志望理由書や自己推薦書でいきなり800~1200字の文章を書くことは難しい。そこで、幾つかの項目に分けて簡単な自分史を書かせ、その中から志望理由書や自己推薦書に使えそうなものを選び出すとよい。例えば、工学部志望のA君のように……。
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◆「クラブ活動(中学篇)」
私は小学5年生の頃から野球を始めました。中学でも迷わず野球部に入りましたが、体が小さかったので、レギュラーになることはできませんでした。私は何とか試合時にベンチ入りする方法はないものかと考えました。私が自分の力を活かし、チームのためにできることは何か、思案の末に私が選んだのは、わが校のレギュラー選手や対戦相手のデータを記録に取って、スコアラーとしてベンチ入りするという方法でした。幸い、家にはパソコンがあり、父が仕事で使っているのを傍で見て、操作方法ほとんど覚えていましたから、難しいことは父に尋ねながら、ノートにコツコツ取ったデータをパソコンで統計的に分析し、整理して学校に持って行きました。それが監督に認められ、私は念願のベンチ入りを果たすことができたのです。粘りと根気で勝ち取ったベンチ入りでした。私はこの時、発想や視点を変えるだけで、いくらでも夢に近づく方法はあるのだということを学んだのです。また、地道にコツコツと積み重ねていく仕事が私に向いているのだということもわかってきました。そして、こうして興味・関心を持ち、大好きになったパソコンを使って将来仕事をすることができたら、どんなに楽しいだろうと考えるようになったのです。
◆「私の家族(弟篇)」
私には聴覚に障害を持つ弟がいます。私は弟と一緒にいることで、健常者にはわからない、「社会の壁」を感じることがよくあります。いつも弟のためにいったい何ができるだろうと自問自答を繰り返す毎日です。可愛い弟のため。弟が何不自由なく暮らせる社会を実現するため。私の出発はあくまでも弟のため。動機が極めて利己的であることを自白します。
◆「私の出会った人(高校篇)」
私の視野を広げてくれたのは、高校入学後に出会った硬式野球部の顧問の先生でした。先生からは野球だけでなく、「社会に役に立つ人間」になるために、実に多くのことを学びました。私はピッチャーとして以上に、人間として大きく成長することができました。そして、今は、学問・研究の究極の目的は社会貢献にこそあるのだと考えられるようになりました。
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削ったり、膨らませたり、補ったりする必要はあるが、これらを発展させて志望理由書にすることは可能である。ここに示したのはA君が書いた文章のほんの一部である。彼がこれを書いたのは3年生になってからであるが、1年生から時間を見つけて、短い文章を積み重ねておけば、3年生になってから慌てずにすむだろう。「書けたら持って来て」だけが指導ではないのである。