神田沙也加という奇跡② | 「松田聖子」という奇跡

神田沙也加という奇跡②

悔やんでも悔やみきれないこと。

それは、沙也加さんの舞台を生で観劇できなかったこと。

でも、今更悔やんでも仕方ないので、You Tubeで数少ない動画を観ています。

 

沙也加さんとミュージカルといえば、まずは2004年の「Into The Woods」。

デビューから2年、沙也加さんが初めてミュージカルに挑戦した時の作品です。

自分が本当にやりたいことは何なのか、いや、自分は何者なのか、その答えを探していく中で、ついに見つけた糸口。

この1本の糸を絶対に手繰り寄せる。

並々ならぬ決意で臨んだ初舞台。

 

この時の様子を、演出家の宮本亜門さんと、アナ雪でブレイクした後の沙也加さんが振り返っています。

 

 

宮本亜門さん、今回の件では相当なショックを受けられたと思いますが、温かいコメントをしてくださいましたね。

以前の記事でも紹介させてもらったと思いますが、当時の貴重な映像が残っています。

 

 

・・・嬉しかった、私。

「周りじゃないんだよ。沙也加なんだよ。本人を見てるんだよ、僕は」

って、言って、くれた、から。

「あなたが築いてきた道です」。

・・・嬉しい、嬉しい、っていうか、言われたことなかったし・・・。

きっと言われたかった言葉だったし、ずっと。

言ってくれた、から。

私は私なんだ、って、思えるようになりましたね・・・。

 

亜門さんとの出会いは、沙也加さんにとって本当に貴重な宝物だったと思います。

 

時は流れ、2015年、「Into The Woods」がディズニーで映画化されることになり、日本での上映にあたり、沙也加さんは宣伝ナビゲーターを担当することになりました。

そのジャパンプレミアにおいては、沙也加さん、日本語に訳した劇中歌「Children Will Listen」を披露しました。

 

 

美しい・・・。

 

初めてのミュージカルの世界で、右も左もわからずただただ必死に食らいついていった沙也加さんが、11年後にはハリウッドの大女優であるメリル・ストリープの前で歌声を披露するなんて、誰が予想したでしょう。

 

2004年当時、「神田沙也加」という存在には、確かに「親の七光り」という言葉が、重く重くのしかかってました。

きっと沙也加さんは、その中でもがき苦しみながら、それでも前に進んでいたんだと思います。

 

そして2009年、ミュージカルの王道「レ・ミゼラブル」のヒロイン、コゼット役を射止めます。

 

こちらは2008年末の制作発表会での歌唱のようです。

藤岡正明さんがマリウス(マリユス?)、坂本真綾さんがエポニーヌなんですね。

沙也加さん、大きな目で瞬き一つせず歌っています。

もの凄い集中力。

この大役を務めるにあたり、生半可ではないプレッシャーと戦っていたんでしょうね。

とても綺麗な高音、沙也加さんらしさも出ていると思います。

 

 

余談ですが、沙也加さんはTRUSTRICK時代、坂本真綾さんの「雨が降る」をカバーしています。

坂本真綾さんと沙也加さん、声質が似ていますね。

どちらも透明感のある歌声です。

 

 

 

「レ・ミゼラブル」、私はヒュー・ジャックマンが主演した2012年の映画が大好きで、DVDも購入してしまいました。

このミュージカルにおいては、コゼットよりエポニーヌの方が(歌唱力を披露するという意味では)オイシイ役柄のような気がするのですが、声質が似ているお二人がコゼットとエポニーヌに分かれて演じているのも興味深いです。

 

そしてこれも、制作発表会のようなものでしょうか?

エボニーヌが、坂本真綾さんではなく笹本玲奈さんになっています。

こちらも沙也加さん、綺麗な高音で歌っています。

 

 

ただ、こちらの歌唱は、ちょっと不安定な部分があったりして、まだまだ進化の途中、という感じはします。

この動画、ニコニコ動画にもUPされていますが、コメントが酷いですもん。

沙也加さんに対して、もうボロクソ。

 

沙也加さん、言われる程酷くないと思いますが、それにしても、藤岡正明さんと笹本玲奈さんが素晴らしい。

本当に良く通る歌声です。

これぞミュージカル、というような。

 

