神田沙也加という奇跡⑤ | 「松田聖子」という奇跡

神田沙也加という奇跡⑤

ここ数日、取りつかれたかのように沙也加さんのことを書いてきましたが、今回で最後となります。

 

「神田沙也加」という宝物が、この世から失われてしまったという事実。

この悲劇は、どうあがいても覆せるものではないし、この喪失感が埋まることも、この先無いでしょう。

せめて彼女の素晴らしい才能、やり抜いてきた偉大な仕事たちを語り継ぎ、多くの皆様と共有することが一番の供養になると思い、自分なりに書いてきました。

自分にとって、悲しみを少しでも癒すにはこれしかなかったわけですが、共にお付き合いくださった皆さま、本当にありがとうございました。

 

もちろん、彼女の魅力を数回の記事で語り尽くすことなど、到底できるものではありません。

とはいえ、これだけは強調しておきたいのが、沙也加さんの創作者としての才能です。

具体的に言うと、「作詞家:神田沙也加」の魅力について。

 

沙也加さん、聖子さんの『恋はいつでも95点』の作詞をしたのが13歳。

 

階段掛け登りあなたの待つその場所へ

一秒でも早くたどり付きたかったのに

はやる気持ちに着いてゆけないステップ

高いブーツで階段を踏み外した私

 

恋への期待ともどかしい気持ちを、「階段」「高いブーツ」というワードを使って、上手に表現していますよね。

13歳ですよ。

文才の塊じゃないですか!

 

18歳の時に発売された1stアルバム『Doll』でも、全曲作詞をしています。

その1曲目、3rdシングルでもある『水色』は、18歳になる直前に発売されたものです。

 

 

この頃にはもう既に、表現が文学的ですね。

実際の風景というより、心の奥にある心象風景を描いているような感じがします。

繊細で、傷つきやすい10代後半の心情の、彼女なりの表現。

それはもちろん文才でもありますが、同時に、その豊かな感受性に驚きます。

 

話は大分飛んで2020年。

沙也加さん、黒崎真音さんとALICesというユニットを結成しました。

このお二人、元々仲が良くて、アニソンを二人で歌ったりしていましたよね。

やっぱり声質が似ていて、ここでも声は友を呼んだのでしょうか?

昨年9月、黒崎真音さんが、配信ライブ中に硬膜外血腫で倒れ緊急手術を受けた際には、

 

大切な相方へ。

公演後にALICesのマネージャーから慌てて聞いて、立ち上がれなくなって、泣きました。

いつも想ってるよ、双子じゃないのに双子みたいなあなたの事を。

その日を信じているよ、だから今はゆっくり休んでね。

観に来てくれて褒めてくれた公演、絶対最後まで頑張るからね。

大好きだよ。大好きだよ。

出来るなら今すぐ駆け付けたい、代わってあげたいよ。

 

とツイートした沙也加さんだったのに・・・。

 

今回の件、真音さんのショックは計り知れないものだったでしょう。

 

さや 早く帰っておいで 寒いでしょ

ずっと言ってたよね さやを一人にしないって

寂しかったら一緒に住もうって  いつでもどこでも会いに行くって

ねぇ さや さや LINEしても既読さえつかないよ

 

真音さんのツイートです。

胸が痛いです・・・。

 

ALICesでは、配信のみで4曲を発表しており、最初の2曲は沙也加さんが作詞をしています。

この曲『Icy voyage』はその1曲目にあたるわけですが、まさしく心の奥底にある風景を描いたような曲なんです。

何と言うか、ついにここまで来たのか、という印象です。

 

ちなみに、Bon voyageなら「良い旅を」という意味で、この曲も最初はBon voyageと歌っているのですが、Icy voyageというのは、「氷の世界の旅」ということでしょうか?

 

「紫の花が咲く場所」、「氷の惑星」、「ここから先は行き止まりだ」とは、なんのメタファー(暗喩)なのか?

色々考えさせられてしまいますが、やっぱり沙也加さんにはこういう世界観があったんでしょう。

 

あぁ なんて せつない 美しい世界

 

 

切なくて、美しい。

本当に、心の深淵を旅しているような・・・。

 

ただこれは、例えば文学賞でいうと芥川賞みたいなもので、一般受けは難しいかもしれません。

直木賞のような、いや、最近だと本屋大賞のような娯楽性がある方が、大衆に認知されやすいと思います。

 

次の曲も芥川賞に分類されますね。

2021年発表の『ずるいよ、桜』。

tokuさんというプロデューサーの方が制作したアルバム、「bouquet」の1曲目に収録されています。

このアルバム、様々なアーティストの方とtokuさんがコラボされているようですが、bouquet(花束)というタイトル通り、全ての曲が花にまつわる曲になっているんですね。

雨を理由に、桜を見に行けなかった(大切な人に会えなかった)時の心情でしょうか。

ごめんなさい、こういうの、説明するのは野暮でした。

 

 

ずるいよ、桜 雨に阻まれたなら

今日しかなかった 何かに気付いちゃうじゃない

さよなら、桜 触れられないことなんて

知ってたよ そろそろ春から覚めよう 今

ごめん 出来ないよ、桜

 

