刀をメイン武器として使っていたのは幕末だけ？日本刀の立ち位置を考えてみる　｜　和樂web 美の国ニッポンをもっと知る！チキ……（鯉口を切る）すらり（鞘から刀を抜く）チャキン……（手を返す）いやああああ！キンキンキンキン！（刀で激しく打ち合い）成敗。（渋いかっこいい好き）パチン（納刀） ……ええ、ええ、かっこいいですよねえ、ワンパターンと言われようが、上様や前（さき）の副将軍様が町中をふらふら歩いている時代劇、本当に好きでした。というか、ワンパターンだからこそ、こた…

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↑刀は実際にはあまり使用されなかった、、、と言われる事があります。こういう合戦での負傷者の割合などから。

刀での負傷割合は１割にも満たないと。

反面、幕末はテロの横行により刀がよく使用されたという意見もよく耳にします。

色々と資料を見ているとそれはそれで違いそうに思えたので書いてみます。

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喧嘩両成敗の誕生 (講談社選書メチエ)

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喧嘩両成敗

喧嘩におよぶ輩、理非を論ぜず両方ともに死罪に行うべきものなり

これは今川かな目録の第八条の条文とのことです。

喧嘩両成敗という日本独特の法律が中世の後期、戦国時代に広く普及したといいます。成文法としては1526年の今川かな目録の記載が初見とのこと。

喧嘩をしたものは理由のいかんを問わず両方とも死刑というのは、かなり乱暴な法律だと思います。なぜこんな奇妙な法律が日本中に広がったのかという内容の書籍です。

中世の日本人はキレやすかった。そして「ナメられたら殺す」がルールの社会だった。

武士に限らず僧侶から下女まで、とにかく「ナメられたら殺す」のがルールだったようです。

立小便をしていて笑われたから殺す

子供に笑われたから殺す

悪口を言われたから殺す

注文品ができていなくて文句を言われたから殺す

間男は当然殺す

そうやって親が殺されたから殺す

そうやって仲間が殺されたから殺す

例はたくさん出ているのですが、室町時代の日本人は名誉を汚されたと感じれば相手を殺さなければ収まりがつかなかった事がよくわかります。

中世の日本、特に室町時代は「ナメられたら殺す」

これ自体は結構有名な話なので知っている人も多いのではないでしょうか。

西欧人の宣教師は「日本では使用人を鞭で打って罰する事はない。なぜならば打たれたものが必ず主人を殺すからである」などとも書かれています。中世の日本に鞭打ちとか棒打ちのような刑がない理由として、なんとなく納得です。ちなみに大陸の律令を取り入れた時期には鞭打ちと杖打ちの刑がありました。報復される事が多くてなくなったのでしょうか。

ところで、この「ナメられたら殺す」の時に何を使って殺したのか。記述があるものだと、大抵は刀で刺すか太刀で斬るのどちらかです。「刀で刺す」の刀は短刀・腰刀の類である事が多いように感じられます。

室町時代の日本で日常的に行われていた「ナメられたら殺す」

この時の道具こそが刀・太刀だった。つまりそれなりに使用頻度の高い道具だった。

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よく刀や太刀を「権威の象徴」と呼ぶ事があります。これはまさにその通りで、力の象徴なのです。言い方を変えると「名誉を護るための武具」なのです。

「ナメられたら殺す」の象徴が刀・太刀を佩く事。

もう一歩すすめると、仲間がナメられたり殺されたりすれば仲間が一番となって相手を殺しに行く。そのルールを守る者・コミュニティの一員である事の象徴。

仲間が他のグループの者からナメられたり殺されたりすれば、自分達が相手を殺さなければナメられたままになってしまい名誉が守られない。仲間がナメられたら団結して相手を殺しに行く。これに参加する者であることの象徴が太刀・刀。中世後期には農民にも大小二本差しの風習が広がっていて、争いが拡大するとムラ同士の合戦にすらなっていく。

