裁判官の考え(心証)について以前にも書きました。最近(平成25年2月)、元裁判官の門口正人(もんぐちまさひと)弁護士が法律雑誌にアドバイスを書いています。
経歴を見ると法制局参事官、最高裁調査官、高裁長官などを経て2011年に弁護士登録となっています。民事部門でしょう。
当時の所属は、アンダーソン・毛利・友常法律事務所(約290名)。そのほかの、西村あさひが470人、長島・大野・常松が340人、森綜合が310人、以上の四大法律事務所の合計は1420人くらい(当時)です。
全国の弁護士の総数は3万3500人、東京3会の合計は1万4500人。この四大事務所の弁護士の合計は大阪弁護士会(4000人)よりは少ないものの、愛知県弁護士会(1400人)を超えています。
民事の裁判官経歴の人からのものは、参考になりました。
以下、「」内は同弁護士が書いていることです。
1 専門化と複雑化
「(民事裁判は)かつては親族間の争いに帰着するものが多く見られたが、現在では、大規模会社間の訴訟も珍しくなくなってきた」、「訴訟が専門化、複雑化してきた」。
(会社では)日常的に「経営判断のプロセスの充実に配慮し、決済過程の透明化や手続きの記録化に努めることも必要」。
2 裁判は生き物
裁判は生き物で、「(最後の)証言など」まで、「裁判官の心証は目まぐるしく変わることもある。」
裁判の当事者は「①あらゆる訴訟行為が裁判所に向けられたものであることを認識して、②時間と費用を考慮し、③相手に勝とうとするのでなく、負けまいと意欲すること」。この③を考えないと、「ともすると無理な訴訟活動をすることになりかねない」とのこと。
3 スジとスワリ
「裁判官は、事件を受理した段階から早くも事件のスジやスワリを感得するもの」で、期日3回目くらいまでに心証は大体できている。
「スジとスワリ」は、「腑に落ちるか、落ち着きが良いか、法律的に不適合でないか」ということとされている。
「当事者は、訴えの準備段階から裁判官にはその経験と知見に基づいた受け止めがされることを覚悟しておくべきである。」
私から見て、裁判官の「腑に落ちる」状態かどうかを判断することは相当難しいけれども、「○○についての主張(や証拠)が不足ですね」などとやんわりと指摘されるようなことから感知していくことになる。
4 第三者の目でフォローすること
当事者は「事件を自分の側に引き込んで見通し勝ちであることを自戒し、第三者、すなわち裁判所の目で見ることに心を砕かなければならない。」「その意味において、早い段階から主張の組み立てには心血を注ぐべきである。」
5 後見的機能と その後退
「裁判所は、勝つべき者が勝つように後見的機能を営む。」
「もっとも、後見的機能も弁護士の増加に伴い、次第に後退する傾向があるようにも言われる」。
裁判官から見ての進行の把握が難しい理由は、弁護士の増加で、細かな主張が積み重ねられ、裁判官からの「後見的な立場での、腑に落ちる」進め方がやりにくくなったということのようです。
(弁護士が、どれだけ難しい人を相手にしているか分かっていただけたでしょうか。)