まれて、どうしてこうも違うのか」と
私ら姉妹はそれぞれにコンプレックスを抱いたもの。
私は『ゆれる』と同じ経験をした、だからこそ
真実味をもって響いてきた映画だとは思う、でも⋯
でも⋯という言葉が頭で揺れる一本やねんなぁ、これ。


★★★★★☆☆ 7点満点で5点
香川照之さんとオダジョーの演技が世間で大絶賛。
もう今さら私ふぁふれることもないだろう。
というか、私にとっては
父親役の伊武雅刀さんの演技が強い。

オダジョーは演者というか、
創る側のこだわりを持っている人のような気がする、
イマイチ、演じることに納得してない⋯
とかなんとか、そんなことを思っていたら、
案の定オダジョーは現在映画を監督中とか。
アートのセンスを持ってる人って
なんとなく匂ってくるんです。

「男ども」の映画。
その平均を崩すのは女ですか、やはり。
女は邪悪なものなんでしょうか、いつの時代も。

洗濯物をたたむ、洗濯機をまわす、
洗濯物を干す、男の侘しさは洗濯、この映画では。
裁縫、ゴミ出し、風呂掃除、
やってるのかな、この映画の男たちは。

地方の田舎よりも
東京の、大都会の暮しの方が割が良い、
このコンプレックスから解放されるのは、
ある程度 内面が枯れないと難しい、
このニュアンスが さりげなく演出されていたところに好感。

「ある事件」の真相追求をすることで、
家族は崩れていく。
真実は常にひとつしかない、
けれど それを見聞きした人間の数だけ
真実は物語として発展する。
真実にもっとも近い物語はどれか、
完璧に見破る人間がいるのかなぁ。

新宿武蔵野館にて観賞~






●映画『ゆれる』公式サイト