《お見合い結婚体験談 備忘録》
【あらすじ】
高学歴で仕事熱心なアラフォーの娘を持つ父親が相談に来た。後日、母親と来て入会したが、相手目線に立ってお相手を選ばないのでお見合いが成立しない。そこで仲人が「お見合いパーティー」を彼女に勧めるところから始まる成婚ストーリーを投稿しました。
埼玉県さいたま市浦和区の結婚相談所 株式会社KMAのブログです。
《入会者 プロフィール》
【岸本節子(仮名)東京工業大学理学部卒・39歳・会社員・川口市在住】
【妻は仲人名人】
昭和から平成の時代にわたり、“仲人おばさん”としての経験を備忘録としてノートに書き留めていました。今は息子の嫁が仲人を継いでいますが、少し時間ができましたので、時代はとびとびになりますが、創業者が当時を思い出すままブログに書きます。
《婚期を逃した女性の父親が結婚相談で来店》
時代が前後しますが、仲人業を始めて20年くらいたった頃のお話しです。
ある日の午後でした。午後1時ごろ男性から電話が入りました。
「いま駅に着いたのですが、急とは思いますが、これからそちらへお邪魔してもよろしいでしょうか?」
「駅って北浦和ですか?ご用件はどのような…」
「娘の結婚につきまして、ちょっとご相談が…、あのう、たいへんお忙しいのに、もしご都合が悪ければ後日にしてもよろしいのですが」
「そんなに忙しくはありませんが、今日は午後からちょうど空いておりますので、これからでも結構ですよ」
「ああ、よかった。なんだか行き遅れた娘がおりまして…、最近その子のことで眠れないんですよ」
「まあ、お父様そんなところではなんですから、まずはお越しください」
娘を持つ親の共通した「叫び」である。特に年齢になっても嫁がない子供を持つと気が気でないのである。現代は、結婚しなくても周りもそういう人が多いので、案外のんびりしているが、当時は「世間体」を気にする傾向がまだあったようだ。
私自身はいろいろな年齢層を常に見ているせいか、結婚したい時が「適齢期」と考えている。しかし本人や、その周りの人は、むしろ焦ったほうがよろしいとも思う。むやみに本人をあおることはないが、周りにそうした波風がないと腰が上がらないというものであろう。
父親が部屋に入るなり、また同じことを繰り返す。
「娘が結婚しないと死んでも死に切れませんよ」
《本人が自発的に活動しないと結婚できない》
「ご本人に本当に意中の人はおられないのでしょうか。親だけが知らなくて、お嬢様にはお考えがある、ということもありますよ」
「いや、そんな方はいません。ゆうべもその話になって家内もまったく男の影もありません、とのことでした」
「ご本人に直接お聴きになられたのですか?」
と言ってみた。
結婚できない職場の上司や同僚と、永い間恋愛関係になっていたりするケースがある。そういう女性を入会させても、けっきょく結婚できない。ともすれば結婚相談所をうまく使って相手を探して、それによって現行の恋愛関係を解消しようと考える女性もいる。
そんなことでは相談所で異性と会っても、心を寄せることはできない。だから今の関係を断ってから来てくれなければ困る。そのことはこの父親には言わなかった。
「家内が2、3日前にも娘と話しをしたと言います」
「お嬢様はよほど会社のお仕事がお好きなようですね」
「会社の研究者です」
東京工業大を卒業して、大手食品会社の研究所に勤めて、課長職で、研究している部下も15名ほどいるという。年収も1,000万円は下らない。父親は言う。
「でもね、女はやはり結婚して幸せにならなければ、と思っています」
と言って、
「子供ができるかどうかということになると、ちょっと年ですから…」
「まあ女性の卵子というのは、男性と違って、年齢とともに年を取りますからね」
「へえそんなもんですか」
「まあ徐々に生みにくくなりますが、今すぐ結婚すればまだ間に合うと思いますよ」
「今すぐ相手はいますか?」
「います。いますがお嬢様のお気持ち次第です。入会しても熱心になさらなかったりしますとね」
というと、父親は安堵の表情に変わった。私は続けた。
「特にお嬢様は理工系の国立大の最高学府を出ておられますから、よほど熱心にやらなければ難しいです、お相手が限られますから…」
これまでは、女性ながら自慢の娘であったのであろう。私の言葉を聞いて、少し胸を張るようにした。
