資源の少ないシンガポールでは、その立地条件(マラッカ海峡の南東に位置)を活かし、貿易と観光を経済活動の中心にしてきました。建国以来、外貨を稼ぎ国民生活に還元することが国家の使命であったようです。
 政府はシンガポール政府観光局(STB)を通産省の下に設置し(1964年)経済政策の中心を担わせています。政府観光局の事業収入としてホテルやレストラン等、観光の恩恵を受ける事業者の売り上げの1%を徴収しており、そのお金は事実上受益者の負担で成り立っています。
 前途のように国土が小さく、資源の少ない同国では海外からの観光に頼らざるを得ないため、観光産業は国策の中心です。近年では中国、インド、東南アジアからの訪問者の増加を図るため、観光資源の開発、ビジネスのマッチングを目的としたマイス産業(※1)の振興に力を注いでいます。

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 シンガポール政府観光局の組織としては、通産大臣が指名する理事長、10名の理事、理事長が指名する局長から構成されています。世界に20箇所の支局があり、ほとんどがアジアに集積しています。日本にも東京に支局を置き6人の職員が常駐して対日本の戦略を担当しています。
 上記のように、シンガポール政府観光局のミッションは観光プロモーションをするだけでなく、長期的な視点に立って政策を立案し、土地活用等の提案を行っています。例えばチャイナタウン、リトルインド等の開発に様々な提案を行いながら共同の街づくりをしています。シンガポール政府観光局が街づくりを主軸的に行うのではなく、観光産業の競争力を引き出すことを目的として、プロモーション、マーケティング等まちづくりを積極的にバックアップしています。

 更に、顧客満足度をチェックし、マーケットごとのニーズを個別に調査し、国ごとのニーズに的確に対応しています。例えば、中国は「セレブ、ブランド」インドには「絆」を求める人に刺激を与える対応となっています。無論、国ごとでシンガポールに持っているイメージや評価は異なるため、日本人の海外旅行者にターゲットを絞って戦略を立てる場合、考えに賛同する旅行会社と組んで営業活動を行っています。メディア戦略では国ごとのニーズに合わせた情報を限定的に発信し、対日本戦略では「ストレスとリラックス」をテーマとして位置付け、更なる開拓に余念がありません。
 来訪者の多くはマレーシア、インドネシアなどの地理的に近い国からですが、経済発展著しい中国やインド等からの来訪者が急増しており、戦略通り76%がアジア諸国からです。日本からも年間に70~75万人が観光やビジネスでシンガポールを訪れており、順調に推移しています。2010年の観光収入は188億シンガポールドル(1兆2,220億円)であり、国内総生産の6%を占めています。

 従来の戦略では定量的(人数)なことに重点を置き政策の評価をしてきましたが、今後は、「量」ではなく観光の「質」を重視する政策に転換しています。質の向上のキーワードは「教育と家族」。シンガポールでは子どもが楽しめる施設が全くなかったこともあり、観光資源である河川敷や護岸等のインフラ整備を図りながら、「スポーツ施設」「動物園、ナイトサファリ」「自然公園」「テクノロジー」といった分野を通じて、楽しみながら学べるような施設の建設にも力を入れています
 2003年のシンガポールの重症急性呼吸器症候群(SARS)流行や2008年のリーマンショックでは一時的に経済が停滞しました。しかし、現在では順調に経済発展を遂げており、2010年の来訪者数は1160万人と過去最高を記録し、戦略は成功していると言っても過言ではありません。
 シンガポールでは1990年と比べてGDP(国内総生産)が約2倍になっていますが、その過程でカジノも大きな役割を果たしています。国論を2分して始めたカジノですが、年間で約2,000億円の利益が出ていることと併せて、国民の入場を制限する政策が功を奏し、今では国民の大多数が支持しています。
 シンガポール政府観光局は「観光」「エンターテイメント」「ファッション」「サービス」などの産業等を通じて、国全体の街づくりに深く関わっています。

(※1)マイス産業:「Meeting(M), Incentive(I), Conference(C) & Exhibition(E)」の略語で、旅行業界にあって比較的景気の動向に左右されにくいとされている項目。


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