加藤君と21匹のネコ2 | Manga●製作所

加藤君と21匹のネコ2

わぁ、今日はだいぶヒドいなぁ。

久しぶりに茶色の古びた玄関のドアを開けると22匹がやりたい放題の跡。

だいぶヒドいけど僕は特に気にしないんだ。

昔からだけど僕はいろいろと気にしないんだ。

だからどの子かがひっかいて剥がれた壁も遊び古されたタオルも落ちてる新聞も踏み越えていく。

あ、新聞くらいは拾って持っていくか。

母さん、ただいま。

父はまだ仕事で母はこたつでぐったりしている。

おかえり。あら、帰ってきたのね?

ぐったりしてるけど元気そうだ。僕はコーヒーを入れる。

母はネコを養う為に朝も夜も働く。エサ代だけでかなりの支出だからだ。ぼくんちが近所でもかなり有名で「ネコ屋敷」と呼ばれてるのも知ってる。あまりいい意味でそう呼ばれてないのも知ってる。

うちがネコ屋敷と呼ばれるようになったのは最近の事だ。

兄貴が一匹のネコを拾ってきて、母がもう一匹を拾ってくる。そこから子供が生まれたら早かった。
あれよあれよと言う間に増えていって知らないネコもいつの間にかいて、途中から名前もつけなくなった。

ネコのために朝昼晩と働く両親。だから部屋の中も異臭が立ち込め、何をするのもネコとネコが散らかしたものをどかす。そうやってなんとか生活する家になっていた。

でも別に気にしないんだ。

母にもコーヒーを入れて戻る。

こたつを入ろうとすると一人僕をにらみつけるネコがいる。

灰色でロシアンブルーのような雑種のシマだ。

僕は気にせず足を突っ込む。

シマや他のネコは迷惑そうにこたつを出た。

シマはいつの間にか新しく住み着いたネコで、
他の生まれながらの家ネコたちとは違って野生が強いんだろう。

子猫が産まれると食い殺してしまうんだ。

僕は何度となくシマを怒って叩いたけど、ガリンといった後はもう救いようがない。子猫は死んでしまってる。
だからうちのネコは22匹で飽和した。

シマは居心地のいいこの家のボスになる気でいるんだ。
そうはいかない。
この家には強烈なボスがいるんだから。

一番の兄貴は最近おれんちにいるよ?

ふと思い出し母に告げた。母ははっと体を一瞬堅くしたが残念な声を出しあらそうなの。
と言った。安心した声だったのかも知れない。

一番の兄貴はネコ以上に厄介な存在だった。

母も父も自分たちが可愛すぎて甘やかしたせいだから…といつも言ってやりたい放題を許してきた。

兄貴はまともに働いた事もなく、彼が作る借金で母も父も休む暇なく働いている。

それなのに帰ってきては金をせがみ、母やネコたちを蹴り飛ばして歩く。
あの時はついに母は正気を失い、包丁を振り回した。
奇声が家族がバラバラになる亀裂の音に思えて僕は呆然と立ち尽くしてしまった。
ネコも兄貴も逃げ惑って兄貴だけは僕の家に逃げてきて入り浸ってると言うわけだ。

それは非常に非常に厄介だけど、母がのんびり僕の入れたコーヒーを飲んでるのを見たら別にいいかと思った。
加藤家が平穏を取り戻すのならばと。

今日もバイトなの?

うん、この前なんか週7日勤務だよ?こき使うんだあそこは…

そういえば、なんとなくバイトの山中さんが面白い事言ってたっけ。

山中さんは深夜勤務の唯一の同僚でしゃべり方が偉そうなおばさんだ。

けど、いつも目一杯働いてくれるから僕は助かってる。きっと仕事が好きな人なんだろうな。

山中さんにこの前つい、僕の家の21匹のネコともう一人の厄介な一番上の兄貴の話をしたらこんな事を言ってた

そんな兄貴、シマが食い殺してくれればいいのに。

真剣に言うから面白くて笑ってしまった。いや、朝のテンションがハイになってる時だったから笑っちゃったのかな?

ネコも兄貴も可愛い可愛いだけでよくもまぁ溜め込んでしまった事。
ねぇ、大丈夫なの?加藤君んち。

山中さんはうるさくちくちくと言ってたけど心配してくれたんだろうな。

だけど、大丈夫じゃないよ。多分ね。
実は起死回生の最後の望みもこの前、夢と化して崩れてしまって僕はこの家を出た。朝昼晩と母とネコが泣き叫ぶ家に僕はウンザリしてしまったんだ。

だからこの家を出た。

誰にも邪魔されない静かな所で僕は小説を書きたいんだ。

母は飲み終わったコーヒーを大事そうに手のひらで抱えたまま
今月もいくらかくれると助かるんだけど…
とつぶやいた。

ぼくんちにはまだTVもない。あるのは夏の暑さに耐えかねて買った扇風機が一台。

原稿を書くために必要だったから買ったんだ。

それ以外は買えないでいる。
うちに逃げてきたネコが僕のお金をじゃれて遊んでグシャグシャにして無くしてしまう。

だけど、そんな事は別にどうでもいいか。
とりあえず2万円だけ置いていくよ?
そう言って僕はお金を置くと母がお金を握ってる隙にコーヒーカップを取り上げてこたつを立った。

今日もこれから夜勤だ。さて山中さんは今日は何をやらかしてるだろうな。

玄関に向かうとさっきは自分の陣地を取り上げられると睨んでたシマがナーォと甘えた声でお見送りに来てくれてる。
この人なつこい所があるから憎めない奴なんだ。

僕はシマを見つめる。

母さんを頼んだよ。

するとシマは快くナーォと返事をした。

そうか。一番の兄貴がいないからやっとここのボスの気分なんだな。

僕はいつの間にか山中さんが言うように一番の兄貴もやっかいなネコの中に入れていた。

だから22匹。

シマ、兄貴を食い殺してくれ。

外は少しかけた満月。
円に見えるものもだっていびつな時もある。

でも、今日の月だって丸いのは元より同じ。
月が欠けるなんて本当は有り得ないんだ。

だけど僕は気にしないんだ。

昔からだけど僕はいろいろと気にしないんだ。

というか気にしてなんていられない。
いちいち気にしてたら、僕もついに発狂してしまうだろう。

僕もネコたちのように夜な夜な奇声を上げるだろう。

だけど、僕は人間でいたいんだ。

ネコ屋敷の住人だからとネコになんかなりたくない。

人間でいたいんだ。


続く