『SWEET MEMORIES』①大村雅朗さんと『櫻の園』 | 「松田聖子」という奇跡

『SWEET MEMORIES』①大村雅朗さんと『櫻の園』

今日は本来、『ガラスの林檎』のB面、『SWEET MEMORIES』について書く予定でしたが、スイメモといえばこの方、作曲者の大村雅朗さんに触れないわけにいきません。
大村さんについてはいつか書こうとずっと思っていました。
福岡出身で、聖子さんと同郷という事で、聖子さんの良き相談相手だったと言います。
何でも「まあ君」「聖子ちゃん」と呼び合う仲だったとか。
何と言っても『青い珊瑚礁』からの付き合いですからねえ。
シングル、アルバムの編曲・作曲を合わせると、一体どれだけの作品で聖子さんと関わったのでしょうか?
聖子さんにとっては、一番忙しい時代を共に戦い抜いてきたかけがえのない存在だったようですね。

大村 雅朗(おおむら まさあき、1951年5月8日 - 1997年6月29日)さんは、肺不全のため46歳の若さで逝去されました。
聖子ファンの間でこそその名前は強く認識されていますが、この方、一般には名前がほとんど知られていません。
もともと編曲というのは、作曲や作詞と比べると、地味といえば地味な仕事ですね。
歌番組でも作詞・作曲は名前が出ても、編曲誰々、って出ない事も多いですね。
でも、それを差し引いても、大村雅朗という名前がもっと世に出て欲しい、と願っているのは私だけではないでしょう。

聖子さんの曲で大村さんのアレンジした曲といえば、何が浮かびますか?
たくさんありすぎてわかりませんね(笑)

そうだなあ……。
『夏の扉』、『未来の花嫁』のイントロはインパクトあったなあ。
『P・R・S・E・N・T』なんか、イントロ流れると鳥肌立つもんなあ。
『マイアミ午前5時』もいいし、『花びら』のラストなんか最高だよね……。
きりがないので止めましょう(笑)
迷いましたが、アレンジが際立っているこの2曲を選びました。
                               *ヘッドフォン必着です


イントロももちろんですが、ラストの♪バラ色の~♪からのギターが大好きです。

そして、やっぱりこれ。
あえてカラオケで。
                               *ヘッドフォン必着です


世間的にはほとんど知られていない大村さんですが、ここに大村さんの事を扱ったドキュメンタリー番組があります。
もうご存じの方もたくさんいらっしゃると思います。
大村さんに興味無い方は、聖子さんのデビュー前のデモテープの歌声が聴けると思って、観てみてください。
以前紹介した、南沙織さんの『色づく街』を歌っているものです。
それが聴けるだけでも価値があります。

でもこの動画、少し長いですが、本当に観た方がいいと思います。
聖子さんの曲を聴く時に、また一段と違う味わいを感じられるようになると思います。



もうなんも言う事ないっス……。
目から水が……。
「今は何だか一人で闘ってるような気がする」って、切ないなあしょぼん

こうして観ると、大村さんと聖子さんって、本当に強い絆で結ばれていたんですね。

ここで、VTRにもチラッと出てきましたが、大村さんが編曲した作品を振り返ってみましょう。
まさに、おっさんホイホイですグッド!

八神純子さんの『パープルタウン』。
あれ、複数いる作曲家陣の中に、『Citoron』で縁のある、あのDavid Fosterさんがいるにひひ
しかも、作詞は三浦徳子さん。
八神純子さん、歌上手かったなあ。
この頃は、渡辺真知子さんとか、岩崎宏美さんとか、歌上手い人が多かった。
大村アレンジ、当時としては斬新だったでしょう。



山口百恵さんの『謝肉祭』。
百恵さんはやっぱり本物だ!
しかしこのアレンジ、凄すぎる!
大村さんもキャパシティ広いですね。
何と言うか、今聴いても斬新です。



佐野元春さんの『アンジェリーナ』。
カッコイイ!
今にも走り出したくなるイントロ!
最高アップ



渡辺美里さんの『My Revolution』。
この曲に勇気づけられた人がどれだけいる事か。
これはもういかにも、いい意味で大村・小室(哲哉)コンビって感じですね。



