常に

まわりの様子を気にかける

この子は



自分のことなんて

自分の思いなんて


いつも1番最後

後回し。




だから

気づいてあげないと。


この子が・・・・・・。


勝利が

言葉を発しやすい様に

話しやすい様に

そっと促してあげないと。



けれど

そんな俺の気持ちにも


お前は

きっと

気づいてしまっているんだろうけど。




それでも


そうしたいと

そうしてやりたいと思うほどに


俺は

お前のことが愛おしいよ。





「しょーり・・・・・・勝利。」


名前を呼びながら

丸い頬を

輪郭にそって包み込むように

そっと撫でた。


俺の片手のひらで

隠れてしまう小さな顔。


俺の中の

庇護欲がわきたつ。




すると


勝利は

布団に横になっていた体を

ゆっくりと動かし


両腕をついて

上半身を起き上がらせると


目線は落としたままの状態で

小さな声で

言葉を紡いだ。




至近距離にいても

耳をよく澄まさなければ

聴き取れない程の小さな小さな声。



「・・・あのね?・・・健人くん・・・。

   僕・・・お願いがあるんだけど

   聞いてくれる?」



「ん?・・・・・・あぁ勿論。

   いいよ。どうしたの?」



「・・・・・・・・・。」




俺にお願いがあると言った勝利。


けれど

その後の言葉が続かない。




別に

急がせたい訳じゃない俺は


安心させるつもりで

その形のいい唇に

自分の右親指をそっとあて


左から右へと

ゆっくりとなぞり


世界でいちばん愛おしい人の

名前を呼んだ。


「・・・しょーり?」



すると


びくんと肩を震わせた後

勝利は

俺の首に右手を回しかけると

そのまま

俺の左耳へと顔を寄せてきた。




メロトロンの如き

甘苦い響きが


ひとつの旋律を奏でた。




それは当然のように


俺の鼓膜を

震えさせ胸を締め付ける。




思考よりも先に体が動いた。


俺は

勝利を強く胸に抱き込んだ。







「・・・・・・健人くん。

   今からの僕を誰にも見せないで。」