赤ひげ-3 別世界への門 |  ◆ R I N G O * H A N

 ◆ R I N G O * H A N

歌うパステル画家5*SEASON鈴御はんの蒼いブログショー

門


『赤ひげ』の冒頭と最後で
大写しになる門。力強くて、どっしり。
“黒澤の世界”へつづく門でしょうかねぇ。



黒澤ファンのみなさま、おまたせ!
・・・誰も待ってないって・・・そーかそーか。
まぁ、ええ。

で、もう先々週になるんですが、
巨匠の『赤ひげ』を久々に“映画小屋”で観て、
改めて思ったことは画力の巧さだけでなく、
脚本の凄みが核だと、ひとり頷いた。

巨匠の作品のほとんどが、
複数の脚本家が一本の映画の脚色を手掛け、
より面白い知恵はないかと、
最終決定するまでワイノワイノと頭を突き合わせる、
という図式を以前 どこかで耳にしたことがあって、
本作も練りに練られた結果、
さすが! ということになるのでしょう。

『赤ひげ』は頑固一徹、正義漢で たくましい医者の元に、
世間知らずのおぼっちゃまが、なんの因果か入門させられ、
最初はスネまくっていたものが、
いつの間にか医者としての真理に芽生え、
弱き者に慈悲を与える器に成長する‥‥
という物語。時は江戸時代のいつ頃か、特定できませんが、
大雑把にいうと、医学を底辺にした町内ロードムービーで、
まぁ、よくある話。
でも、そのよくある話を「どう魅せるか」が
大事なわけで、それを巨匠の場合は、
おぼっちゃまの成長を太い軸とし、
そこへをいくつかの「小話」をからめ、
話が結末するたび、おぼっちゃまの精神が変化する、
という手法。そして戯曲、
舞台演劇がベース、この映画は。
第一幕第何話、第何話という具合、
しかも「休憩」までしっかりあるし。
画面にも途中、でっかい字で、

休憩

って表れるから、気分転換も出来るというわけ。
あたしは こういうクラシックな手法は、
「別世界」へ連れていってくれる様式美だと思うので、
かなり好き、だ。

あと、本作にはたくさんの人物が登場しては事件を起こし、
ぼっちゃまの成長に かかわっていきますが、
各人の「そしてどうなった」という、
はっきりした結末が省かれております。
それゆえ、観賞後に想像力が刺激され、
あの人はどうなったのかなぁ、と想像力が掻き立てられる。
また、脇役の結末を描かないことで、
全体が人情ドラマのように くどくならず、
テーマ軸がぶれない。
この辺りは巨匠の強い信念がそうさせるのでしょう。

先述した想像力、別世界については、
本作の冒頭画面が それらを刺激する。
医院の門を「誰か」がくぐり、
その姿をカメラが後姿で捉え、じっと写す。
ひととき、後姿の画面が続くので、
観ている側のあたしは「だれだろう?」と、
想像力を掻き立てられ、
別世界の幕開けを体得することになる。
「これは作り物、さぁ虚の世界の始まり始まり~」。

一昨日の記事で あたしが、黒澤巨匠の作品は
“墨絵で描いた漫画絵巻”だと表現したのは、
いつもいつも自然描写が劇的で大袈裟だから。
『七人の侍』なんかも、激しい雨を強調するため、
水たまりの水に墨を使ったという話があるように、
『赤ひげ』でも「おっそろしい強風」やら、
「美しすぎる桜」等が白黒画面でクッキリ表現される。
どうやって強調されたのか、その方法は分からないけれど、
それらは 少年が好む漫画的表現で、一方では あまりの劇的ぶりに、
クサイ演出だと引いてしまう向きもありましょう。が、
「おれは黒澤だ、どうだ!」と云わんばかりの、
強引な自然描写にすっかり惚れているのは あたし。
漢の前で「所詮はおんな子ども」でいたいのだ。

劇中、三船先生においては
貫禄の立ち振る舞いなのはいうまでもなく、
水先案内人となる おぼっちゃま役を加山雄三さんが好演。
「若大将シリーズ」で人気があった加山さんですが、
当時を知る あたしの母親に言わせると
「親の七光りの大根」だったとか。
ただし『赤ひげ』は その限りではありませぬ。
ドル箱の「若大将~」を一年お休みして
本作に取り組まれた、という話をきいたことがあるので、
その努力が実を結んだのか。
それとも黒澤巨匠の腕力によるものなのか。

ともあれ、『赤ひげ』はいつの世も、
多くの人の胸をうつ別世界だといえましょう。
重みのある門をくぐった瞬間、広がりをもって‥‥。
★★★★★★☆ 7点満点で6点

************************
トトロが苦手な相方へ告ぐ
つい最近、友だちの家で女三人が集まったとき、
宮崎アニメの話題になってな、
三人のうちの ひとりが「トトロは面白くない」って言ってた。
もうひとりの子は「トトロは宮崎作品の別格の感動作」らしく、
最新作の『ハウル~』も楽しんだそうじゃ。
で、トトロがバツな友だちは
『ハウル~』にも納得できないらしい、なんやキミと似てるなぁ。
あたしはというと、宮崎アニメではトトロが
『~ラピュタ』と並んで最も好きな作品、
ということは未見の『ハウル~』もOKかも‥‥。
ちなみに、トトロがバツな子は、
『~ラピュタ』が一番好きな宮崎作品らしい。

●首が回り始めた相方・でこのブログ