この他にも、ばんばひろふみさんの『SACHIKO』とか、薬師丸ひろ子さんの『メインテーマ』とか、吉川晃司さんの『モニカ』等、挙げ始めたらきりがありません。

おっと、こんなのもありました。
中村雅俊さんの『時代遅れの恋人たち』。
「総理~!」(笑)
って、懐かしい~にひひ
改めて聴くと、この曲のイントロもインパクトあるなあ。



こうして振り返ると、大村さんの偉大さが良くわかりますね。
確かに編曲家というのは陽の当らない仕事かもしれませんが、逆にそれでもこれだけ支持を得ている大村雅朗さんって、本当に凄いんですね。


聖子さん、こんな凄い人と仕事をしていたんだなあ。

日本一の編曲家と日本一の作詞家、それに当時トップを走っていた一流ミュージシャン達が加わり、日本一の歌姫が歌う。
まさに無敵の聖子プロジェクト!


でも、こんな偉大な大村さんでも、聖子作品のハードルは高かったようです。
聖子さんのコンサートの音楽監督を務めたりした丸山恵市さんという方に、弱音を吐いたこともあるようです。
「もう辞めたい…聖子ちゃんのアレンジを続けていくのは苦しい」
と。
それに対して丸山さんが、
「冷静な目で見て、やはり松田聖子には大村さんのアレンジだよ。
苦しい時もあるけど、何とかしのいでやっていきましょうよ」
と励ましたとか。

大村さんはこと音楽に関しては妥協しない方で、佐野元春さんや渡辺美里さんらと衝突した事もあったとか。
聖子さんも成長するにしたがって自分の意見を主張するようになって、口論になる事もあったようですね。
そこで、間に入るのが松本隆さんだそうです。
凄い状況だなあ(笑)

でも、こういう話って嫌いじゃないです。
だって、お互いプロって事ですよね。
いいモノを作りたいっていう、プロ魂。
だから、聖子さん「一緒に戦ってきた」って言ってたんですね。
ただの仲良しではない、本物の絆。


『SWEET MEMORIES』については次回に書きますが、今日は『櫻の園』についてです。
私、恥ずかしながら長い事聖子さんから離れていたので、この曲を知りませんでした。
本当にお恥ずかしい。
戻ってきて、この曲を初めて聴いた時、びっくりしました。
こんな名曲があったとは。
そして、この曲を知らずに人生を終えないで良かった、と心底思いました。

この『櫻の園』は、大村さんが亡くなる前に、松本隆さんに詞をつけて欲しいと頼んだそうですね。
その際、「聖子さんに歌って欲しい」と頼んだとか、ただ詞の依頼をしただけだ、とか色んな話がありますが、私個人は、大村さんが松本さんに詞を託すとしたら、それはもう120%聖子さんに歌って欲しかったんだろうな、と確信しております。
松本さんはアルバム『永遠の少女』で、久々に聖子さんと仕事をする際に、この曲をアルバムに入れる事を交換条件に出したそうです。
それだけ松本さんにも、強い思い入れがあったのでしょう。

桜の歌って、卒業式シーズンになるとやたらと発売されます。
それだけ桜の曲を作れば売れるという事でしょう。
実際いい曲が多いですもんね。
桜は日本人の心と言ってもいい花ですし。
でも、松本さん、桜の事を書くのは少しそれまでためらいがあったような事を何かで言っていました。
すみません、ちょっと記憶が曖昧なんですが。
あまりに定番すぎて書けなかった、みたいな。
(『チェリーブラッサム』は、また毛色の違った桜SONGですからね)

