父が認知症と診断されてから、私が携帯に出ないときに自宅の固定電話にかけて来ることが増えた時期があった。妻に相手をさせたくなかったので、着信音も録音中の留守電のボリュームも落とした。
家にいた時に、ただいま留守にしております、という固定電話の自動応答の音声が流れ始め、着信に気づいたことがある。応答の音声と、その時の相手の声はOFFにはならない仕様のようだったんだけど。
すると、電話をビリビリ言わせて、荒ぶる父の声が聞こえた。なにを居留守使ってんだ!いるのはわかってんだぞ!親の電話を無視すんのがっ!もう二度とかけねーがらなっ!ガキャン!!
あらー。昼間こういうのある?と妻に聞いたら、昼間はないよ。夜だからじゃないの?と言ってたけど、気を使ってそう言ってるだけかもな、と思った。ホントだとしても早晩そうなる。
携帯を買って、家族割をつけた。首から下げられられるストラップも。それと自分の写真を壁紙にして、直接呼び出しボタン3つ全部に自分の携帯の番号を登録した。それを週末に父の家に持って行って、これを使うといつでもオレに繋がるから、買い物に行く時も持っていってね、携帯電話っていうぐらいだから、携帯しないと意味ないからね、しかも通話料が家族はタダだし。そんな説明をしたと思う。記憶できるかどうかが心配だったけど。
とにかく、父の固定電話のところに書いてあった自分ちの固定電話の番号には二重線を引いて、解約済み、と書いた。
※※※ あ、そっか。当時、いろんな人から自分の携帯に突然電話が来てたのは、そのせいか。今、書いていて気づいた。警察や自動車のディーラーとか、なんで?って思ってたけど。
不思議なことに、携帯を首にかけてはくれなかったけど、大事に持ち歩いてたらしい。市役所の包括支援課の方に聞いた。でもやっぱり、電話をかける時は、固定電話を使ってた。
ボタンを押せばいいだけなんだけどな。これが認知症から来るのか、そうじゃないのかは、わからなかった。
はじめはバッテリー切れを起こし、固定電話から何度も、おめーの顔が出なくなったぞ、とかけてよこした。週末に行って、置き場所はココ↓、の張り紙をしてみたり、色々試行錯誤してようやく充電できるようになったけど。
いまから考えると、発信に使ってくれなきゃ意味なかったかな。でも、包括支援課の方からは、まるでお守りのように大事に持ち歩いてるみたいですよ、と聞いたので、よかったのかな。。
張り紙に書いてあることはできる。でも、新しい道具を記憶に頼って使うことはできない。ボタンを押せばいいのは、張り紙でわかる筈だけど、そこは慣れている固定電話が目の前にあったから使わなかった、ということか。
短期記憶が出来なくなる、というのは、頭では理解しても、実生活でなにが起きるかなんて予想もつかなかった。その場面に出くわして始めて、ああそうか、なるほどねー、と思うことがずいぶんと多かった。