武満徹 Vision in time 展 |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

メロディー

a rhythm


音楽家・武満徹の展覧会へ行ったとき、
まず私が感じたのは、ここは音楽家のためのスペースなのに、
そこに音楽が なかったことについて、これは妙なことだ、
と思ってしまった自分が妙だということ。
たとえば武満徹の音楽を絵に表現するとか、
音楽そのものをビジュアル展示⋯などは
絵描きである私の発想で、
メロディーを停止させて展示観賞なんて不可能だし⋯
などと戯言を呟きつつ 静かに観賞。

ギャラリーの壁には
複数のアーティストが手掛けた作品が並ぶ。
それらは武満徹がインスピレーションを得たアートで、
詩や小説、絵画、立体造形、映画など、
音楽家の好奇心は広範囲に及んでいて、
メロディーの根源を見られたようで楽しい。けれど、
中には こんな落書きから音楽が生まれるんだ⋯と、
驚くようなものも。つまりここは
展覧会のタイトルになっているビジョンを感じる空間、
音楽家の頭の中なんだ、と 納得しながら観て回る。

あるスペースに武満徹自身が描いた絵が数点あった。
それは抑えた色彩の抽象画。
あるスペースには武満徹の直筆スコアがあった。
オーケストラのための複雑な筆跡を見て、
私はウェッブサイトのソースを見たような感覚になった。
作曲するって、ややこしい! 頭の中どうなってんの!

武満徹は都市の音楽家。
都市に集うアーティストたちとの戯れをスコアにする。
だからこそ、さまざまなジャンルとコラボレーションし、
エネルギーにした⋯だいいち音が孤独で不安だ、と、
展覧会場に設置されていたヘッドフォンで
彼のCDを聴きながら想像していたが、
武満徹が音楽を手掛けた映画を6本観たあと、
やはり、真のアーティストというのは、
自然を感じずに音楽は作れないと思い知る。
砂の音、風の音、木々のざわめき、そして
人の一喜一憂を音楽家は表現する。

妙なことに、武満徹の年表に こんな一文を見つけ
ホッと胸をなで下ろした。
「19XX年 バリ島を旅する。
 バリ島での音楽の在り方に感銘を受ける」
それまで『武満徹展』に
都会的なアーティスト空間という どこか冷たく、
ピリピリした神経質なものを感じていたのに、
バリ島という文字を見たとたん、太陽が注いだ。

バリ島での音楽は、花と共に暮しに かかせないもので、
あたかも食事をするように、
人々は当たり前に舞い、楽器を奏でる。
同じくバリ島では絵も そんなふうだった。

『共存』こそ、多くの人間のテーマかも。





●オペラシティー アートギャラリー『武満徹 展』



オムニバス(クラシック), 横山勝也, 鶴田錦史, 武満徹,
沢井忠夫, 諸井誠, 青木鈴慕, 入野義郎, 園田高広, 石野真木
武満徹 CD『ノヴェンバー・ステップ』