「まあしかし、それとこれとは別でしょうから、何とかアレでも貰ってくれる男がおればいいのですがね」
後日、日曜日に当の娘が母親に連れられて来社した。年齢には見えない若さがあった。
《自分の顔写真が掲載されることに抵抗感》
彼女はスタイルもいいし、可愛い。ただナヨッとしたところはなく、やはり学究肌という雰囲気はいなめない。私はひととおり話した。ただ彼女のいちばん気にするところは、当時は会員情報誌に自分の顔写真が載るということであった。
今はネットでID・パスワードを得た人しか閲覧できないからまだしも、当時は各相談室へ行けば見られる。相談室では異性のものしか見せないが、管理が悪いところでは同性のものも閲覧できる可能性もあるにはあった。今でいう個人情報保護の観点ではだらしなさすぎる。
「あなたそんなこと気にしていたら、こういうところへ入会しないと、失礼!」
と私に言い、
「お相手は見つからないでしょ?」
と母親は娘をたしなめた。
「まあ私どもでは同性のものを見せるということはしませんし、早くより良いご結婚をしていただくためのネットワークで、大勢の異性を選べますので、その利点を最大限利用します。で、会員制ということで会員以外は閲覧できませんし、そのことをご承知の上で入会していただきますから、それが不承知ということでは利用できません」
今でいうプライバシーポリシーというものである。このシステムはそういうことを含めて了解のもとで入会してもらっている。目を皿のようにして男性のプロフィールを見ていた母親が、
「せっちゃん、おおぜいの男性がいますよ、素晴らしい!」
と娘を見た。娘は、そういう言い方が、自分を入会させようとする母親の魂胆であることは見抜いているかのようであった。苦笑いしながらわざとのように「ふん」と横を向いた。娘は得心したように、入会のための書類を次々書いていった。
《相手目線に立って選ばないとお見合いは難しい》
当時はペーパーの会員情報誌であったから、入会手続き後、20日くらいしないと登録されない。掲載されたころ私は彼女を相談室に呼んだ。異性を選ばせようしたのである。しかし約2時間の間、あれこれ見ていて、何かをメモしたりしていたが、けっきょく帰り際、
「誰を選んでいいかわからないんです」
と半分泣きそうに言った。そういう会員さんもいる。私の経験では、世間の常識と、自分の選択基準が違いすぎて「選べない」ということになるのである。
「あなた何かメモっておられましたね。あれは予備的に選んだのでは?」
というとメモをよこした。よく見てみると、10名ほど選んだ中では、まず5歳以上若い男性とか、歳が近い人では美男子、いまでいうイケメンである。要するにギラギラした、いかにも男々した感じの人は一人もいない。しかも学歴は高卒、短大、大卒と雑多である。
「節子さん、高卒の方を選ぶのはいいけれど、あなたの学歴ではあちらが敬遠します。それ相応の方を選んだほうが確率は高いですよ」
「確率ですか?」
「そう、お見合いができる確率です。あなたの場合、有名な大卒じゃないと、むしろ相手にしてくれません」
「そうですか。私はぜんぜん高卒でもどんな方でもかまいませんが…」
「それとおおよそ5歳くらい若い人を選んでいますが、年下となるとさらに難しくなります」
「どの位の年齢の方がいいんでしょう?」
「同じ年から5歳くらい上を選びましょう。どうしてもという場合はお好みで選んでいいですよ。ただお見合いを実現させるためには、多ければ多いほどよろしいのですよ」
「そんなにたくさん選べません」
「そうね、あなたの場合は確かに選ぶのに限界がありますね。高卒や短大、ふつうの大卒ならいくらでも幅はありますがねえ」
「私ってそんなにもお見合いの確率が低いんですか?」
「低いです。お見合いパーティーでも出てごらんになれば、また違うかもしれませんね」
と言ってみた。私は当時200近い結婚相談所を束ねていた。
全国に2,000とか3,000とかの結婚相談所があったが、それらがネットワークすることで一相談所の会員はお見合いがしやすくなる。ところがそれは条件がいい人、良くない人が雑多である。当然確率としては条件のいい人がお見合いをしやすい。
