6月29日は、私が所属するパリの日本哲学研究会に、ライプツィヒ大学教授の小林敏明氏を招いて、日本語で講演をしていただいた。タイトルは「『永遠の今』とカイロスの系譜」。この5月に岩波から出版されたばかりの氏の新著『西田哲学を開く』(岩波現代文庫)の最終章の一部が講演の中身。しかし、ご本人がパワーポイントを使いながら、懇切に大事な点を説明してくだり、特にハイデガーの原文からの引用を詳しく注釈してくださったので、ただテキストを読んだだけではすぐには見えて来なかったこともよくわかり、大変学ぶところの多い講演だった。過去に何度か、私たちの研究会で講演していただいているが、そのときはいつも私が予め発表原稿を仏訳し、講演当日は通訳を務めさせていただいた。今回は、私のほうがとても忙しく、それらのための準備の時間が確保できなかったので、会の別のメンバー2名にそれらを担当してもらった。発表2時間、質疑応答1時間半。普段の研究会のときと比べて出席者も多く、質問も多数出た。それらに対して小林氏は一つ一つ丁寧にお答えくださり、参加者みんなにとって、とても中身の濃い講演会だったと思う。私自身も発表を聴きながら考えたことを、質疑応答のときに詳しく説明しつつ、質問することができ、その質疑応答の中で、時間についての自分のこれからの思索を、「流れる時と永遠の今
― 〈時間〉と〈時〉の交差」というテーマで展開させていくためのヒントもいただいた。会後は、私の自宅のすぐ近くのレストランで、氏を囲んで数名の参加者たちと会食。これもまた楽しい一時だった。翌日は、ほんとうに久しぶりに見る雲ひとつない青空の下、小林氏と私を含めた研究会のメンバー3人とで、セーヌ右岸で昼食、セーヌ川岸に並ぶ古本屋を覗いた後、サン・ジェルマン・デ・プレ界隈のカフェやリュクサンブール公園の中で半日ゆっくり歓談。尽きせぬ話に時が経つのを忘れるほどであった。6月15日の記事で話題にした、11月上旬にパリのENSで開催されるベルクソン学会には氏も発表者として招かれており、私が氏の発表原稿を仏訳することを申し出、そのときの再会を期して、夕刻、氏の宿泊先のホテルの前で、お別れした。
さて、いつもその日の記事を投稿するのは、こちらの時間で17時過ぎ。夏時間の今は、日本との時差は7時間。投稿する時刻には、日本では日付が変わる。それで、記事の中で「今日」というのは、ブログの記事の日付の前日に当たる。
その今日、4日金曜日、朝から本務校で修士2年への進級審査口頭試問。この口頭試問では、受験者は、フランス語以外に、英語と日本語での質問に答えなくてはならない。フランス語での質問は修士課程の学科長が、英語での質問はイギリス人の同僚が、そして日本語での質問は私がする。1人30分。語学を得意とする学生でも、この口頭試問は相当に緊張するようで、それが手に取るようにわかる。緊張のあまり、普段の実力を発揮できない学生もいる。今日の受験者4名はすべて内部受験者。そのうち2名が去年修士1年から入学した学生。この1年間授業で彼らを見てきた。残り2名は学部1年から4年ないし5年間見てきた学生。彼らとの間には暗黙の確かな相互信頼関係が成り立っている。結果は4名全員合格。口頭試問の前に、入学志望者や留学予定学生の書類を数件処理。これで日本に発つ前に処理しておくべき仕事はすべて完了。後は家に帰ってゆっくり荷造りするだけ。
明日、7月5日午後、シャルル・ド・ゴール空港から日本に向けて発つ。翌日6日の朝、関空到着。国際線南出口で、3週間の日本語研修に参加する8名のフランス人学生たちと合流。例年通り、受け入れ先の大学が用意してくれるマイクロバスでキャンパスまで移動。昼過ぎには、学生たちはキャンパスまで迎えに来てくれるそれぞれのホスト・ファミリーに引き取られていく。夕方には、私自身、キャンパス内のゲストハウスに落ち着けることだろう。宿泊する部屋のLANケーブルを使ってネットには接続できるということなので、6日以降の記事は、そこからの投稿になる。