音楽 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

ハサミ

The scissors


6歳まで私は
散髪屋を営んでいる親戚の家で育ったせいか、
ハサミというものは現実を知らしめてくれる道具だと、
いつのまにやら定義するようになった。
古いものは切り捨て、
ひとつで足りない場合はふたつに分ける。
チョキチョキッと思いきり良く、
不用なものを切り落とす、
ハサミはいつだって迷いがあるわけじゃない、
ゆえにハサミの潔さが実は苦手だったりする。

映画『音楽』のヒロイン麗子にとって、
ハサミは女性自身の身体であり、
男性を拒絶するための道具であり、
また、ハサミは理性でもある。

最近、ハサミの絵を
こちょこちょと描いていたりしたから、
映画の頭でハサミが大写しに出て来たときは、
「おっ・・・」と声が出た。

【あらすじ】中村登監督、岩下志麻主演で映画化寸前まで行きながら流れてしまい、原作者の三島由紀夫の死後、増村保造によってようやく実現した。他の音は聴こえるのに音楽だけ聴こえなくなる特殊な症状を持た女性・麗子が精神分析医の元を訪れる。麗子のウソとも幻想ともつかない話をききながら、次第に麗子の病気の原因が、麗子の実兄にあることがあきらかになるが⋯。タイトルの音楽とは性的快感のメタファー。104分。カラー作品。1972年作品。

麗子を演じた黒沢のり子さんは美乳だし
足もきれいで 体つきも色っぽい、
ただ残念なのは顔が泥臭く、演技も素人臭い。
けど、体当たりの演技は好感がもてるし、
増村監督の演技指導のうるささなんぞは、
想像するに容易い。

原作の三島由紀夫と、
増村監督ではミスマッチ、
だが、三島死後の制作だけあって
やりたい放題好き放題、
全体的に増村監督の色が濃い。
三島を耽美とするなら、
増村は真実の人。
この映画、汗に傾斜。

この映画を「色物or際物」だと
嘲笑う人は多いかもしれない、
けど、私は変人ゆえ、
リアリズム・アート作品だと思った。
そりゃ、物語の展開は大映ドラマよろしく、
パンパンパンパン、テンポ良く展開しすぎるけれど、
そこに汗が光る。
ヒロイン・麗子が自分のヒステリーの原因と、
懸命に向き合おうとする姿は胸打たれる。
たとえ、演技が下手だとしても、
精神が病んでいる人は こういうふうに不細工だと思う。

肉親との尋常じゃない愛、
不感症な性交、レイプ、死体とのエロ等々、
ただのB級映画なら笑って終りだけれど、
心の格闘がそこにあった、
等身大の女性が そこにいた。


キネカ大森「三島由紀夫 映画祭 2006」にて~

★★★★★☆☆ 7点満点で5点
増村ファンではないけれど、
おそらく増村色が消化不良だったと思う。
低予算のせいか、B級ホラーとして映るかもしれないが、
エッチな、『和製シザー・ハンズ』これ。
例の、『ブロークバックバック・マウンテン』のことが
頭をかすってしかたがなかった。
『ブロークバック~』は表向き純愛をうたったもので、
こちら『音楽』は本音、どこまでも。

中村登監督、岩下志麻主演だったら、
まったく違う『音楽』になってただろうね。





三島 由紀夫 原作本音楽