(読売新聞 - 02月12日 20:24)
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120212-OYT1T00433.htm
そもそも政治運動さえしなきゃ、例の「職員アンケート」も「労組追い出し」もなかったのにねww
という訳で、だべり形式で法律コラムに入ります(^^)♪
●労組追い出し問題について
まずは、労組さんが訴訟に至った経緯と労組さんの主張を整理します。
●訴訟に至る経緯
・橋下市長は26日、市役所本庁舎など市の建物に入居する職員の労働組合について、「職務と政治活動が区別できないのなら、まずは建物から出て 行ってもらう」と述べ、早ければ来年3月末にも退去を求める方針を明らかにした。これは、市交通局職員が勤務中に無許可で組合活動を行っていた事実が判明 したことを受けた措置である。
・市役所本庁舎には、地下1階に、最大労組「市労働組合連合会」(市労連)など6組合が事務所を構える。市と組合が毎年度、1年契約で賃貸借契約 を結んでいるが、賃料は6割減免されて年間計約1440万円。市は、民間企業では労働組合法で労組への事務所の供与が認められているのを準用し、減免して いたという。 また、交通局の「大阪交通労働組合」(大交)は本庁舎とは別のビルに入居するが、ビルと土地は市交通局が所有しており、地代として年間約260万円を払っ ている。
・職員組合が政治活動を行うことは禁じられていないが、橋下市長は27日にも報道陣に、「(公の施設である)庁舎内での政治活動なんて認められるわけがない。政治活動をやりたいなら、庁舎から出ればいい。徹底的に正したい」と述べた。
・学識者の見解
脇田滋・龍谷大教授(労働法)の話「公務員であっても、組合の事務所を保証されるのは現行の日本の制度上、当然の権利。団結権の否定につながり、憲法違反になるのではないか」
小嶌典明・大阪大教授(労働法)の話「労働組合法は公務員の職員組合には適用外で、地方公務員法でも庁舎内に部屋を置くのは権利ではない。ヤミ専 従など組合活動に問題が指摘される中で、市民の税金で建て、管理する施設を無償や家賃減免で貸すのはおかしいというのは常識的だ。ただ、労使交渉は極端な 要求で始まるのが普通で、今後、市長と組合で着地点を探るのだろう」
以上の話のソース
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●組合側の主な主張
・「憲法に定められた労働者の団結権の侵害にあたる」
→労組事務所の退去通告の取り消しを求める。
・「労使関係を市側が一方的に放棄するものだ」
・「既に30年近く使用許可を受けている」
・「庁舎内の事務所は労使双方の連絡や職員相談等に必要である」
●上記の話を踏まえて
まず上記の話で法律上最も大事な論点は、①市と組合は毎年「賃貸借契約」を結んでいることだと思います。これは、上の小嶌氏の見解と市の措置にもあるように、「民間企業で労組への事務所の供与が認められている労働組合法が公務員の職員組合には適用されない」からです。
これは結構大切なことを言っていて、上の脇田氏は「公務員が組合事務所を保証されないのは、団結権の否定であり、憲法違反だ」という趣旨の事を 述べてます(今回の労組さんと同じ考え方でしょう)。さて、どちらが正しいのでしょうか。まずは、労働組合法や行政法で、一連の問題が法律上どのように位 置付けられているのかを見ていきます。
●労働組合法・行政法の位置付け
○参考文献
1西谷敏『労働組合法[第2版]』有斐閣,2006年,78,268-269,274-278頁
2室井力=塩野宏『行政法を学ぶ2』有斐閣,1978年,345-346頁
3室井力『現代行政法の展開』有斐閣,1978年76-79頁
4宇賀克也『行政法概説Ⅱ・Ⅲ[第3版]』有斐閣,2010年,478-481,472頁
○地方公務員と労働組合法の関係
地方公務員は憲法28条の「勤労者」に該当するが、地方公務員で労組法が適用されるのは現業地方公務員に限られ(地方公営企業の職員や単純労働職員:地公労4条等)、非現業公務員は適用除外とされている(地方公務員法58条)。
○公務員組合の事務所貸与の法律関係
公務員組合が省庁内の施設を組合事務所として利用する場合の法律関係については、私法的関係であるか公法的関係にあるかで争いがある。その使用 関係は、労働組合(職員団体)が長期にわたり建物の一部を独占的に占有しているものであるから、いわゆる特許使用(特別使用)の法的関係であり、その根拠 は行政財産の目的外使用を定めた「地方自治法238条の4第4項」である。行政財産の目的外使用から生じる法律関係では、借地借家法の適用は排除されてい る(地方自治法238条の4第1項)。しかし、そこに成立する法律関係が私法的関係であろうと公法的関係であろうと、法律上保護に値する権利ないし利益で あることは当然である。
○公務員組合の事務所貸与の返還請求