ミュージカルは、実力勝負の世界。

厳しいオーディションを勝ち抜いた選ばれし者が、毎回のステージで生歌を披露、そしてミスも許されない。

まさしく「戦場」ですね。

そこに「親の七光り」で割り込んできた(と、当時思われることが多かった)沙也加さんの存在は、批判するに格好の餌食だったのでしょう。

そう言いたくなるミュージカル・ファンの方の気持ちもわからないではありません。

だから必要以上に厳しい評価をされてしまうことも多かったことは、容易に想像できます。


これも余談ですが、笹本玲奈さんは、ご自身のインスタグラムで、

 

>私の若き青春時代は貴方と共にありました。ありがとう。どうか安らかに 神田沙也加さんのご冥福を心よりお祈りいたします。

 

という言葉を寄せてくださいました。

お互い真剣勝負のステージに立つことで、きっと「戦友」のような絆を感じられていたのでしょうね。

 

 

今回、沙也加さんが亡くなったことで、改めて沙也加さんの歌声を聴き、その素晴らしさに気付いた方も少なくない、いや、たくさんいらっしゃると思います。

そんな沙也加さんにもこんな時代があったのです。

 

個人的には、沙也加さんの最大の長所である透き通るような歌声は、ミュージカルには不向きのように思います。

何よりも、一番後ろの客席にまで歌声が届くことを求められる世界なので、時に儚く繊細な響きを持つ透明な歌声よりも、ある程度太くて通る声の方がミュージカルの適しているのかな、って、実際に観劇したことがないのでわからないですけれども。

 

でも、そこで終わる神田沙也加ではありません。

自分に足りない部分があれば、それを的確に分析し、改善方法を見つけ、日々、少しずつ上積みしていく。

その一つ一つの積み重ねが、後には自分自身の武器となっていく。

口で言うのは簡単ですが、誰にでもできることではありません。

っていうより、その部分の才能と努力が、突出していたように思います。

沙也加さんは、そこで積み上げた「武器」を、山のように持っていた。

そしてまだまだ進化の過程であった。

だから最強なんです。

 

先程、透き通るような歌声はミュージカルに不向きでは?なんて偉そうに書きましたが、そうやって、例えばピッチ(音程)のコントロールがしっかりできるようになったり、中低音でしっかりと声量が発揮されるようになったら、反対に、この透き通るような歌声が他には代えがたい魅力になると思います。

沙也加さんが歌い始めると、その場の空気が一瞬で澄み渡るような・・・。

 

今残念ながら動画にはありませんが、沙也加さんが2014年に出演した「ひめゆり」、この時の様子を追ったドキュメンタリーが放送されたことがありました。

この舞台での沙也加さんの透明な歌声は、本当に素晴らしかったです。

どこかに録画した映像が保存してあるはずなので、今度また観てみようと思います。

 

彼女のデビュー曲、自身で作詞した『ever since』の一節から。

 

壊れかけた夢 拾いあつめたら そう 立ち上がって

ずっともう前だけを見て 進んでいけばいいよ

そして僕らあいだを 駆け抜ける“夜”は今

確かに何かの意味を持って 僕らを強くしていくんだ

きっと そんなものだから

 

・・・そうやってあなたは、強くなっていったんですね。

 

 

どんなものにだって 耳をすまして歩く あらゆるものに

気づくことができるように 失わないように

 

あらゆるものに気付いて、失うどころか克服して、それを強みに変えていった沙也加さん。

この繊細な感受性が、彼女を成長させ、魅力あふれる存在へと進化させていったんだと思います。

 

・・・でも、もしかしたら、気付き過ぎちゃったのかな・・・?

時にはスルーしても良かったような・・・。

すみません、余計な話でした。

 

その後の沙也加さんの活躍、言うまでもありません。

 

2017年、「キューティ・ブロンド」。

この作品で、「第43回菊田一夫演劇賞」を受賞しています。

 

 

そして2018年、2021年の「マイ・フェアレディ」。

 

 

 

 

 

 

堂々たる主演女優のステージ。

もはや、ミュージカル界における大スターです。

その透き通るような歌声はホール中に響き渡り、観客を魅了する。

 

おっと、忘れちゃいけない、これもありました。

これもミュージカルと言っていいと思います。

 

*You Tubeで直接ご覧ください。

 

こちらのバージョンもありました。

 

まさに、アナが画面から飛び出してきたよう。

 

 

一言で言うと、沙也加さん、輝いています。

眩しいぐらいに。