先日のことですが、親知らずの抜歯を行いました。


歯についてのことは管楽器奏者にとってなかなか大きく、またデリケートな悩みになると思いますが、同様の悩みやあるいはこれからまさに抜こうか迷ってらっしゃる方など何かしら参考になればと思い、ここに記録として記したいと思います。



○復活まで約2週間


○痛みが伴う状態で負担のかかる演奏を続けると治りが遅れる


○演奏へのリスクは完全には拭えない



以下にお話することはあくまでも私個人の事例ですので、全ての方に当てはまるものではないことをご了承ください。



まず、私自身の親知らずの状態からお話しますと、そもそも上下左右4本の8番歯が存在していました(通常は上下左右、真ん中から奥に向かって1番から7番までの計28本)。


【右上下】

その内、右の上下は歯冠が表出しており、向きもやや斜め方向と外向きでしたので、普段お世話になっている歯科医院で抜歯してもらいました。もちろん麻酔はありましたが、縫合は無く、抜歯後の穴は自然に塞がるのを待つ形でした。その際、食べかす等が穴に詰まることがあるので、歯磨き時にピックで除去したり、しっかりすすいだり気をつけました。万が一食べものが詰まった状態で塞がったとしても、いずれ体内に吸収されるとのことでしたので、さほど神経質にならなくても大丈夫とのことで、1ヶ月ぐらいでほぼ塞がったかと思います。



さて、問題は左の上下です。

2本ともいわゆる埋伏という状態で完全に歯茎の中に埋もれている形でした。この場合、切開と縫合が必要なため、総合病院の口腔外科への紹介状をいただき、そちらでの処置となりました。


【左下】

下の8番は7番の方向へ真横を向いていました。

まず医師の先生には管楽器の演奏家であることを伝え、抜くリスクと抜かないリスクについてしっかり相談しました。


・抜くリスク

施術の際にやむを得ず下顎の神経に圧迫や損傷を与え、舌や下顎に麻痺が生じる可能性があり、多く場合は自然に回復していくが、ごく稀に麻痺が永久に残る場合がある。麻痺が残っても動かすことはできる、感覚がないだけ。


・抜かないリスク

奥歯と親知らずの間の隙間が近接し過ぎているため、磨くことが困難で汚れや細菌が溜まりやすい。将来的には必ず虫歯になり、最悪その両方とも抜歯ということになりかねない。


結論としては抜かないリスクのほうが高いと判断し抜歯の意を決めました。


【左上】

こちらについての抜くリスクは、抜歯の際に歯根の形状や長さによって上顎洞との交通(つまり鼻と繋がる)が起こる可能性があるというものでした。

これはある意味、管楽器奏者にとっては重大な問題で、吹奏時に息漏れや鼻抜けが起こりえるということです。特にホルンは体内気圧が比較的高い方の楽器だと思われますので尚更です。

しかしこれもまた、通常は自然に塞がるということと、またその経過を促進するための器具を作成しましょう、という話でまとまりました。

ちなみにその器具とは、

このような樹脂製?のもので、右から順に(左上)4〜7番とハマるようになっており、いちばん左の部分で抜歯後の傷口を保護する形になっています。

これは、事前の診察の際にCT撮影をし、個人に合わせた精密な造形で作ってもらっています。

口腔側からの刺激を保護する役割の他に、上顎洞側での出血を下方へ流出させず、瘡蓋(かさぶた)

を形成し、より早く組織を回復させることを期待しているようです。


※ちなみに最終的にこの穴が塞がらなかった場合、耳鼻咽喉科での手術で塞ぐことになるそうです。



【抜歯当日】

さて、医師との綿密な相談を経て、いよいよ抜歯当日です。

やや緊張しながら診察室へと入り、例の歯医者さんの椅子に座り、「じゃあ倒しますね〜」とされるがまま、まずは麻酔です。

今回は上下2本でしたので、ほっぺたの裏側奥から上下の歯茎、計6箇所ぐらいかな?刺されました。歯茎の薄くて固い部分への注射がいちばんキツかったですね。

程なくして麻酔が効きはじめ施術開始。

下の歯からでしたが、切開時の感覚は全く無く、続いて回転系の何かで剥き出された親知らずをギュイーンとやっていきます。恐らく歯冠部分から破壊していったのだと思われます。それと親知らずの根を支えている骨も数mm削ったようです。その後、削れた歯を取り除いていきますが、これまたなかなかの力で顎ごと引っこ抜かれる勢いでした。ひとしきり引っ張り作業が終わるとまたギュイーンです。そしてまたガリガリ引っ張り。

