人形峠に伝わる大蜘蛛(ぐ・も)退治の民話からヒントを得た映画が完成した。タイトルは「TRAIL(トレイル)」。監督は倉吉市出身の波田野州平さん(31)で、ほぼ全編を県内で撮影した。25日に故郷で初めて上映される。
映画には、県中部で1920(大正9)年に発足した芸術団体「砂丘社」の若者をモデルにした画家、音楽家、詩人が登場。3人は森に入り、それぞれが創作活動をする。そこで赤い服を着た少女と出会い、奇妙な運命をたどる。
昨年9月に撮影を始め、鳥取市の喫茶店「丸福珈琲(コー・ヒー)店」や倉吉市にある国登録有形文化財の銭湯「大社湯」、旧国鉄倉吉線の山守トンネル跡など、県内各地でロケを続けた。
芸術家を演じたのは、プロの役者ではない。それぞれが実際に絵画、音楽、詩の世界に身を置いている。波田野監督は「演技ではない創作の過程を撮りたかった」と話す。また、即興で作品をつくる芸術家たちに監督自身も影響を受けながら撮影を進めたという。
映画では、セミの鳴き声や雨音、薪(まき)が燃えてはぜる音などが印象的だ。登場人物の台詞(せりふ)は、それらの音と重なっている。「自然の音は意識して入れた。人間だけではなく、森の生きものや天候などを含めた混沌(こん・とん)、遠近感が狂った世界を描きたかった」
物語の終盤、舞台は生きものがうごめく森から博物館へと移る。そこでは、動物は剥製(はく・せい)に、昆虫は標本となって並ぶ。「過去に流れていた時間と止まってしまった時間。その対比でもある」と監督は言う。
題材となった民話は、旅人たちを襲う大蜘蛛の物語。武士が女の姿をした人形をおとりにして退治したことから、人形峠の名称の由来にもなっている。
劇中では、現実では考えられないようなことが次々に起こる。「寓(ぐう)話、民話のように幻想的に撮りたかった。なぜ民話が語られるのか。それは奇想天外なことからじゃないと考えられない何かがあるから」
「想像力」という名の大きな鳥が目の前にいるとしたら、と波田野監督。「その鳥は自分をどこまで連れて行ってくれるんだろうって、そんなふうにこの映画を見てほしい」
上映は、25日午後6時半から倉吉市の倉吉未来中心で。一般千円、大学生以下800円、小学生以下無料。100分。上映後には波田野監督らのトークもある。問い合わせはソングライン・ピクチャーズへ。
出典:朝日新聞