砂の女 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

静寂における能力

I Think So.


砂、砂、砂。
砂は溢れるばかりのメージくれる
砂は想像力の泉。
女の家は その村の砂丘の底にあった。

「乾いた砂は湿気を呼ぶから」

すごーい! 満点!
1964年の作品、モノクロ、どれをとっても一級品。
監督の勅使河原宏 脚本の安部公房
音楽の武満徹、主演の岸田今日子さん、岡田英次さん、
美術、編集、撮影、みんな みんな
ハラショ☆ ブラボー☆ おおきに ありがとサンキュー。

観終わった後、ながーい ため息をついてしまった。
すごいな、こんなものを完成できる人たちが
同じ空の下にいるなんて。あ、でも、もう、
天国へ行っている人がほとんどで、
とても悔やまれるけれども。

【あらすじ】砂丘地帯に昆虫採集にやってきた高校教師(岡田英次)は、その砂の穴の中で暮らす後家(岸田今日子)の家に一夜の宿を借りる。しかし、次々とこぼれ落ちる砂をかきだしているうちに、教師はその穴の中から脱出できなくなっていることに気づき、もがき、そしていつしか後家と情欲で結ばれ、その穴の中に同化していく…。 ~Amaszon co.jp より

うちの近所のオペラシティーで開催中の
『武満徹 展』で観賞。GW企画として
武満徹が音楽を担当した映画作品25本が
ギャラリー内の特設シアターで上映中。題して
「タケミツ・ゴールデン・シネマ・ウィーク」。
“武満徹の”という括りで企画されているので、
音を特に、意識して聞き耳を立て、
注意深く123分を観た。

挿入された武満徹の“音”。砂の音、風の音。
自然のざわめきと、人の心の歪みを
かの人はスクリーンというキャンパスに刻んでいく。
画家的な音だと思う、つまり
想像力を掻き立てる人口音。これを、いいと思う。
あんなに心臓を研がれるかのような、
不安な音なんて初めて聴いたような気がする。
今まで私は映画に使われている音楽を
注意散漫で流していただけかも、と反省。

岸田今日子さん。
先日観た『肉体の学校』でも目を見張ったが、
彼女の「野生の演技」が官能的で
あまりに美しく、泣きたくなるほど女だ。
男と女が絡み合い、しがみつく場面。
砂まみれなのに、濡れ場という不思議。
それを追うカメラが また湿気を含んで
そこに納める。

男と女には名前が決められていない。

砂の底に閉じ込められた男は
私であり、私以外の誰かでもある。
男は逃避したかった、とも考えられる、
社会の呪縛から、不条理から、
愛という面倒なものから。

しかし、逃げたのに砂に捕まる。
逃げようとするが、逃れられない。

女は何故、砂の底の貧しい家に
ひとり暮らしているのか。
女は まるで蟻地獄の蟻のように、
「天からの恵み」をただひたすら待っているだけ、
みじめではないのか? なぜその家から逃げない?
映画では 女に関する「なぜの答え」や
彼女の それまでの人生は ほとんど語られない、
なぜなら、女は“自然そのもの”、宇宙だから。
宇宙に飲み込まれた男は⋯さぁ、
最後はどうするのか⋯。

『砂の女』を知らない人は
ぜひ観るか、読むかで確かめて。
砂の、本当の意味を。


★★★★★★★ 7点満点!!!!
安部公房自身が脚本を書いている点が
この映画が成功している最要因だと思った。

これから先、私は事あるごとに
『砂の女』を思い出しては深く考え、
そうして軽く浮上するときもあれば、
ひどく落ち込んだりすることもあるのだろう。

けれど、北朝鮮が日本人を拉致した大罪と、
この作品の“砂の村”を一致させてはいけない
と 私は考えている。




●オペラシティー アートギャラリー『武満徹 展』
●岸田今日子さん主演『肉体の学校』


角川エンタテインメント DVD『砂の女 特別版』


安部 公房 原作 本 『砂の女』