この作業を計4回ぐらい繰り返して「もう完全に抜けましたよ〜」。後は傷口を縫合して終了です。ここまでおよそ20分ほどでした。



続いて上です。

こちらも基本的には下と同じ流れでやっていきます。15分ぐらいだったと思います。


抜いた歯をみせてもらいましたが、下の歯は3片ほどに粉砕されていましたが、上は丸々一つでした。恐らく埋伏していたものの、下の歯に比べて向きがちょい斜めぐらいだったので、なんとかそのまま抜けたのだと思います。


何はともあれ、いちばんの大作業は終了です。

痛み止めと化膿止めを処方してもらい病院を出ました。



ここからは日毎の経過を書いていきます。



〈1日目(施術当日)〉

帰宅し3時間程経過したころから麻酔が切れて痛みが増してくる。口がほとんど開かない。ヨーグルトを食し投薬、あまり効かずツラい。夜は雑炊を3口ほど飲み込み投薬、これは少し効いてなんとか寝つく。


〈2日目〉

痛みで目覚める。ヨーグルト後投薬、痛みは治まる。左頬が少し腫れ始める。この日も基本流動食。唾液に血が混じる。鼻血も少々。通院して患部の消毒。


〈3日目〉

頬の腫れが増す。痛みは2日目と変わらず、投薬。口はほんの少しだけ開くように。柔らかめのうどんを食す。


〈4日目〉

少し腫れが引く。痛みも減ってきた。投薬。相変わらず雑炊等流動食。


〈5日目〉

さらに腫れが引く。痛みはほぼない。投薬。100%ではないものの口はだいぶ開くように。


〈6日目〉

腫れは引いたが左頬の違和感はあり。腫れで集まった血が滞留している感じ?舌で内側から優しくマッサージ。


〈7日目〉

左頬の違和感はほんの少しずつ収まっている。引き続きマッサージ。

術後初めて楽器を吹いてみる(実はこの日より前にもバズィングだけ試したのだが、違和感と痛みが伴い断念)。


やった!音は出た笑 

中音域から下へ下へ、何とかなるかも。

アルペジオ、跳躍の際アンブシュアの動きに伴う口腔内の摩擦に若干ビビる。無意識に痛みを回避しようとするためか、滑らかな繋がりになりにくい、少しずつ慣れよう。

徐々に音域を上げていくが、真ん中のFぐらいから痛みが増す。鼻抜けは起きていないが、いかんせん上がれば上がるほど痛い。Hihg Fまで上がったが、一瞬が限界。無理は禁物、10分程で終了。


〈9日目〉

抜糸。傷の経過は良好。

医師に楽器のことを相談。やはり、痛みがある場合は負担をかけすぎないようにとのこと。




その後徐々に痛み、違和感が和らいでゆき、これまでどおり吹けるようになったのは術後2週間頃でしょうか。



今日、口腔外科での最終診察を終え、順調に回復しているとのことで、一安心しました。


鼻腔への繋がりも塞がり、吹奏時の違和感もほとんどありません。


とりあえず、仕事が続けられそうです、感謝!




管楽器奏者にとって歯の悩みは、考えだすとキリがありません。

今は亡き日本ホルン界の巨匠、千葉馨先生も最後は総入れ歯で吹かれてたとか。

歯を失ってもあるいは努力でカバーできるのかもしれません。


特に演奏を生業にするプロ奏者にとっては死活問題かと思います。

楽団所属の方でしたら有給休暇や病欠申請をして、じっくり期間を取ることをおすすめします。

また、場合によってはセカンドオピニオンを検討しても良いと思います。温存可能な方法もあるいは見つかるかもしれません。

信頼できる医師の先生とプランをじっくり相談できると良いですね。



しかし、あんなにちっちゃな白い塊一本で、体のバランスが崩れたり、人によっては楽器が吹けなくなったり、健康や仕事に大きな影響があるのだなと、改めて認識させられました。


今後も日々のケアを怠らず、定期的に検診を受けようと思います。


皆さんもぜひ歯を大切にしてください!