あれ…そういえばあの人最近見当たらないな。
そんな事がしばしばあった。
私の通っていた教会は他のキリスト教会からすると人数は多い部類だと思う。
所属グループ内には男女2、30名程度のメンバーが所属しており、そのグループが7つほど存在していた。
それが日本部で、韓国部はさらにその2、3倍のメンバーが存在していた。
そのため特定の人がいなくなっても、すぐには気付かないことが多かった。
そんな中で私によくしてくれていたメンバーの一人であるSさんの姿が見当たらない事に気付いた。
私は雑談の中でKさんにその件を聞いてみた。
Kさんは「最近調子悪いらしい、今は連絡はしないほうがよい」という回答の後、即座に他の話題に切り替えた。
他のメンバーにも聞いてみたが同じような反応だった。
その後、1ヶ月ほど経ってもSさんは教会に顔を見せる事はなく、私は再度Kさんに聞いてみる事にした。
すると表情に嫌悪感を滲ませた後、こう言った。
「彼はサタンに騙され、信仰を奪われたようだ。
もう戻ってくることはない、君も惑わされてしまうから連絡取らない方がよい」
私はお世話になったSさんを慕っていたため、吐き捨てるような発言に正直納得がいかなかったが、私はそれ以降、Sさんの話題を避けるようにした。
教会内でSさんの話をする人はほとんどいなくなった。
その頃、私は週1でチームリーダー補助になるための講義を受けていた。
繰り返し植え付けられたのは
・この世の中にはあらゆるシーンでサタンが私たちを騙そうとしている。
・ネットやテレビの情報、友人家族の話は鵜呑みにしないこと。
・日本の他の教会は霊的に死んでいる。私たちのような積極的に聖書を教える教会は他にない。
・未信者とは勧誘時以外は深く付き合わない方がよい。脱会者はなおさらだ。
・世俗的なイベントにはなるべく参加せずに教会のイベントを最優先すること。
一つ一つは聖書の言葉を引用して理由付けされ、それなりの説得力があった。
当時は2000年代前半でスマホやSNSは普及しておらず、何かを気軽に調べることは今ほど生活化していなかった。
私は当時知らなかったが、私の通っていた教会は良くない噂が多かったようだ。
教会は日曜の礼拝がメインではあるが、平日夜や土曜も集会がある。
祝日もリトリートと謳ってイベントがあり、集会のない日はなかった。
お盆は合宿セミナー、年末年始は教会泊まり込みの年越し集会があった。
私は実家通いであったが、上京してきたメンバーは実家に数年帰っていない人も多かった。
教会は少しずつ我々を世間から隔離しようとしていたのだった。
当時の私は気付くことはなかった。
つづく