ただお見合いがしやすい人が必ずしも結婚がしやすいとは限らない。交際の仕方にもよるし、その相談所のカウンセラーの導き方で相応の開きが出てくる。掲載誌の写真は「ものを言わない」。
《お見合いパーティーでマッチングの可能性》
お見合いパーティーでは異性としゃべるし、雰囲気が出るし、特徴を出せば「1対1」のお見合いよりも、自分をアピールできる。
当時から私は、日本産業カウンセラー協会の先生からの伝授で「SK法」と称する、初対面の人間同士が短時間で親しくなれるシステムを学び、それを異性がマッチングしやすいように改良して成功した。成功したというのは、現在もそれが寸分たがわず実行されているからである。最初は話下手、異性になれていない会員のために開催した、いわば集団システムパーティーであった。
「そのお見合いパーティー出てみたいです」
と彼女。ちょうど一週間後の日曜日である。「でもね」と私。
「あなたが出ても必ずしもぴったりの男性がいるとは限らないわ」
事実、私のところに参加する男女を、傘下の各相談所から提出させて集計するから、お見合いパーティーの参加者はここで全部わかる。だが今のところ彼女の学歴に匹敵する男性の参加者はいなかった。
「かまいません、参加させてくださいますか?」
なにか懇願に近い。私は、異性に馴れていない彼女の勉強のためだと思った。一万円の参加費がかかるが、これは私が持つことにして、彼女に「受付で参加費は支払わないでね」と言っておいた。
お見合いパーティーは浦和の「埼玉会館」の2Fの特別ルームであった。
お見合いパーティーは男女3対2程度に向かい合ったグループが5個くらいで始まった。こじんまりしている。司会の指示によって始まる。グループに分かれてはいるが、ルールで1対1の一問一答を繰り返し、話している二人の男女の短い会話をメンバーが黙って聞いている。順番が来るとしゃべればいい。
いつ結婚してもいい男女が集まっているので、臨場感があり、みんな真剣になる。慣れてくると、そこでは話下手も異性下手も超越して自分の良さを発揮できるようになる。
ひととおり全員の異性全員と簡単な会話が済むと、ビュッフェスタイルの料理が並び、食事タイムに変わる。
立食のテーブルをはさんで食べながら会話が聞こえる。静かなところへは、居合わせた相談室の仲人さんたちが会話を促す。
少ししたら「もう少し話したい」相手を番号で呼び出せる。呼び出された人は必ず応じる。そして二人だけの3分間は椅子をはさんで会話する。
その後「マッチングタイム」ではめいめいが異性のうち3人を好きな順に記入し、受付に提出する。当時はそれを集計するのに手作業であったので、結果が出るまでに40分ぐらい待たせた。今はパソコンのシステムに入力すれば即時に出る。
結果、彼女はマッチングした。3人選べるのに1人しか選ばずに提出していた。
相手も岸本節子さん1人しか選んでいなかった。
男性は駒沢大経済学部卒業で5歳年下の34歳、170cmの会社員であるが、ポチヤツとした色白で丸顔であった。彼女はどちらかというと面長の美人だからお互い好みであったかと思います。
《交際相手プロフィール》
【岩井睦夫(仮名)駒沢大学経済学部卒・34歳・会社員・上尾市在住】
《二人で子供を産まないという決断をしたのか…》
結果は結婚しました。彼女の家族からはなんの反対もなかったが、男性のほうの結婚相談所によると、やはり大学の、今でいう偏差値を逆に心配したのと、彼の収入は彼女の半分に満たないということであった。
しかし、新婚旅行先のハワイからの絵葉書、結婚披露宴を知らせる手紙には、私のことを「縁結びの神様」などと書いてくれました。
岸本節子さんのご両親、結婚している妹さんまでご挨拶にいらっしゃっていただいて頭を下げられた。そのたび私は「仕事ですから、役目を果たしただけです」というのだが、考えてみると、つらいことがあって会員さんと共に何度も泣いたこともあるが、この仕事をして後悔などしたことはない。
その後子供が生まれたという知らせはないが、彼女は賢いからそれもこれも彼と相談して「産まない」決断をしたのかと思う。産めるはずなのにそうしたのは、二人だけの人生を選んだのだと思います。
(この巻完了)
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