でも、この曲では、桜を見事に書いていますね。
もちろん、亡き大村雅朗さんの事を書いたものでもあります。
まさに、松本隆渾身の歌詞だと思います。

櫻の園

Song for you 散り急いだ
無数の花が空を覆うの
木の下で振り向くあなたの幻
もう一度逢いたい

Song for you 花の音符
風の楽譜に並べて歌う
寂しいといつでもピアノを弾いてた
あの音が好き

雨上がりの櫻の園
散るために咲くから綺麗なの?
雨上がりの櫻の園
あなたの微笑みを
失って

Song for you あなたにだけ
囁くように歌ってあげる
肩に置く優しい両手の重みを
今もふと感じる


Song for you 辛い時も
いつも一緒にくぐり抜けたね
透明な気持ちが空へと上って
羽撃いてゆく

雨上がりの櫻の園
散るために咲くから綺麗なの?
雨上がりの櫻の園
あなたの頬笑みを
失って

Song for you 散り急いだ
無数の花が道を覆うの
木の下で振り向くあなたの影
さようならって手を振っていた
櫻は別れの花


もうこれ以上ない、っていうぐらいの素晴らしい歌詞だと思います。

♪散り急いだ 無数の花が空を覆うの♪

だけで、情景が浮かんできます。

♪花の音符 風の楽譜に並べて歌う♪

凄い表現だなあ……。

♪あなたにだけ
 囁くように歌ってあげる
 肩に置く優しい両手の重みを
 今もふと感じる♪


なんて大村さんがすぐ隣にいるようで……。

♪散るために咲くから綺麗なの?♪

これぞ、「桜」という花に対して日本人が持っている感覚そのものだと思います。
満開の桜ももちろん美しいけれど、散ってゆく桜もまた美しい。
それを人間の命になぞらえて、人の命のはかなさを、桜の花に投影していく。
これは、自然と共に生き自然と共に死んでゆく、自然そのものを神様としてきた日本人のごく当たり前の感覚です。

日本人は昔から桜の事を歌ってきました。

「久方の 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむ」紀友則

「願はくは花のもとにて春死なむ その如月(きさらぎ)の望月の頃」西行

「散る桜 残る桜も 散る桜」良寛

散りゆく桜は、人の命そのものなんですね。
「散るために咲くから綺麗」━人の命も、終りがあるからこそ輝くのでしょう。

♪辛い時も いつも一緒にくぐり抜けたね
透明な気持ちが空へと上って 羽撃いてゆく♪


私ここで泣きます。
必ず泣きます。
いや、イントロから泣いてるんですけどね汗

考えてみたらおかしな話です。
辛い時も一緒にくぐり抜けたのは、聖子さんであり、大村さんであり、松本さんなのに、何故私達が泣けるのか。
それはやっぱり大村さんが手掛けた聖子さんの曲が私達の心の中に沁みついていて、その想い出が蘇ると、私達も一緒に戦ってきたような感覚になるからなんでしょうね。

そしてまた「透明」という言葉。
この場合の「透明な気持ち」は、私は二つの意味があると解釈しています。
一つは、亡くなった大村さんの、浄化された透明な魂が天に昇ってゆく、という事。
もう一つは、聖子さんの故人を偲ぶ純粋な気持ち、透明な気持ちがスーッと天にいる大村さんの許へ昇ってゆく、という事。

あくまで私の解釈ですが。

でも、本当に「透明な気持ちが空へと上って 羽撃いてゆく」って、素晴らしい歌詞ですね。
これを透明な声を持つ聖子さんが歌うんですから、泣くなって言われても無理です。


聖子さん、この曲のレコーディングの時、号泣してしまったそうですね。
その時の聖子さんの心情を思っただけでも、また涙が……。

また、この曲の編曲を担当した石川鉄男さんという方、相当なプレッシャーだったと思いますが、いい仕事されたと思います。
大村さんのメロディにアレンジを加えるんですから。
私なんか、イントロだけで号泣です。

では、数々の名曲を残してくれた大村雅朗さんを偲んで、名曲『櫻の園』を聴きましょう。
この動画素晴らしいです。
遠目に出てくる男性、まるで大村さんご本人のようですね。
UPされた方、本当にありがとうございます。
                               *ヘッドフォン必着です


大村さんは編曲だけでなく、作曲もされていますね。
最後に大村さんが作った曲を振り返ってみましょう。
                               *ヘッドフォン必着です


「今は何だか一人で闘ってるような気がする」
なんて言わないでください、聖子さん。
大村さんの魂は、数々の名曲と共に、あなたの近くにいて、あなたをいつも見守ってくれているはずです。

$「松田聖子」という奇跡~ひとりよがり哲学-運命の人

そして、私達ファンも、あなたと一緒に、あなたの歌声と共に生きているんですよ、聖子さん。