むかし書いたものです。暇な年末年始にどうぞ

登場人物は眷属として神につかえるものたちの話です。魔に属するものもいます。


興味のあるかたは全編をどうぞ

 




稲荷編 その32


はやとキラは津和野の里の入口で事の推移を見守っていた、諏方も供の者たちと里の入口まで来ていた。

里の中にはコフィンが入っている、彼は神というよりは仏色が圧倒しているため、羅刹の封印の影響を受けないらしかった。

頼むわよ、コフィン、はやは祈る気持ちだった。


神社の境内では、貫主を中心に車座になって読経を続ける僧侶の周りを取り巻いていた霧がいっそう深くなり、僧侶の判別もつかないくらいだった。

えいっという貫主の気合いを入れた声が響いた。


次の瞬間、霧は一ヶ所に集中しだした。それは巨大な不動明王であった、

その頭は伽藍を遥かに凌駕していた。孝喜たちが様子を見に来たが、不動明王の足の辺りしか見ることが出来ず、ただ霧が出ているくらいに思っていた。孝喜は何か言おうとしたが、一段と大きくなった僧侶たちの読経にかきけされてしまった。


不動明王は手にしていた剣を振りかぶると轟音と共に空間を切り裂いた。上空に描かれていた赤いビームが徐々に消えていった。


封印が解けたわ!

はやはそう言うが早いか、諏方たちと一緒に船に乗り込んで津和野の里に入っていった。そうして、神社の駐車場の辺りで船を降りた。

諏方はすばやく空に向かって鈴を降って魔羅鬼神を呼んだ、鈴は5分ほどの長きにわたって振り続けられた。

すると突然、

月明かりに照らされた雲の隙間から供を従えた魔羅鬼が雲にのって現れた。


コフィン、コフィン。はやはコフィンを呼びながら階段をかけあがり、霧に包まれた境内に滑り込んだ。


コフィン。読経の切れ目にはやの声は境内に響いた。はやには目の前の霧が不動明王の足であるとは気づくこともなかったが、上空から降りてくる魔羅鬼神を見上げたときに巨大な不動明王が出現していることに気づいてたじろいだ。


いつの間にか、はやのそばに来ていたコフィンは、これが我が師匠の力です、と言って胸を張った。


魔羅鬼神は薄い透けるような着物をきてその妖艶な姿を現した。

あのお方は!と言ってはやとコフィンは絶句していると、

あのお方が宮島、弥山の三女神のうちのひとり、魔羅鬼神様です。と言って諏方はまた鈴を振った。

鈴はその美しい音色を遥か遠くまで響かせているようであった。


封印が解けたことで精霊界にもこの映像がスクリーンに写し出されていた。


魔羅鬼は憤怒の形相をした不動明王の前に降り立ち口を開いた、

羅刹よ、出て参れ。

魔羅鬼神は不動明王の化身とも言われていた。次回、津和野決戦 対決 に続きます。

(©️2022 keizo kawahara 眷属物語)



稲荷編 その33


羅刹、出て参れ。

魔羅鬼はもう一度言うと返事を待った、神殿内部では羅刹は孝喜らを前にして激怒していた。


何故このようなことになったのだ、

どうして不動明王が居るのじゃ?

そして、あの者は誰じゃ、

魔羅鬼のことを言っているらしい。


それに体が思うように動かん、どう言うことじゃ?

不動明王の力が働いているらしかった。それは魔羅鬼の力といってもよかった。


あの者、恐らくは、魔に属するものと思われます。

我らと同類か、外見上はそう見えますが、波動は決定的に違います、波動は神です。孝喜は続けた、

さらに、不動明王を召還したのは僧侶ですが、操っているのはその者であると思われます。

恐らくは相当な力の持ち主かと。

ウウーギシギシギシ〰️羅刹の顔は怒りで真っ赤だった。

何か方法はないか?

