〝「棚見」のすすめ〟 | 好文舎日乗

好文舎日乗

本と学び、そして人をこよなく愛する好文舎主人が「心にうつりゆくよしなしごとをそこはかとなく書きつ」けた徒然日録。

数年前、英語のA先生の所へ質問にやって来た生徒が膨れっ面で帰っていった。A先生は次のように返答したからである。「名古屋の丸善に行って、本棚に並んでいる本を、横から順番に見ろ。まずはタイトルを見るだけでいい。一通り見終わったら、気になる本を手に取って目次を眺めろ。読みたかったら本文を見てもいいが、本はまだ買うな。半日それを繰り返せ」と。生徒が帰った後、日本史のB先生が話しかけた。「いやあ、見事撃退されましたね。丸善で半日本棚を眺めているなんて無意味な出来っこないですよね。いやあ、愉快です」と。A先生はBを無視して洋書に目を落としている。僕は「ああ、A先生は本当に勉強したことのある人なんだなあ」と感心し、「Bってのは本当に度し難いヤツだなあ」と呆れてしまった。

高田明典は『難解な本を読む技術』(光文社新書 2009.5)において、次のように述べている。

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ある分野の知識を得ようと考えたときに、最初に行うべきことは「書店の棚を見ること」です。本書ではそれを「棚見」と呼びます。できるだけ大きな書店に行き、その分野の棚に並ぶ本を、横から順に見ていきます。まずは本のタイトルだけを眺めるつもりで見ていき、少し気になったものがあれば、その本を手にとって目次を眺めます。タイトルや著者名を覚えようとしたりする必要はありません。ただ漫然と眺めていくだけで十分です。

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言っていることはA先生と同じであり、初学びの頃、僕が繰り返していたことでもある(僕の場合は専ら大学の附属図書館の書庫と、古本屋であったけれども)。

次回は「棚見」について、高田の言葉に耳を傾けながら、僕自身の経験も書いてみたい。