■橋下市長「文科省と勝負になる」教育基本条例案
(読売新聞 - 01月26日 15:35)
http://news.mixi.jp/view_news.pl?id=1891499&media_id=20
橋下市長の挑戦自体は悪くない。
地方行政法のさらなる発展のためにも、判例の蓄積化のためにも、ご自身が考える条例案を出して、闘うこと自体は何ら否定されるべきものではない。
ただ、この条例案が仮に施行された場合に、憲法94条に定める「法律の範囲内」ではないとして、もし憲法訴訟が起こされた場合、この条例案では残念ながら負けると思う
私がそう考えるのは以下の理由。
まず地方教育行政法の「職務上の義務違反」は、生徒への暴行等、いわゆる「法律で定められている一般的な違反行為」と読むのが通常の理解ではないかと思う。
この辺りの解釈については、上級行政機関である文科省と内閣法制局の見解にもよるが、少なくとも「職務上の義務違反」の内容を地方公共団体の長が独自に決めることができるという趣旨が、この地方教育行政法には含まれていませんよというのが、彼らの見解の核心部分だと思われる。
ところで、「知事が定める教育目標」は、恐らく行政法上、「行政規則」にあたると思う。
もし、「行政規則」と判断されるなら、「行政規則」とは、地方自治体の長が、その権限に属する事務に関し、「法令に違反しない限りにおいて」定めることができる(地方自治法15条1項、地方公務員法8条5項、教育委員会規則については「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」14条1項等)ものですから、
「法令違反の場合」は、定めることができないとなる訳です。
ちなみに、「法令違反」であるか否かについては、「徳島市公安条例判決基準」で審査されると思います。
この基準は、長いから、ご自身でググって頂きたい(http://www.geocities.co.jp/WallStreet/7956/han/han67.html
)のですが、要するに、文科省見解が「正しい」なら「条例は無効」になります。
私の見解としては、やはり文科省見解の方が法文の自然な解釈だと思うので、橋下市長は裁判で負けると思います。
ただ、橋下市長が反論する見解がないかと言えば、行政法上そうでもありません
具体的には、
①「行政規則」は、原則として、「国民の権利・義務に直接関係せず、下級機関や職員を拘束する行政組織の内部規範」であるから、上級行政機関はその有する組織法上の監督権に基づいて、「法律」の根拠を有することなく、随時「職務命令」を発令できるという判例・学説の主張。
→今回の教育基本条例の核心である「知事が定める教育目標」の内容自体に、裁判所は違法・合法等の司法審査をすることができないという反論(ただ、私は、今回の行政規則なら、憲法の「部分社会論」の議論からいっても、さすがに司法審査されると思いますが。あと他の根拠としては、裁量基準の判例で審査されてることかな)
②在来の法解釈が誤っていれば通達や行政規則によって解釈を改めるのは当然で、それが国民や職員に不利益に働くとしても許されると、1958年最高裁判決を解釈する。
まーそうは言っても、橋下市長にとって一番良い解決策は、みんなの党とかと協力して、根本の地方教育行政法自体を改正してしまうことですが。
ちなみに、みんなの党は、「地方教育行政法改正案」の大綱を作ったそうです。
最後はプチ知識
通達や職務命令に違反した職員には上司の命令に反したとして懲戒責任が課されます。ただ、下級機関や職員は、通達や職務命令が違法な場合でもなおこれに服従する義務を負うかについては争いがあります。
通説―下級機関の職員は、通達や職務命令が違法であっても、それが重大明白でない限り、これに拘束され、服従すべき義務を負う。職員が、通達や職務命令違反を理由に懲戒処分を受けた場合には、通達や職務命令の違法を主張しても、それが重大明白でなければ、懲戒処分の取消しを求めることはできない。
少数説―通達や職務命令を違法と考える場合には、これへの服従を拒否し、服従拒否を理由に懲戒処分を受けた場合には、その違法を主張し、懲戒処分の取消しを求めることができる。
判例―組織体の一員は、私的利益にかかわりのない職務上の行為に関しては、たとえ違法であっても、組織の責任者の命令に従い、組織の一体性を保持すべき義務がある(1974年 東京高裁判決)
以上、原田尚彦東京大学名誉教授の『行政法要論』(第7版,2010)42-43頁より
要するに、仮に橋下市長の条例案自体に反対ないしはおかしいと思っても、「悪法もまた法なり」みたいな考えを持って、従事する教職員自体は、粛々と上司の職務命令に従い、条例可決の動きや裁判の結果を見守るべきだと私は思いますがね