私が、10歳くらいの時から1年間住んでいたアパートが、いまだに残っていることを聞いて信じられない思いで家内と現地に向かった。




現在はヒュッテという雑貨やさんとこむぎさんちの隠れ家という小さなレストランが入っている。

どちらも若者に人気なんでしょう。


なにせ、古いのでレトロが好きな若者に人気があるんです。




ぼくは当時共同風呂であった五右衛門風呂の前に立った。そうして一瞬にしてタイムスリップしてしまった。
風呂の焚き口でぼくは風呂を沸かしている。オガライトという燃えやすい物を入れて新聞紙に火をつけている。
次の瞬間、ぼくは五右衛門風呂の湯船に入ろうとしていた。

鉄釜の匂いが心地よい。

湯船には丸い木の板が浮いていて、その上に乗って板を沈めて入るのだった。鉄の釜は全てが熱いようだが1ヵ所だけ熱くないところがあって、そこに背中をつけて入ることになるのだった。



ぼくはハッとして我に返るとこむぎさんちの前まで歩きだした。
その小さなレストランでテイクアウトの食事を待つ間、ぼくと家内は正面のヒュッテという雑貨やの店主と話し込んだ。
そこでぼくはメイプルで出来た木製の珍しい腕時計を衝動買いした。


店主は言う、いつまでもここで店を開きたいと。

雨漏りがするらしい。
ブルーシートを敷いてその上に石を置いていた。



ここで生まれ育った人が店主の知り合いにいるということだ。
その方と店主は
「ここにはどんな人が住んでたんだろうね」
などと話しているということだった。
そういえば隣に若い夫婦が、住んでいたようにも思う。ぼくはその人と話したくて、携帯番号を残した。

一陣の風が吹いて木の葉が舞った。ぼくらはしばらく建物の前に佇んで物思いにふけっていると、風に舞った木の葉の、そのなかの一枚が私の肩に乗ってきた。

事業に失敗した父と共に逃げるようにやってきたこの長屋で、しかし、
ぼくらの人生はまさにここから本格的に始まったのかもしれない。

数々の都市を巡り家族を作りながら苦楽をともにし長らく生きてきたように思うが、ぼくの人生は枝から離れた木の葉がぼくの肩に落ちるまでのわずかな時間であったのかもしれない。


さて、2024年も終わろうとしています。
みなさんはどんな年でしたか?
どんなことが起こっても必要なことが絶妙なタイミングで、起こってるだけなんだなあ、と感慨深いですよ。

みなさんよいお年をお迎えください。

ではまた