イヌ氏のミルクの話『f』という喫茶店で蜂蜜入りのホットミルクを飲むのは、いつも職場で嫌味を言われた日だ。「でくのぼう」だの「かかし」だの「ひまじん」だのと言われて、くさくさした心をあたたかいミルクの湯気が包んでくれる。湯気は真っ白だ。警備という、長時間同じ場所に突っ立ったままのオイラの仕事は体力的にもつらい、が。ごくろうさま週に2~3度、オイラの前を通り過ぎる人があいさつを残していく。それだけのことだが、嬉しい。ホットミルク。家でも簡単に作れるものを、わざわざ20分も歩いて『f』で飲むなんて実に酔狂なことだと自分でも思うが、カップに溶けている蜂蜜は見ず知らずの人からかけられる「ごくろうさま」と同じ濃度があると、ある日の深夜、イヌ氏は私の部屋で笑った。●home