今日は偏屈着物親父の最も敬愛する作家、山本周五郎関連の全集・シリーズ。

  山本周五郎長篇小説全集 全30巻(新潮社)

 2013年6月に刊行開始、15年2月に完結した全集。第1回配本は2冊同時だが(「樅ノ木は残った 上・下」)、翌月から月1冊の配本だった。定価は税別1500円から1800円。

 2013年元日の新聞広告に、大きく刊行予告が載っていたのを覚えている。この年の新潮社の大型企画だったのだろう。何しろ周五郎と言えば新潮社であり、現在でも新潮文庫には周五郎の小説が60冊くらい入っており、しかもほとんど品切れなしなのだから、いかに同社が周五郎に力を入れているかが分かる。

 

 これまで周五郎の全集は3回刊行されていたが、今回の全集は名称の通り長篇小説だけを集めたもの。長篇とは言っても、中篇・連作短篇集も含まれている。

 そしてこの全集最大の「売り」は、脚注と巻末付録が付いていることである。

 周五郎の時代小説は、いかにも、と言った感じの時代がかった文体ではなく、現代小説のような親しみやすいものである。(それでいて江戸の情緒を残しているところが絶妙のバランスで、そこが私にとって魅力の一つなのだが) しかし、現代生活では滅多に使わなくなってしまった言葉も出てくるし、風俗も現代とはかけ離れている。脚注はそれを補ってくれて、大いに有り難い。しかも、説明が簡潔で長ったらしくないのが良い。

 また、巻末付録として、系図や登場人物一覧、関連地図が付いており、非常に便利だ。

 

 この全集のカタログが手元にあるが(書店でもらったもの)、冒頭の見開き2ページに4人の推薦文が載っている。宮本輝、宮部みゆき、西原理恵子、市川猿之助と多岐にわたる顔ぶれである。

 また、各巻の解説も充実していて、「お、この人もなの!」と思わせる現役の人気作家達も執筆陣に名を連ねている。いかに周五郎の作品が幅広い人たちに愛読され、影響を与えているかを知ることができる。ファンとしてはうれしい限りである。

 

 いろいろとご託を並べてきたが、実はこの私、周五郎ファンを自認しながら未読の小説が結構ある。代表的な長篇では「ながい坂」「栄花物語」「天地静大」などである。

 なぜなのだろうと考えてみたが、あまりにも「周五郎愛」が強すぎて、長篇を読むとなると、かなり身構えてしまうからだと気づいた。

 そういえば、音楽の話になってしまうが、ジョン・コルトレーンについても、似たところがある。彼のライブCDはたくさん持っているが、よほど心身の状態が良く、気合いが入った時にしか聴けない。若い頃はそんなことはなく、いつも夢中になって聴いていたのになあ。

 

 というわけで、ご多分にもれず、この全集もほとんど手つかずである。時間はたっぷりあるわけだから、周五郎の世界にじっくり浸らせていただこう。(未読はもちろん、再読も含めて)

 あ、最後に。新潮社さん、「山本周五郎短篇小説全集」の予定はないのですかね。この全集と同じようなコンセプトで出版されたら、もちろん「即買い」しますよ。お願いします!

 

ソフトカバーですが、しっかりした造本です。表紙の絵がすてきです。

 

  山本周五郎探偵小説全集 全7巻 (作品社)

 2007年10月刊行開始、翌年4月完結。各巻税別2800円、第7巻のみ税別3200円(第7巻は別巻扱い)。月1冊の配本だった。

 周五郎は若い頃、少年少女向けの雑誌にたくさんの小説を書いたことは知っていた。しかし、それはあくまで生活のためであり、周五郎の本懐ではないことも承知していた。だから、その頃の小説は全く読んでいない。

 しかし、この全集は周五郎のそういった時期の作品に初めて光を当てたものである。この全集の刊行を新聞広告で知るや、私の「コンプリート癖」がむくむくと頭をもたげ、即購入決定となった。毎月3千円ほどの出費は全然気にならなかった。(新譜CDとほとんど同じ値段である)

 もちろん(?)、例の如く手に入れたあとはほとんど手つかずである。周五郎は戦前の少年少女向け小説でも、佳篇と言うべき作品を書いている。例えば、中学校の国語教科書にも採用されていた「鼓くらべ」である。だから、この全集に収められた小説群も決してレベルが低いわけではないだろうと考えられる。純粋なエンターテイメントとしても楽しめると期待している。

 

 

ハードカバーの立派な造本です。この出版社(作品社)の本は、どれも装丁が凝っています。

 

  山本周五郎中短篇秀作選集 全5巻(小学館)

 2005年11月から月1冊の配本で、翌年3月完結。定価は各巻税別2000円。2段組であるが、それほど小さくないフォントで読みやすい。1巻に文庫本2冊分くらいは収められている

 「待つ」「惑う」「想う」「結ぶ」「発つ」というテーマが各巻に与えられ、それにちなむ秀作が収められた形になっている。CDで言えば、コンピレーション・アルバムと言ったところか。

 このシリーズの面白いところは、底本が原則として初出誌(初めて発表された雑誌等)となっているところだ。普通は単行本を底本としているので、細かい点では今までに発行されている本と違うところがある。そんな細かいこと、どうでもいいじゃないか、と言われればそれまでだが、資料的な付加価値はありそうだ。

 また、普通巻末に付されることが多い「解説」が、付録の形で挟み込まれている。A6判という葉書サイズの大きさだが、山本一力など現役の作家や評論家のエッセイ風の解説はなかなか面白いし、連載という形で周五郎の息子である清水徹氏の「父・山本周五郎の思い出」が掲載されているのも貴重である。

 このシリーズに収められている中・短篇のほとんどは、たぶん今まで読んでいるはずだ。ただ、再読しようとすると、仕舞い込まれている文庫本を引っ張り出さなければならないのが面倒である、その点、このシリーズはそれこそ「秀作」揃いなので、とても都合がいい。

 そんな理由もあり買い求めたのだが、これも第2巻の途中までしか読んでいない。まあ、気楽に一篇、二篇と読んでいくか。

 

ソフトカバーで、装丁がなかなか凝っています。特に、表紙の絵が江戸情緒を醸し出し、周五郞作品のイメージにぴったりです。右の表紙絵は「柳橋物語」の一場面ですね(たぶん)。

 

次は全集ではないが、周五郎に関連して。

  山本周五郎関連本

 ここ10年ぐらいに限っても、周五郎の関連本や雑誌特集はたくさん出ており、見つけるたびに購入している。これも例の「コンプリート癖」のなせる業であろう。(ただミーハーなだけか?)

 没後50年という節目もあったのだろうが、逆に没後50年も経っているのに、これだけの関連本が出されているという事実に驚かされる。いかに彼の作品が多くの人の心を虜にしているか、ということが分かる。

 

上段はかなり昔に出されたもの、下段が比較的最近出されたものです。隠れてしまっていますが、福田和也氏の新書もあります。勝手なイメージで福田氏は周五郞とは縁遠いと思っていたので、この本が出たときは意外でした。

 

 相変わらず所有しただけで満足しているものが多いが(ちゃんと読んでいるものもありますよ!)、下記の本はぜひ読んでおきたいと思っている。

○「山本周五郎戦中日記」(角川春樹事務所)

○「山本周五郎愛妻日記」(角川春樹事務所)

○「周五郞伝 虚空巡礼」(齋藤愼爾 白水社) 

○「山本周五郞を読み直す」(多田武志 論創社)