室町時代の日本では、この「ナメられたから殺した」が横行していて、本当に些細なことで人を殺していた。そして殺された者の縁者が相手を殺す。この連鎖が止められなかった。

ここに生まれたのが「喧嘩両成敗」という概念。争っているものは理由のいかんによらず両方とも死刑。現実的に争いを収めるための法律として有効だったので全国に広がったのでしょう。江戸時代に法律としては廃止されるものの「天下の常識」として長く日本人の意識に残存します。

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話を戻すと、中世の日本人は非常にキレやすくて殺人に及ぶ事が多かったわけです。その時には刀・太刀がよく使用された。それが文書に残っている場合も多い。だから幕末だけが異常に刀が使用されたわけではなく、江戸時代のように刀を抜く事すらままならなかった時期の方が珍しいのかもしれない。そういう話です。

「日本人は狂暴」というのは有名だったようです。

戦国時代の明国の使者が書いた「日本一鑑」という日本研究書では「なぜ日本人は狂暴なのか？」という理由が考察されているのですが、「日本人は狂暴」というのが当時の明国の知識人にとって常識であった事が伺えます。倭寇のせいで誤解された部分が大きいとは思うのですが、上掲の喧嘩両成敗について書かれた書籍を見るだけでも確かに当時の日本人は狂暴であったように受け取れます。異文化世界の人にはそう見えたはずです。

日本一鑑の記述↓

〈刀が鋭利であることを知るも、〔その刀で人を〕殺さないことをもって宝とする。（中略）そうした刀を佩いて年老いるまで人を殺さなければ、すなわち酒を供えて僚友・親戚に命じて、書を残してその刀を子に伝える。僚友や親戚もまた、酒を供えてそれを祝う。不殺の刀といい、宝となる。〉

「とにかく凶暴な日本人」が、500年前の中国で起こした「衝撃の歴史的事件」。（学術文庫＆選書メチエ編集部）倭寇対策の使命を帯びて、戦国時代の日本を訪れた中国人がいた。その見聞録『日本一鑑』には、自然風土から日本人の習俗、精神文化までが記録されている。隣国人の新鮮な眼で観察された、約500年前のリアルな日本とは――。

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刀で殺さない事を尊び、佩刀で老人になるまで人を殺さなかった刀を「不殺の刀」として喜び祝ったという記述。これは裏を返せば刀で人を殺さない事は人生で稀なことで、祝うくらいに価値のあるものだったという事なのでしょう。

「ナメれたら殺す」という名誉を護るための行動。これが中世の日本人の常識であり、それを為すための道具が刀・太刀だった。

ちなみに、日本一鑑には死刑にする時には新しい刀の切れ味を試した事なども書かれています。この頃すでに広く日本で行われていたことなのでしょう。後の江戸時代の死体試斬にもつながるもので、日本人の刀剣への特別な姿勢を現わすものであるとも思えます。

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『刀は斬るものか突くものか』刀は本来、切るための道具ではなく、突くためのものであり、切るというのはあくまでおまけ。しかし、江戸の世になってからは、死体を使った試し斬りで列位を作り、…

ameblo.jp

↑太刀は斬るものか刺すものか？という、こういう事が文献史料から考察ができるくらいに古代末期～中世初期から刀剣は実際に使用されていた事がわかります。合戦での刀剣類による死傷者が少ないからといって、あまり使用されるものではなかったとは言えないでしょう。「ナメられたら殺す」という不文律の体現者である事を示すための「名誉守護の象徴」であったと言えると思います。

今回触れませんでしたが、戦国時代には乱暴狼藉と呼ばれた乱取りの時には「ただの道具」としても多用されたはずです。「数打ち」と呼ばれるような戦国時代に大量に量産された刀はこういった需要に対応したものではないかと考えています。

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『まとめ：刀の注文打ちに際して調べた事など』使わないけど使える刀が欲しい。そういうコンセプトで色々調べて注文打ちで刀を作りました。過去に書いた事も合わせて、私が調べた事や考えなどを一度まとめておきた…

ameblo.jp