「芥川賞」「直木賞」に代表されるように、そうした賞が作られるということは、それだけ故人の与えた業績が大きいということである。
実は、法律学、とりわけ会社法の分野に人名がついている賞がある。
それこそが本日の主人公であり、最高裁判所判事、日本学士院会員、京都大学名誉教授という数々の要職に就き、日本の商法、ひいては日本の法律学に絶大なる貢献をされた大隅健一郎先生の名前を付した「大隅賞」である。
本書は大隅先生の「履歴書」である。
履歴書だけにとりわけ誰もが楽しめる部分を中心に書きたい。

「龍田君(龍田節先生-日本学士院会員、京都大学名誉教授)も、学生時代に私から聞かれたかも知れませんが、私は学資に苦労がなくって、好きなことができる身分だったら、法学部へは入っていなかったと思う、とよく学生に言いました。
そんなわけで、私のようにこれといった特殊の才能のない者でも、法学部を出れば何とかなるのではないかと考えて、法学部に入ったのが実情だったと思います。それは、私だけでなく、法学部へ入った学生の多くがそうであり、そのことは現在でもあまり変わっていないのではないでしょうか。」
(21頁)
私も、常々感じていた思いを、あの大隅先生でさえ持っていたのかと嬉しくなりました(o^^o)

「それはねえ、私がいつも心がけていることがあるんです。大学院の諸君にせよ助手にせよ、初めて公表する論文についてはできるだけ厳しくするということです。
なぜかと言うと、初めにまずい論文を発表すると、あのまずい論文を書いた人物かという印象が、いつまでもつきまとう。ところが、初めにいい論文を発表してそれが評価されると、その後、多少まずい論文を書いてもそれほどのことはない。だから、初めて舞台に立つ時には特にしっかりしてもらわないと困るというので、最初の論文については意識して非常にやかましく言うことにしていました」
(129頁)
→くそぉ、先生の教訓をもっと早く読んでおれば…\(^O^)/
「ところで、これは私の欠点かも知れないですが、私は法律の論文にはできるだけ形容詞は使わないようにしています。形容詞を使うと、内容がぼやけてあいまいになるような気がするからです。
考え方によると、その方が含蓄があるように見えるかも知れませんがね。だから、私の本は言ってみれば骨格だけで、非常に無味乾燥だと見られているのではないかと思っていますけれども、それは意識してそうしておるつもりです。」
(130頁)
→この教えは非常にありがたいです


ちなみに、大隅先生の博士論文である「株式会社法変遷論」は、ダメダメの私でも三回生の時に読みましたが、その文体の美しさや、議論の巧みさ、詳細かつ主張に直接リンクする具体的事例や説明の数々には感動しました


「顧みると、研究者としての道を踏み出した私は、その後いろいろな経験をする機会に恵まれたが、研究者になったことをはじめ、そのどれもがみずから求めたものではなく、文字どおり「図らずも」といったものばかりである。
およそ人生というものがそうしたものなのか、たまたま私の場合がそうであったのか、わからない。敢えて蛇足を加えるならば、私としては、いかなる立場にあっても、自分なりに最善を尽くすように心がけたつもりである。」
(336頁)
「私はきわめて平凡な人間であって、平凡なことしかできない。しかし、その平凡なことをいつまでも長く続けるように心がけている。その長続きする点では、あるいは多少非凡といってよいかも知れない。」
(341頁)
改めて、帰ったらゆっくり読みます\(^O^)/