青幻記 ー 遠い日の母は美しく |  ◆ R I N G O * H A N

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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

青

Time Within Memory


『青幻記』という まさしくカゲロウのような、
蒼くきれいな映画を観た。

若き日の母を想うことが たびたび ある。
モノ作りに囚われている人間は、
過去のこと、特に子どもの頃のことを
ことのほか宝物のように大事に覚えていて、
時折、それを脳裏から脳表に取り出して、
ノスタルジーに浸るらしい。
そうして気分だけ詩人。

記憶の表、そこに立っているのは、
父であることより母のことが多く、
いつの時も母は若い。
肌はハツラツとして胸はムンとし、唇に艶をもち、
何故だかとても悩ましく、どこか不幸せそうな母。
私の“記憶カメラ”のピントが 合っていないので、
母の姿は ソフトな ぼやけた映像の中にあって
さながら『白幻記』とでも名付けたいほど、
乳白色に浮かぶ思い出は とても綺麗だ。

私の母は今も元気で故郷に暮らしている。
けれど、もう若くはなく、
すっかり小さくなってしまった。
母に手を引かれて歩いていた幼き頃は遥かのこと、
今は私と母は手を組み、並んで歩く。
時折、私が若き日の母を想うようになったのは
幼かった私が 母と慕った その理想の人の齢を
すっかり追い越してしまった事実に ある時 気付いて、
ああ あの人には かなわないと思い知ったせい。

母は若さを犠牲にした。
遠い日の、まだ若かった母は、
私や私の妹という自分以外の命のために懸命に生きた、
その強さを 私は ふと何かに疲れたとき、
あるいは幸せだと思えることがあったとき、
思い出しては胸打たれるのだ。

私の母の記憶は青ではなく乳泊色だな、
などと思わせてくれた『青幻記』という映画は、
なかなか上映される機会もないそうで、
DVDや一色次郎さんの原作本も
現在は手に入りにくいのが惜しまれる。
1973年の作品。


【物語】名監督の作品を数多く手掛けて来た撮影監督、成島東一郎さんの初監督作品。沖永良部島を訪れた若き日の主人公が若くして亡くなった母を回想する形で物語が進んでいく。幼少期を凝視する田村高廣の抑えた演技とカメラマン出身ならではの美しい自然描写が見事。 ~「タケミツ・ゴールデン・シネマ・ウィーク」パンフレットより抜粋

★★★★☆☆☆ 7点満点で4点
美しい沖永良部島の風景と
カメラがおさめた母と子の表情を
ゆったりと詩情を噛み締める映画。
夏の夜に、ひとりぼっちで静かに見るといいかも。
奄美や沖縄を舞台にした鮮やかな作品を
近年多く眼にしているせいか、
公開当時に観たかった映画。

武満徹の音楽は南国調ではなく、
たとえば沖縄風の楽器や音階などは
控え目になっているところが、
沖縄ブームを経た今、新鮮にうつった。
唯一、少年の母親が沖永良部島の舞を披露する場面があり、
映画のクライマックスになっている。
母役の賀来敦子さんが きれいー。
主人公が母の頭蓋骨を天に掲げる場面が胸に刺さる。

『武満徹 展』特設シアターにて観賞。




●参考ページ『一色次郎/青幻記』
●オペラシティー アートギャラリー『武満徹 展』