加藤君と21匹のネコ | Manga●製作所

加藤君と21匹のネコ

いつまでこんな生活を続けるんだろう。

人生には谷がある。
そして1日にも谷があり、そんな時に普段明るく過ごしてる私でもふと本音がこぼれてしまう。

バイト先のゴミ捨てに出た冷たい空気の中、見上げた月が満月だった時、谷が降りてきた。

私は客がまばらな街道沿いのレストランで
たまに谷に出会いながら深夜働いていた。

おんなだてらに会社を興して5年。
才能がないので会社はいつもかたむいたまま
今はバイトをしてピカピカに屋号を磨いて見栄を張り必死に守っている。

仕方なくというとしゃくだから楽しんでやってるとうそぶいてきた自分を自分だけで褒めながら3ヶ月。
今日の谷は満月がありいつもより綺麗に彩られた気がした。

店に戻るといつもの相棒がいる。

彼の名前は加藤君で、それ以外はない。
知る必要ないことは聞かないのがここのルール。

深夜勤務(理由があり)が私達のもうひとつのコードネームでもあるから。

加藤君は26歳。
もうひとつのコードネームを持たない昼間の勤務の男がヘラヘラと私に
「加藤君が彼女がいるか聞いて?」
と言ったんで私はそのまま加藤君に聞いたから彼女はなし。
(昼間の男はなんでこっそり聞いてくれないのかと私を攻めたが私は気にしなかった)
週7日勤務をこの前させられたと加藤君は嘆いている。

流されやすく、なんでもいいよいいよと断らないし、怒らない。
私は仕事が出来なくて遅くても何も言わない。
言わないのは嘘かな。
ニコニコと隣でくだらない話をしに来る。
人なつこいいい子。
しかも学があり頭も切れるからなんでも出来る器用貧乏。
とても楽な相手だった。
けど、

26歳で就職はしないのだろうか?今の子は将来設計をなかなかしないのは日本がそれなりに裕福だからだろうな。甘やかされたもんだと自分の事を棚に上げて思ってる嫌な人間だ。

嫌な人間はいやらしたらしくたった二人の勤務なので加藤君を相棒とか先輩とか呼んで長い夜をなるべく楽しく過ごすようにしている。

今日も加藤君は絶好調に私が計算が合わなかったレジを計算しなおしてくれて素早く済ませてまたいつもの用に私に下らない話を聞かせてくれてる。

「うちは兄弟すごく仲がいいんだ」

そう言ってから私はもう3・4回兄貴と遊んだ話を聞かされてる。

加藤君は三男で、私はだから人なつこいんだなぁとよくわからない解釈をしながらふらふらとバイトなんかして生きて甘いのもそのせいかとも考えていた。

兄はシェフをしていて、父もシェフなんです。
ぼくんちは料理人一家なんですよと誇らしげに話す加藤君。

で、君はなぜアルバイト?
あぁ、言いたいけど私は言わない。

とりあえずしてみた一人暮らしだけど兄が毎日来ます。
実家も近くにあるのにな…

そんな話をする最近の加藤君の悩みは幸せそうだった。

深夜勤務は朝日を見る頃が、一番辛い。

頭もボーと思考回路がなくなってきてろれつも怪しくなるのが何かおかしくて、私達はハイになる。

一番、加藤君と仲良くなる時間帯だった。

仲良くなるといっても会話はあいかわらずくだらないまま。
世間話が続いていた。

実家ってずっとここなの?

うん。僕は一度も引っ越した事がないよ?

じゃぁ一軒家でしょ?

ぼくんちにはネコが21匹いるんだ。

その問に対して加藤君からきた返事に私はつい聞き返してしまった。

ぼくんちにはネコが21匹いる。

シェフ一家の三男として家族仲良く幸せに育つ加藤君は気晴らしにバイトしてなんとなく一人暮らしを経験してみる気になり

21匹のネコのいる家を出た。

私の作ってきた加藤君のシナリオが急によじれ曲がった。

21匹のネコの登場によって。


続く