これも切なく儚い物語ですね・・・。

私はこういう繊細な沙也加さんが、大好きです。

 

そして、2014~2016年に活動していた、ギタリストのBillyさんとのユニット、TRUSTRICK(以下、トラトリ)も忘れられません。

自分の中では、このBillyさんこそ、沙也加さんのベスト・パートナーだったと思います。

アルバム3枚が発売されましたが、本当にいい曲がたくさんありました。

 

作詞の面からいうと、神田沙也加が描く壮大なファンタジーの世界だったと思います。

それこそ、沙也加さんが書いたファンタジー小説とか、読んでみたかった・・・。

本屋大賞も夢じゃなかったと思いますね。

 

トラトリのアルバムで描かれていたのは、離れ離れになってしまった魂が、お互いを求めて、すれ違いつつもめぐり逢おうとする物語。

そう考えています。

(もちろん、そうじゃない曲もたくさんあります)

この辺りのことは、以前このブログでも、ドン引きされるぐらい、散々書かせていただきました。

書き出すとキリが無いので、今回はこの曲を。

 

『いつかの果て』。

2ndアルバム『TRUST』に収録されています。

沙也加さんが亡くなったと聞き、自分の中に真っ先に流れてきたのがこの曲でした。

 

沙也加さんと僕らをつなく橋が壊れてしまった。

橋の向こう、すぐ近くにいるはずなんだけど、そこには行けない。

そんな感覚。

 

 
『いつかの果て』
 
反対の方に 君が立ってる しあわせを信じてる
僕は橋の修理を待ってる 「すぐ行くからね」って もう何年もこのままで
 
預かったものを返したい 既に形無くても
平気さ 何処にも行けないから 何処にも行きやしないよ
 
これ以上 「いつか」なんて言ってちゃ
また一つ 置き去りにして crime and cry 暗いよ
こんなに全てが限りあるなら いつかどこかの果てで逢えるよ
 
いつだって僕は 「傷ついてる」って あからさまな態度で
傷つけたい 君に残りたい それだけで良かった そんなふうにしかなれない
 
仕返しは 言葉じゃなくて 削り合う心たち
痛みは 苦しいままであるから 君がそばで生きてる
 
今度こそ 祈るだけじゃダメだ
ほら ろくに哀しめないで crime and cry 暗いよ
空虚の行き止まりで泣けたなら いつかどこかの果てで逢えるよ
 
「いつか」 でも それっていつだろう
「どこか」 とは 何処なのだろう
この足は 危険でも冒して行ける
 
・・・反対の方に 君が立ってる
 
今度こそ 祈るだけじゃダメだ
ほら ろくに哀しめないで crime and cry 暗いよ
空虚の行き止まりで泣けたなら いつかどこかじゃなくて
 
これ以上 「いつか」なんて言ってちゃ
また一つ 置き去りにして crime and cry 暗いよ
こんなに全てが限りあるなら 遠回りしても僕ら逢おうよ

 

 

トラトリの活動休止が発表された時の最後のライブ、最後の曲はこの曲でした。

これはきっと、「いつかの果てに、また逢おうね」っていう、二人からのメッセージだと勝手に思っていました。

いや、そうに違いありません!!

 

ダメです、思いが溢れてしまって・・・。

 

ごめんなさい、トラトリの曲は、そういう視点だけじゃなくて、純粋に音楽としても素晴らしかったので、念のため。

この3枚のアルバムは、自分の宝物です。

どのアルバムも、冒頭の幻想的音楽からして最高です!

 

1st『Eternity』

 

2nd『TRUST] 

 

3rd『TRICK』

 

ちなみに、沙也加さん、何曲か作曲もしているんですよね。

これもまたいい!!

 

『FLYING FAFNIR』

 

もし本格的に作曲をやったとしても、名曲をたくさん書いたはずです。

 

*追記 沙也加さんの曲作りについて

曲作りの過程については、トラトリ時代のこの2つのインタビューが非常に興味深いです。

 

トラストリックインタビュー①『Eternity』

 

トラストリックインタビュー②『TRUST』

 

最初二人が組んだ時に、Billyさんが2曲メロディ送ったら、速攻で歌入りのデータが送られてきた、って本当に天才としか言いようがありません。

メロディを聴いてパッとイメージが出来てすぐそれが言葉になってそれを歌って、って凄すぎます!

それでいて、アルバム全体の流れとかコンセプトとかにも合致しているなんて、本当に凄い。

 

あと、自分の記事では沙也加さんの歌詞の意味の方だけに焦点を当てていますが、このインタビューにあるように語感だけで歌詞を当てはめることもあったり、と、その辺りは非常に音楽的な人だと思います。

つまりは、文学性と音楽性、どちらもやっぱり天才です!!