先程から上空より攻撃を試みますが、歯が立ちません、そう答えたのは揚来だった。


わかった。羅刹はよろめきながら拝殿から外に出た。

覚悟を決めたのか、穏やかな表情に戻っていた。


魔羅鬼の背後には、精霊界から駆けつけたお嬢を始め、主だった眷属が集まって事の成り行きを見守っていた。魔羅鬼は手にしていた杖を持ち直し、柄の先端についている青く光る宝石のようなものを羅刹に向けて何事か呪文を唱えた。

羅刹の体に生気が戻ってくるようであった。次回、津和野決戦 覚醒 に続きます。

(©️2022 keizo kawahara 眷属物語)



稲荷編 その34


羅刹はひざまづいた。


もはや、羅刹は魔羅鬼の手の内にあることは歴然としたことだった。


私は宮島、弥山の魔羅鬼である。

この度のことは見過ごせません、稲荷は里の神です、あなたのように自らの欲望を満たすために聖域を侵されては稲荷は人々に寄り添うことができません。


羅刹は崩れ落ちた。


さて、どうしたものでしょうか?

このようなことをおこしてそのまま返すわけにも参らないでしょう。このまま不動明王様にバッサリと切っていただくか、あるいは我らの手で永遠に府印されるか。

山のように佇む不動明王と魔羅鬼神のその妖艶な姿は、杖の青い光で照らされ周囲を圧倒していた、僧侶の読経は規則的に続いている、

はやたちは魔羅鬼から漂ってくる強い芳香にうっとりしていた。

時間が止まったかのようだった。


すると、はやの後ろに控えていたゆきは静かに前に歩き出すとスーっと魔羅鬼の前に出て羅刹に向かって座った。そして、木簡のようなものをピアノのようにパラパラと並べると霊妙な音を奏でた。

それはゆきがナジャに代わって演奏しているように見えた。


音はパイプオルガンのように重厚に響いていった、その音は虹色に輝く塊となって柱に反射し、木々に反射して空に吸い込まれていった。


いつしか、読経はやんで、不動明王のその姿も消えていた。

羅刹は、おお、この音色は!と言って身を乗り出した瞳からは赤い光が消えてキラたちのように青い光を放ち出していた。

羅刹は静かに話始めた。ナジャの奏でる音を初めて聞いたとき、体から重たいものが外れて、そのときだけは優しい気持ちになれた。ああ!それは気持ちよかったのじゃ、まるで何かに癒されているように。ずっと聞いていたかった、が、それが叶う筈もなく…他の者では駄目じゃったんじゃ。


ナジャが居なくなってみるとまたどうしても聞きたくなったのじゃよ。

じっと聞いていた魔羅鬼は納得したように微笑んだ、もう答えは出たようですね。貴方は私が引き受けましょう、私のもとで修行するのです。神となる修行を。

わしが神に、貴方はもう私たちと同じ波動を放ってますよ。それもかなり強い、よい神になるでしょう。羅刹の瞳からは大粒の涙がこぼれた。


魔羅鬼は振り返ると、どうであろう、皆の者、それで許してもらえませんか。と言って頭を下げた。

いつの間にか演奏も終わり、辺りは静寂に包まれていた、護摩壇の炎も消えて月明かりだけに照らされていた。羅刹の瞳はまた赤くなっていたが、以前のような凶暴な雰囲気はなかった。

さあ、参りましょう、魔羅鬼神が発とうとすると、


私も行きます!とゆきも前に出た。

ゆき!はやも立ち上がったが、それを手で制して言った。ナジャはもはやひとりではどこへも行けません、私にはナジャの気持ちが痛いほどわかります。魔羅鬼様のお側に行かせてください。


羅刹どののためには良いことじゃろうが…

わかりました、一緒にいらっしゃい。

羅刹のもとについてあげなさい。というと魔羅鬼は雲のようなものに乗った。


長くなるやも知れんぞ、

多胡はそう言うと頷いた。

たまには帰ってくるのよ、はやは声をかけた。


羅刹。これが後に、愛染明王として人々を癒すのだった。次回、戻った時間 に続きます。(©️2022 keizo kawahara 眷属物語)