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歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

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豚に憂う


三島芸術の頂点であり、
映像美の極みでもあり、
三島様式美の到達点だと思う。
反面、あまりに馬鹿げたこと、
アホだとも思う。

【あらすじ】2.26事件が勃発した二日後。近衛連隊長に勤務していた武山信二 中尉は、事件に加わることが出来なかった悔恨と、後に かつての友である反乱軍を敵に回すことになる苦悩を胸に自決する。28分の短編。セリフは一切なく、流れるのはワグナーの音楽のみ。
●監督/原作/脚色/美術/制作/主演 三島由紀夫
●出演/三島由紀夫 鶴岡淑子


三島由紀夫の独裁映画。
三島由紀夫の演技については
お世辞にも上手とはいえない素人の域だった、
が、セリフを全て排除したこと、
三島由紀夫の顔全体をカメラがとらえないこと、
ワグナーの音楽のみで通したことで、
演技ではない真実味、リアル感がでた。
作品の舞台空間は、
能舞台のそれのように簡素化され、それは
儀式としての「夫婦の最後」を芸術作品へ押し上げ
モノクロームの世界は神話となる。

前半、「男」を印象づけるべく組まれた三島由紀夫の
フンドシで日本刀をかかげている姿は、
筋肉が隆々としているのに、物悲しい。
物書きには あまりに不用な筋肉の成果は
どこか滑稽にも思えてくる。

夫婦が最後に愛し合う場面は
妻・麗子を演じる鶴岡淑子が髪の毛の一本まで美しい。
三島由紀夫は義務として妻と交わる、
ぎこちない動きが ここでも物悲しい。

男性社会の賞賛、
女は傍観者として関わる切腹。
心中ではなく、妻は妻の勤めとして
夫の後から自決する。
腹を切った夫の後始末をするために
妻は後に残されるなんて!
なのに血に染まった妻の白装束を
美しいと思った私がいた。

後に、三島由紀夫本人も自決することになるが、
本作の切腹シーンはそれを彷佛させるに充分で。
というか、昭和にしか生きられない作家にとって、
これは疑似体験としての総合芸術か。

あー! アホくさっ。


★★★★☆☆☆ 7点満点で4点
アート、芸術、美学としての完成度は
おそらく高いのだろう。ただ、
私とは180度違った思考回路に寒イボが。

問題の“衝撃の切腹シーン”は やはり、
痛いのが苦手な私は 「ひぃぃぃっ!」と声がでた。
けど、以前に観た小林正樹 監督の
『切腹』の冒頭で描かれている切腹シーンの方が、
はるかに“痛み”が伝わってきたように思う。
あれはホントに痛いっ!!!
三島のそれは、ホラー映画もどき。
腹から飛び出た腸は豚の内臓を使ったとか。

鶴岡淑子は凛として美しく。

最後の枯山水で横たわる ふたりは静寂を生み、
このとき様式としての美は完全に停止し、
三島芸術の頂点は永遠となって、
もう朽ち果てることは ありはしない。しかし、
美学だか、神聖だか・・・よぉわからんわ。


キネカ大森「三島由紀夫 映画祭 2006」にて~




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