 

・・・そして、やっぱり沙也加さんが書いた曲といえば、この曲は外せません。

実は今回のシリーズを書き始めるにあたって、一つ決めたことがありました。

それは、なるべく聖子さんについて書かないようにしよう、ということです。

ただでさえ親子関係云々という情報が入り乱れていたし、やっぱり聖子さんのことはそっとしておいてあげたかったし・・・。

 

だから、できるだけ神田沙也加という一人のアーティストの作品やパフォーマンスに絞って記事を書こう、って。

そう、宮本亜門さんのお言葉ですよ。

 

「あなたが築いてきた道です」

 

でも、ダメでした。

人間神田沙也加ではなく、アーティスト神田沙也加のみに焦点を当てたとしても、結局松田聖子について触れてしまう。

神田沙也加を語る上では、松田聖子を引き合いに出して語るのが一番わかりやすいんですね。

それ程性質が対照的なので。

その対照的な二人が実は親子だった、という奇跡。

 

それに、少なくとも同じアーティストとして、沙也加さんが聖子さんの影響を受けていないはずがありません。

幼いころから聖子さんのコンサートに帯同し、デビューしてからは出演もしていたのですから、きっとその中でたくさんのことを吸収したんだと思います。

ステージでのパフォーマンスだけでなく、、仕事に対する姿勢、スタッフに対しての接し方等も含めて。

対照的なお二人でも、その辺りはしっかりと受け継がれていた、そう確信します。

そして、間違いなく受け継がれている、あの歌声。

だから、そこに触れないのは、逆に不自然かもしれません。

 

さらに言えば、

 

「親の七光り」というイメージから独り立ちしたい!!

 

という思いこそが彼女の躍進の原動力になった、という見方もできるわけです。

それが無かったらミュージカルの世界に飛び込むことも無かったかもしれないし、貪欲に自分を磨くこともなかったかもしれない。

あくまで結果論ですが。

 

松田聖子、2006年発売の『bless you』。

作詞・作曲、上原純。

沙也加さんが書いた曲です。

2011年、沙也加さんがツイッターで公表するまでは、沙也加さんが書いた曲だとは明かされていませんでした。

 

色々な情報が飛び交っています。

様々な考え方があると思います。

でもこの時、沙也加さんが書いたこの曲は、やっぱり、沙也加さんが聖子さんに贈った「思い」だった。

時が経ち、その後何が起ころうとも、根底にはこの「思い」があった。

そう信じています。

 

*bless you.

日常会話で使う時は、相手がくしゃみをした時などに使い、「お大事に」というようなニュアンスなんだそうです。

元を辿れば、God bless you=神のご加護あれ。

でもこの曲で使われているのは、I bless you.=あなたを祝福します。

私なりに解釈すると、「あなたの幸せを祈っています」というニュアンスでしょうか。

 

当時、二十歳の沙也加さんが紡いだ言葉、沙也加さんから溢れ出たメロディ。

なんて優しい言葉、なんて温かいメロディ・・・。

 

 

『bless you』

作詞・作曲:神田沙也加

編曲:小倉良

 

Wonderin’ night 例えば 君を忘れたなら

この目は 何も 意味を持たない

 

だから側にいて

 

つまずいた夜に 泣いてくれた事 今も忘れない

日々の戦場の中 汚れないでいてね

いつも 君を想う I bless you.

 

Wonderin’ snow 睫毛に積もる粉雪 そっと

君という光に 溶かされていく

 

それは眩しくて

 

瞬きの間 またひとつ生まれる 想い君へと

月に乗せて今 その窓に届け

今夜 君を想う I bless you.

 

I'll be missing you tonight...

 

新しい季節がやがて巡りくる 街を包んで

時が流れても いつか眠る日も

ずっと 君を想う I bless you.

 

この曲は、沙也加さんが聖子さんへ贈った曲です。

でも、聖子さんがこの曲を歌う時、それは逆の意味を持った曲になっていたと思うのです。

 

沙也加さんの聖子さんに対する気持ちが、そっくりそのまま、聖子さんが沙也加さんに対する気持ちになっていたんじゃないか、って。

聖子さん、きっと沙也加さんのことを想いながら、この曲を歌っていたんでしょうね・・・。

 

 

I'll be missing you tonight...

 

新しい季節がやがて巡りくる 街を包んで

時が流れても いつか眠る日も

ずっと 君を想う I bless you.

 

どうしても湿っぽい話になってしまって、ごめんなさい。

最後は、沙也加さんのとびっきりの笑顔で。

 

 

 『Eternity』の初回限定版には、この曲のMVのフルが入っています。

本当に楽しそうに歌う沙也加さん。

自分が一番好きな沙也加さんの笑顔です。

 

 

さあ beautiful dreamer

「受け入れられる いつか あなたは」

君の言葉で

あぁ 孤独さえも救える 行こう

beautiful dreamer

 

現れて 気付いてしまった

胸の声 叫ぶ

『君なんだ』

紡いできた場面はきっと

いまへの分岐点で

君なんだね、全部

 

沙也加ちゃん

あなたは間違いなく、僕の『beautiful dreamer』です。

どうか、安らかに・・・。

 

 

ずっと 君を想う

I bless you.

 
*懐かしい対談があったので、添付させていただきます。
 特に、14:225~の『LIBERTY』のお話は興味深いです。
 作詞の話や、聖子さんが留守電で『流星』を歌ったりと、貴重な内容ですね(涙)