「・・・なに?」
少し
拗ねたように聞こえる声。
けれど
どうしたって
かわいくて
かわいくて仕方のない
俺の愛おしい人。
些細な やり取りで
貴重なふたりの時間を
こじらせて終わらせたくはない。
しかも
勝利は
これから昼の舞台の
本番が待っているんだ。
「ごめん。」
すんなりと言葉が口から出た。
「電話かけてきてくれたのに
直ぐに返事をしなくて悪かった・・よ。
勝利の声が
あまりにもかわいくて
聞き惚れてた。」
ウソは言っていない。
本当のことだ。
「・・しょーり?」
俺の左耳の鼓膜が
小さな小さな声をひろう。
「・・もう・・・恥ずかしいから・・・
やめて・・健人くん・・・/////。」
健人くんへとかけた電話。
返事がないから切った僕。
直ぐにかかってきた電話。
ちょっとしゃくだった僕。
拗ねたふりでした薄返事。
全部分かっている彼の声。
僕もさ大人になったよね。
っていうか・・・。
相変わらず恥ずかしい人。
「ねぇ?
ケンティー?」
「んっ?・・どうした勝利。」
彼の甘い声で
僕の鼓膜が溶けそうだ。
「・・今晩の夕食は
健人くんの創作カレーが
食べたい・・んだけど・・・?」
「・・・・・。
えっ・・・?!」
「だめ?」
「いや・・ダメじゃないけど・・なぜ?」
「それは・・・『あっ!今、行きます。』
ごめん健人くん。僕、行くね。」
スタッフに呼ばれたらしい勝利。
「あぁ。思いっきり 楽しんどいで。」
頑張ってこいとは・・あえて言わない。
なぜなら
勝利が頑張っている事を
俺は・・知っているから。
頑張っている人に
頑張れと言うのはさ・・ね?
おかしな話だろ?
「勝利。」
「なぁに?」
「迎えに行くから。待ってて?
愛してるよ。」
「・・もぅ・・うん・・・。
行ってきます・・健人くん・・・/////。」
俺は耳からスマホを離して
通話の切れた画面を見つめた。
「カレーねぇ・・・材料あったかな?」
俺は
頭の中で
自宅キッチンの冷蔵庫のドアを
そっと開けた。