20年以上前、祐天寺に移って間もないころ、まだ事務員もいなかったときです。

 だれの紹介とも言われなかった記憶ですが、しっかりした感じのお母さんが4歳くらいの女の子を連れて相談に見えました。予約はなかったと思います。

 

 「この子の父は○○県の別れたヤクザだった」、「今の連れ合い(継父)から暴力を受けて困っている」という説明でした。顔に赤いアザもあった記憶です。「(最近の暴力のために)耳も遠くなっています」と言われました。

 女の子は「痛いの・・。」と2回くらい言っていました。「どうしたら良いでしょうか。どこかに引き取ってもらえないでしょうか・・」という相談でした。

 

 私は、「そういう問題は、区の民生委員とか、場合によっては警察に相談するしかないのでは・・」くらいしか答えられませんでした。

 2週間後くらいに、もう一度2人で訪ねてきました。「相変わらずの状態で・・、この子の耳は聞こえなくなりました・・」、「先生、引き取ってもらえませんか・・」とまで言われました。

 家には子供が1人の状態でしたが、よその子を引き取るということは考えたこともありませんでしたし、ちょっと考えてみてもとても無理だと思いました。「ヤクザの子」と言われていたことも正直気になっていました。  

 その後には、区の保護司もしましたが、このときは照会先の心あたりもなく、正直なところ、毎日の仕事や月末の経理で頭がいっぱいで、それ以上のアドバイスは全くできませんでした。「どうしても困ったことがあったらまた電話でも下さい」と言えたかどうか記憶がはっきりしません。

 この母親からは、その後は連絡もありません。

 

         

 地元の人ではありませんでした。どうして私の事務所にきたのかの説明はなかった記憶です。

       

 その前は、法律問題をかかえた人なら誰でも相談に乗るのが筋だという考えでしたので、都内の(末端の)ヤクザだと後から知った人の民事問題の対応をしたこともありました。

 今から考えると、そのような関係者から紹介されたのかもしれません。胡散(うさん)臭い人たちが何かを仕組んだ可能性もあります。

 それ以上の背景は分かりませんが、本当に困って相談にきたのなら、何とか助けてやるのが弁護士の仕事ではなかったか・・という気持ちも残ります。そういう気がかりと、小さな女の子についての心配は消えません。

 

 いつまでも気がかりが消えないので、今回、このブログにする気になりました。文章にしていて行きついたことですが、1人の女の子の人生は重く長いものです。母親も、関係者や親せきなど大勢の知り合いがいます。

 困っていたのは事実としても、やはり、純粋に困り果てて私のところにきたというよりは、何らかの関係者と相談した上で、人に押しつけておけば後あとの損はないという計算でのことだった可能性が高い気がしてきました。

 これは、そのときも頭をよぎったことでしたが、この文章にしてみてようやく気がかりが薄らぎました。今は20代前半でしょうか、どこで何をしているのか分かりませんが、このときの可愛かった女の子の幸運を祈ることにします。