公務員組合の組合事務所の使用許可についても、その撤回には民間企業と同様に制限がある。すなわち、それは、国または地方公共団体において、公 共用、公共等に供するために必要が生じた場合に限定されるし、利用者は補償を求め得ることになっている(国有財産法19条,24条。なお、公有の行政財産 については、地方自治法上に補償規定を欠くが、国有財産法等が類推適用され、同様に解される)。結局、公務員組合の組合事務所についても、民間企業の場合 とほぼ同様に、処分当局がその施設を公用に供する必要があり、かつ適当な代替施設等の補償をする場合に限り、許可を撤回して明渡しを請求し得ると解すべき であろう。
○使用期間が設定されていた場合
庁舎の一部について使用期間が設定されていた場合、使用期間の経過後、使用関係は当然に消滅し、使用継続を希望する者は、新たに使用許可の申請 を行わなければならないか否かが問題となる。これにつき、近時の学説・判例は、許可等の授益的行政行為に付された期間が、その結果承認される私人の活動の 内容・性質に照らして、著しく短期に過ぎる場合、使用期間は期間経過後に許可条件を変更することを示す、いわば更新期間を定めたものに過ぎないとする。す なわち、この場合、期間経過後の申請は更新の申請であり、更新の拒絶はすでになされ、なお効力を有する許可の撤回と解される。もっとも、授益的行政行為の 撤回は制限されており、相手方の責めに帰すべき事由がある場合等(例:使用料の滞納)に限られる。したがって、上記例外に当たらない場合、処分当局は、上 記返還請求の議論と同様に、庁舎を公用に供する必要があり、かつ適当な代替施設等の補償をする時に限り、上記使用許可を撤回して、明渡しを請求し得ると解 するのが相当である(西谷敏,室井力)。ただし、相手方に責めに帰すべき事由がない場合の行政財産の使用権に対する権利補償対価の論点には、反対論が存在 する。すなわち、反対論は、行政財産の使用権は、公益上の理由で撤回が行われる時点で消滅する解除条件付または不確定期限付の権利と解し、原則権利補償対 価は不要とする(宇賀克也)。
●上記の話を踏まえて
以上、長ったらしい法律論をしました。で、今回の問題で、裁判で争点になりそうな大事な部分だけ挙げると、次のように言えると思います。
①今回の労組の政治運動が「相手方の責めに帰すべき事由がある場合」に該当するか(該当するなら認められる可能性が高い)
→私見:「相手方の責めに帰すべき事由」とは、使用料の滞納など、通常は民法上等の一般的な法律違反と解するのが相当であり、今回の労組の政治運動は非常に問題であるが、上記事由に含めることはできないと判断するのが相当である。
②今回の退去通告は「公共用、公共等に供するために必要が生じた場合」に該当するか(該当しないと退去通告は認められない可能性が高い)
→橋下市長がいかに上記の必要性を主張するかが分からないので、現時点では判断できない。
で、労組さんの主張を、その是非は別として一応法的主張に換言すると次のようになります。すなわち、第一の「労使関係を市側が一方的に放棄する ものだ」は「うちらの責めに帰すべき事由はない」という主張です。第二の「既に30年近く使用許可を受けている」は「使用期間は更新期間を定めたものに過 ぎない」という主張です。最後の「庁舎内の事務所は労使双方の連絡や職員相談などに必要である」 はかつて判例(大極光明事件最高裁判決)が示した「使用権者がなお当該使用権を保有する実質的理由を有すると認めるに足りる特段の事情」を見越した主張で す。最後の主張は「退去に際しての補償対価を支払え」という要求をするためのものでしょう。
個人的見解を言えば、現時点で橋下市長が労組に対抗しやすい一番最良の方法は、「正規の値段に賃上げした賃料を労組に提案し、呑め!さもないと 出て行けと要求する」方法ではないかなと思います。まー、これはこれで訴訟になる可能性大ですが、今度は反撃できる要素が増えると思います。というのは、 近年、国・地方公共団体の財政事情の観点から効率性を重視した国有財産行政への転換が志向され、その一環として、2006年に国有財産法が改正され、庁舎 等の公用財産について、目的外使用との制度とは別に、効率性重視の運用規定が明記されました(国有財産法9条の5)。この「効率的運用」を裁判で主張する のも一つかもしれません。
もっとも、これ自体も問題がない訳ではなくて、具体的には、庁舎の規定はあくまでも「床面積または敷地の余剰部分」(国有財産法18条2項4 号)ですし、運用如何によっては、公用重視を基本とする国有財産法18条1項との関係が問題とされると指摘されています(塩野宏『行政法Ⅲ』有斐 閣,2006年,352-353頁)。
結局、労組さんが「退去通告の取り消し」を憲法28条違反を根拠に訴訟を提起したのは、「正規の運賃を払いたくない」というのが大きいのでしょ う。なぜなら、取消しを求めなければ、撤回自体は原則として有効なので、彼らは正規もしくはそれ以上の運賃を払わないと追い出す(橋下市長は弁護士ですか ら必ず同要求を突きつけるでしょう)と言われた場合、それを呑まないと退去せざるを得ない可能性が高くなるからです。そして、それは府民にとっては儲け話 なのですが、労組さんにとっては「煮え湯話」以上の何物でもないでしょう。でも、それは身から出た錆だと思いますね(^^)w
●職員アンケートの問題について
次のコラムに回します。水曜日ぐらいまでに書く予定です。